100年後の賢者たち

松浦

文字の大きさ
14 / 46
失われた書と守護の国

100年後の道具に興味津々

しおりを挟む


 次の日の朝食も、ジルヴァラの甲斐甲斐しいお世話によって食事を終えたティウは遠い目をしていた。

「ジルお兄ちゃんの甲斐甲斐しさに慣れたらダメな大人になりそう。あれ、そういえば私もう大人では……?」

 中身は十六歳だが、三年分の記憶喪失と共に、そこからさらに百年も寝ていたので時間の感覚などどこにもない。

「でも実際は百十九歳……これはもう介護なのでは……?」

 自分で言って落ち込んでしまう。
 精霊科に属するものからエルフ族にいたるまで、基本長命種族は大体百歳を超えると成人となる。
 今日もジルヴァラに抱えられて落ち込んでいると、なぜかジルヴァラは問題ないと自信満々に言った。

「ティウは成長が遅いから大丈夫だ」

「それは遠まわしに介護じゃないって言いたいんですかね……?」

 そんな事を言い合いながら向かった先は、ティウお目当ての本屋だった。

 百年前の本は、「超」が付くほどに高級品だったが、今や当たり前に売られていると聞いてティウはわくわくが止まらない。
 中には不揃いで色の悪い紙を束ねて紙に判を押しただけの物もあったり、廉価版から革表紙の高級品と一括りに本とはいえその種類は幅広いようだ。

「料理の本、あるかな!?」

 早く行きたいが道が全く分からない。さすがに本屋の場所はジルヴァラも分からないので、人に尋ねながら本屋を探し、ようやく到着した。

 日に当たると紙が痛むからか、ちょっと高級店のような店構えをしている店のドアを潜ると、ドアベルの音がした。そして奥の方から店員の「いらっしゃいませ」という声が聞こえてきた。

 目の前に広がった本の山に、ティウの目はらんらんと輝いた。

「全部欲しい!」

「それはさすがに落ち着け」

 抱っこされたままでは満足に身動きが取れない。「下ろして下ろして」とティウがじたばたと暴れると、ジルヴァラから苦笑された。
 自由になったティウは一目散に植物図鑑と料理のレシピ本をピックアップし、どれを買おうかと頭を悩ませていた。

(図鑑だけでもこんなに種類があるなんて……!)

 百年前は羊皮紙が当たり前だったのに、本屋に来るまでの道中、さまざまな場所で紙を見た衝撃が脳裏に焼き付いて離れない。

(来る途中も「チラシ」っていうのをもらっちゃったし、紙って高級品じゃなくなったんだ)

 紙を宣伝に使うなんて、ティウからしてみれば青天の霹靂だ。触ってみたら羊皮紙と手触りも重さも違っていて、原材料から気になるしで楽しくて仕方がない。

「色も付いてるって凄くない!?」

 チラシを見たティウの目は輝いていた。それを見たジルヴァラは、そこからかと苦笑した。

 十冊目の本を手に取ろうとした時だった。店内で簡易な革手帳を見つけたティウは、それに釘付けになった。
 それは束にした紙の真ん中を紐で綴じ、二つに折りたたんだだけのものだった。
 表面だけ鞣された革が使われている。この革に紙を挟み、一緒に綴じられているという旅行者用向けの代物らしい。

(旅行手帳……?)

 特別な何かを感じたティウの目は、その手帳から目が離せない。

「これ買う!」

「なんだ、それ?」

「これ、旅行手帳って言うんだって!」

 旅の思い出を挟んだり書いたりするものらしい。ティウはいそいそと本と手帳の代金を支払うと、さっそくその場で先ほどもらったチラシを挟んだ。

「糊で貼ったらどうだ?」

「のり?」

「あ~……昔はなんて言ってたんだ? こう、物と物をくっつけるベタベタした液」

「にかわ?」

 ティウが首をこてんと傾げる。ジルヴァラが「……たぶん違う」と言うと、話が聞こえていたのであろう店員が教えてくれた。

「小麦粉を煮て作る接着剤ですよ」

「えっ、小麦粉!?」

 何それと夢中になってしまうのは仕方がない。大切な食べ物である小麦を食べる以外の用途に使うなんて発想は、百年前には考えられなかった。

「それで紙と紙をくっつけるんだ。ノアのじーさん達が使っているのは見ていたが、俺もどんなものが材料かは知らなかったな。小麦粉だったのか……」

 賢者の一族は魔力で遺伝書録アニマリベルに記録してしまうので、紙と羽ペンのようなものはほとんど使わない。
 今では手紙の封にもこの糊が使われるそうだ。百年前は封蝋といって、蜜蝋を使っていた。
 昔使われていたものが、逆に今では高級品らしい。

「そうだ! 羽ペンとインクも買います!」

 ティウが店員にそう宣言すると、店員はどこか戸惑っていた。背後でジルヴァラがその理由を教えてくれる。

「ああ、それなら万年筆というのがあるぞ。今は鉛筆という木炭が主流で、羽ペンは高級品になっている」

「えーー!!」

「ノアのじーさんが羽ペンにインクをいちいちつけるのが面倒くさいと万年筆を作ったんだ。ここにも売っているとは思うが……」

「じーちゃーーん!」

 面倒くさいっていう理由だけでそんな物を作るなんてと思ったが、いつもの事だったとすぐさま納得してしまう。

「万年筆ってありますか!?」

 ティウがらんらんと輝いた目で聞けば、店員は笑いながら万年筆を持ってきた。

「インクのお色は如何いたしますか?」

「インクに色……?」

 黒以外のインクの色を知らないティウは目を瞬かせる。
 万年筆とは、ペンの中にインクを仕込んだものだった。インクの色を確かめるために試し書きをしていると、どこか既視感があった。

(あ、遺伝書録アニマリベルを書くときに使う魔力のペンと似てるんだ)

 遺伝書録アニマリベルのインクは術者の魔力なので、羽ペンを使う時の様にインクにつける必要がない。
 それに慣れてしまっていたノアが、面倒くさいと言って作ってしまったのだろう。

(じーちゃんらしい~)

 少し呆れながらもインクとにらめっこをして、茶色のインクに決めた。

「最初は茶色ですが、このインクは経年変化で黒に変わっていきますよ」

「何それかっこいい……!」

 どういった仕組みでそうなるのだろうか。キラキラした目をしながらインクが入った瓶を両手に持ったティウが感動する。

 そんな経年変化など、時が止まっている遺伝書録アニマリベルでは味わえないから尚更だった。

(百年の進化すごい!)


 ティウは満足いくまでさまざまな物を買い込んだ。
 ほくほくになっていると、ジルヴァラが提案してきた。

「いい時間だが飯はどうする? それとも頭が重いなら一度宿に戻るか?」

 ティウは本屋で買い込んだ大量の荷物を見て「あっ」と声を上げた。

「人が多い所で荷物を無限時空袋に入れたら危険だよね……宿に戻る?」

「分かった。ついでに記録したらどうだ?」

「そうする!」

 丁度良いからインクの経年変化も書録に記録されているかもしれないと、ティウ達は一度宿へと戻ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

処理中です...