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失われた書と守護の国
転移所
しおりを挟む家があるル・ハラの森を抜けた先には、平坦な道が続いていた。この道をさらに進むとル・ホルの村があったのだが、そちらへは行かず迂回して先を進むらしい。
記憶にあるル・ホルの村は、ただ広大な麦畑が広がる農村だった。しかし百年で道は整備され、大きな町へと変貌を遂げていた。
初めて見る百年後の外の世界に、ティウは驚きが隠せない。
「あの村が、こんなに大きくなったの!?」
現在の町の様子が見やすいようにと丘の上へと向かい、足を止めてくれたジルヴァラに、ティウは興奮気味に言った。
「元々は小麦の産地だったから商人の往来はあったんだが、気付けばどんどん人が集まってきたんだ。まあ、一番の理由はノアのじーさんじゃないかと思っている」
「え? じーちゃん?」
どういう事かと聞いてみれば、ノアが造る魔道具が百年で有名になりすぎたのが原因だった。
魔道具の材料である様々な鉱石や魔石は元々価値が高い。それを大量に購入し、そして原型となる魔道具を造っては、ル・ホルの商業ギルドへと卸していた。
それらのお陰で自然と町の金の回りが良くなったことで、近くに創造の賢者であるノアがいるのではないかと自然と特定されていったようだ。
「商人が町に滞在すれば、その分の食料やらもいるしな。行き来が面倒になった奴らは移住して来たりしたんだ」
だが、卸す場所が一点に集中するのは治安の意味でも危ないと、ゾン達も協力して友好国に限り優遇して鉱石を買い付けたり、別の国を通して魔道具を卸したりしているらしい。
長寿種族にはない人族の強みは、他の種族よりも高い繁殖力と進化が早いことだ。それらをまざまざと見せつけられた気がした。
「じーちゃんも凄いけど、人族も凄いなぁ……」
この風景が人族の進化の過程を見逃した百年なのだと思うと、それを直接見れなかった事が少しだけ残念だ。
溜息をこぼすティウをちらりと見たジルヴァラは、元気づけるように明るく言った。
「これからは知らないことがいっぱいあるぞ」
「……うん!」
「じゃあそろそろ行くぞ」
「はい!」
ジルヴァラはくるりと旋回して、元の道へと戻って駆けていく。
その先には一面の麦畑がしばらく続いていたが、そこを抜けるとまた森があった。
「入るぞ!」
「わっ」
道から外れた場所で急に向きを変え、ジルヴァラはガサリと音を立てながら森の中に入っていく。
この森はル・ハラの森ではなく、隣町の領土であるラ・メルの森だ。
入り口付近には人の出入りがあるのか、草や森の枝などが切り開かれた道があったが、ジルヴァラは構わずずんずんと奥へと進んでいく。
次第に獣道のような所へと変わり、ティウの身体に枝や葉がかすめていった。
先程の結界は風を避ける程度の弱いものだったので、今度はさらに強化を増し、ジルヴァラの身体丸ごとすっぽり入るサイズまで大きくした結界を施した。
ついでに回復魔法を定期的に少しずつかけていた。疲労も改善され、お陰で自分のお尻も痛くない。
乗せてもらって楽をしているのだからと、ジルヴァラに支援魔法も忘れずにかける。そのお陰なのか、予定よりもずっと早く進んでいるらしい。
「ティウの魔法は便利だな」
「そうですか? 良かったです!」
それからは結界のお陰で難なく進めたからか、さくさくと進んだ。昼になる頃には最初の目的地に着く。
そこは少しだけ森が切り開かれており、森の中にぽっかりと日が差し込んでいるような場所だった。幾つかの切り株があるが、切り口を見ると日がだいぶ経っている様に見えた。
切り株を足場にして、ティウはジルヴァラの背から降り、座りっぱなしで凝り固まった身体を伸ばした。
「う~~ん……!」
深呼吸をして、ぽんっと切り株から飛び降りたティウは、物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回した。周囲は切り株ばかりが沢山並んでいたが、奥に農具置き場のような小さな小屋があるのが分かった。
「これは?」
「ノアのじーさん達が設置した転移所だ」
「えっ……そんな物まで作っちゃったの?」
一族はノアが作った転移魔道具を持っている。自身の持つ魔力の量と比例した距離が飛べるその魔法陣は、特定の場所に設置してあった。
旅をしているゾン達も当然の事ながらよく使っている。
しかし今回はジルヴァラが一緒なので特別だ。転移魔道具は膨大な魔力を消費してしまうので、魔力量があまり無いと思われるジルヴァラに扱えるとは思えなかった。
「転移……まさかこれでミズガルまで?」
「ああ。世界各地に設置されていて、今回はミズガル付近に繋げるんだ。そこから歩いて一週間くらいの旅になるだろう」
「ええええ! 三ヶ月はかかると思ってた!」
「昔はな」
百年でこれほどまでに便利になっているとは思わなかった。
さらに最近では道の舗装が至る所で行われており、馬車も早く進めるようになっている。馬や馬車でも三ヶ月以上かかっていた道も、今ではほとんど一ヶ月ほどで済むそうだ。
「そういえば私が眠った時は、どうやってミズガルから帰ったんですか?」
