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失われた書と守護の国
二人の呼び名
しおりを挟む「俺は転移陣を起動させる鍵を預かっているが、ノアのじーさんと血が繋がっているティウはそのまま入れるそうだ」
「じゃあこれ、遺伝書録に似た作りになってるのかな?」
「そこまで俺には分からないが、転移を発動させるための力は一族の魔力以外は受け付けないと聞いたな。鍵は魔力を固めて作ってあるとか言っていた気がする」
「じーちゃん本当に器用なんだから……」
凄すぎて呆れた声が出てしまった。同意だとジルヴァラも笑った。
「そういえば、ノアのじーさんは物を作るのは上手いのに、どうして料理は下手なんだ?」
「待って、それは私が魔道具作れないのと一緒ですよ!」
「……なんでだ?」
「興味が無いから、です!」
「…………そ、そうか」
ティウが即答すると、ジルヴァラはちょっとたじろいだ。
「じゃあ、ティウが料理が上手いのは興味があったからなのか」
「はい。私の場合は祖母の影響ですね。作り方は豪快なのに、出来上がると見た目の期待を裏切って、とっても美味しいの」
「へえ」
「見た目と違ってすっごく美味しいから、なんで? って疑問に思ったら一直線でした」
「なるほど。興味だな」
「興味なんです。でも、じーちゃんはもっと不純」
「ほう?」
「じーちゃんは持ってる魔力の属性が多いのに配分が均等なんです。でも、属性同士が反発しあって魔道具の補助がないと魔法が使えなくって。だから仕方なく、自分用に調節した魔道具だけを作っていたの」
「……それが不純なのか?」
「ううん、ここから!」
ティウは昔聞いた話を思い出して、思わずふふっと笑った。
「魔神族のばーちゃんとたまたま出会って、ご飯をご馳走になったら美味しくってもっと食べたい! って思ったんだって。ばーちゃんが欲しがってた魔道具を頼まれてもいないのに作っちゃって、これあげるからご飯作って! ってじーちゃんがお願いしたの」
「お、おう……?」
「そしたらばーちゃん、じゃあ、もっと強い魔道具くれ! って言ったんだって」
「さすが戦闘民族の魔神族……」
「あはは! じーちゃんは、ばーちゃんの料理が食べれるなら! っていっぱい魔道具を作ったのがきっかけなの。ばーちゃんに胃袋捕まれちゃったのかな?」
「……む、そこは笑えないかもしれない」
「え? 何か言いました?」
「いや、なんでもない」
笑えないぞ……と何やらぶつぶつ聞こえてきたが、ティウは何のことだろうと首を傾げる。教えてくれないという事は、きっと触れない方が良いのだろう。
「私の場合は料理や調味料の材料に行って、食材となる植物とか薬とかに枝が伸びた感じですね。……ばーちゃんが戦死した時に、もっと回復魔法を覚えておけば良かったって後悔して……気付いたら、薬の製法や回復魔法の知識をかき集めてました。きっかけはどうあれ、やっぱり興味なんだと思います」
思い出話をしながら小屋の扉を開くと、中はがらんとしていたがとても狭かった。室内には床から壁、天井にいたるまでビッシリと白く光る魔法陣が刻まれている。
ティウがまじまじと魔法陣を観察して解読していると、ジルヴァラが部屋の中に促した。
「ティウ、中央の円の中に入ってくれ」
「はい」
言われた通りに中央に進むと、魔法陣の真ん中に小さな鍵穴があることに気付いた。
簡素な革紐で括り付けられた大きめの鍵がジルヴァラの胸元から出てくる。それを首から外し、鍵穴に鍵を差し込んだ。
ジルヴァラが足元に屈み、鍵穴に鍵を差し込んだ瞬間、魔法陣がぶわりと光る。
室内が光りに包まれると、ジルヴァラがその鍵を右回りに回した。カチリと金属のような音がする。
ブオン、という音と共に、景色が真っ白になったのは一瞬だった。これは転移魔法を使う時の感覚と同じだとティウは気付く。
室内の光りが消えると、変わらず狭い同じ部屋にいた。
「転移……した?」
いまいち変化が分からなかったが、ジルヴァラが鍵穴から鍵を抜くのを横で眺めていると、ここで少し待っていろと言われた。
「外を確認してくる」
「はい」
この小屋はノアの許可がない者には見えないと聞いていたので、急に何も無い所から人が出てきたら不審に思われるかもしれない。
なるほど、とティウは一人で納得しながら言われた通りに邪魔をしないように静かに待った。
わりとすぐにジルヴァラは戻ってきた。
「大丈夫だ。行こう」
「はーい!」
「ここからは徒歩で行く。ミズガル国ではフェンリルの存在は有名で目立つんだ。すまない」
「いえ、むしろ今まで楽をさせてくれてありがとうございます」
頭を下げると、ジルヴァラは何だか悲しそうな顔をした。
「その、提案なんだが。敬語は止めてくれないか?」
「え?」
「俺達は兄弟としてミズガルに向かうんだろう? その、なんだ……距離を感じる」
確かにその通りだ。記憶が無いせいで一方的に距離を取っているのはティウだけなのだと改めて思い知らされた。
ジルヴァラは百年前からずっと側にいて、ティウの目覚めを待っていたのだ。
「あの……すみません」
「いや、仕方ないのは分かっているんだ」
「ううん。無理をお願いしているのはこっちなんだから、気になったなら何でも言って! 今の私には記憶が無いから戸惑っていて……本当にごめんなさ……あ」
「ふっ。そうだな……いや、こっちこそ強要してすまない。じゃあ改めて、だな」
「うん!」
「じゃあ、俺のことは何と呼ばせようか……口裏は合わせていた方が良いだろう?」
「えっ……お、お兄ちゃん……とか?」
「うーん。ジル。簡単だろ?」
「でも兄弟でしょう?」
「ジル」
「呼び捨てはまだちょっと……ジルお兄ちゃん」
「……まあいいだろう。なぁティウ、二人っきりの時はジルと呼んでくれるよな?」
「う、うん。ど、努力しま……あっ」
「ほら、言ってみろ」
「今!?」
「今」
「う……ジ、ジル」
「なんだ?」
ティウの呼びかけに、ジルヴァラは嬉しそうに笑った。
その笑顔を目の当たりにしたティウは、自分の顔が熱くなる。
「よ、呼べって言ったのジルじゃない!」
「くっくっくっ、言ったな」
「……もしかして、ジルってちょっと意地悪なの?」
「そんな事ないぞ。俺はティウにだけ優しいんだ」
面と向かってそんな事を言われたティウはこれ以上ない程に顔が真っ赤になっていたが、自分では気付かない。
「知ってる!」
照れながら苦し紛れにそう言うと、嬉しそうなジルヴァラがいた。
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