ノア達が研究していた転移魔法は百年前の時点で一応実現はしていたものの、まだ研究段階で近場しか飛べなかった。
「ゾンのじーさんがドラゴンに獣化して空を飛んだ」
「確かにすぐ帰れる……」
「一応、この小屋自体が魔道具で、ノアのじーさんが許可した者しか見えないようになっている。ティウの家と一緒だな」
「時の流れが身に染みる……家族はそのままなのに、まるで知らない世界に来ちゃったみたい」
「フッ。そうか」
ジルヴァラが微笑ましそうにティウを見て笑う。人化した姿になった彼と一緒に空を見上げた。太陽は真上にあって昼だと分かった。
「先に飯にしないか?」
「はーい!」
ティウは帆布で作られているショルダーバッグから、その大きさには見合わないサイズの布やピクニックバスケットを次々と取り出した。
これもノアが作った魔道具で、一般に呼ばれている名前は「時空袋」という。
世間一般的には大中小と大きさが決まっているそうだが、ティウが使っているこちらは一族限定で本人の魔力と連動させた、大きさから時間の経過も無限の「無限時空袋」である。
時空袋も最初は家族しか持っていなかったが、今では世間にも高級魔道具として販売されていた。
しかし大変高価で、小~中ほどの大きさで貴族の屋敷が一軒建つほどの値段がする。
ジルヴァラから大っぴらに使わない方がいいと注意されてティウは何度も頷いた。
「切り株を椅子にしてもいいかな?」
「ああ」
どれに座ろうかとティウ達が切り株を見比べていると、一人分座れそうなくらいの年輪がある切り株が三つ、一列に並んでいる場所があった。切り株同士の幅も丁度良い。
「これにしよう!」
真ん中をテーブル代わりにして、お弁当の入ったピクニックバスケットを置いた。
無限時空袋の中は時の流れが止まっているというのを利用して、ティウは沢山のお弁当を作っていた。それらはもちろん三人分で、ノアの分は別にして渡してある。これでしばらくノアも食事に困らないだろう。
チキンの照り焼きを挟んだバゲットの他に、卵サンドや、ハムとレタスとトマトを挟んだサンドイッチを取り出していると、ジルヴァラの耳と尻尾が忙しなく動いた。
「美味そうだ」
「ありがとうございます。沢山ありますよ!」
「食べても良いか?」
「はいどうぞ!」
ティウが照り焼きを挟んだバゲットを渡す。ジルヴァラが大きな口を開けてガブリと一口食べたと思えば、その手の中の物は半分になっていた。二口目には無くなっている。
「すごい!」
ティウが一口目を咀嚼している間に、ジルヴァラは次のサンドイッチに手を伸ばしている。
バクバクという描写がこれほど似合う食べっぷりはないだろう。思わず感心して見とれてしまうが、ティウも負けじとバゲットに齧りついた。
甘辛いタレをパンが吸い込んでとても美味しく出来ていた。まだ温かいので、作りたての美味しさが味わえるのが嬉しい。
「ん、我ながら上手くできた」
「美味い。本当に美味い」
ティウにとって料理は調理法を知るのも作るのも好きだが、一番励みになるのは美味しく食べてくれる存在だ。
ミズガル国に着いたら、先ずはその国の料理を食べ尽くすと決めていたが、ジルヴァラが美味しそうに食べてくれるがとても嬉しい。
それにジルヴァラの胃袋はとても強みになると思った。
ジルヴァラの胃の部分を思わずキラキラした目で見ていたせいか、嫌な予感がしたジルヴァラが「ティウがノアのじーさんと同じ目をしている」と呟いた。
「その胃袋……お店で食事を頼む時にいっぱい頼めそうですね?」
「俺はティウの料理だから沢山食べれるんだぞ」
「え?」
「ティウが作ってくれたら食う」
「ええー……ミズガル国に着いたら食べたい物いっぱい注文しようと思ったのに……」
「一緒に食うが、ティウが食べて調理法を覚えて俺に沢山作ってくれ」
「それは作りますけど……注文……沢山……」
しゅんとしたティウの声が、だんだん尻すぼみに小さくなっていく。
うつむきがちになっていくティウの様子に、ジルヴァラがたじろいだ。
「ぐっ……ティウは間違いなくノアのじーさんの孫だな」
「ハッ!」
もふもふだ~! と叫んでいたノアの異様な姿を思い出して現実に返ったティウは、同じ顔をしていたのかと思わず自分の両頬を押さえて解していた。それを見たジルヴァラが声を上げて笑い出した。
「いいよ、食ってやるから沢山頼め」
「適度に頼みます! でも気になっちゃうと何でもかんでも頼んじゃうと思うから、気付いたら止めてください」
「ああ、分かった」
「やったー! ありがとうございます!」
「まあ、余ったらこっそり時空袋に入れてしまうという手もある」
「ふぁああああ! なんてことを……!! それもします!!」
「も……?」
「えーと、その場で食べる用、お土産用、保存用、研究用……」
「待て待て、落ち着け」
そんな賑やかな会話を楽しみながら二人は食事を続けた。ジルヴァラはさらに追加で出した牛の蒸し焼きが大変気に入ったようで、何度もおかわりをしていた。
満足するまで食べ終わると、ピクニックバスケットを無限時空袋に回収するだけの簡単な片付けをして、身支度を整える。
「さあ行くか」
「はい!」
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