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失われた書と守護の国
ノアの魔道具
しおりを挟む食事から戻ったティウ達は、荷物を整理しつつその後すぐにシャワーを浴びることにした。
昨日は移動と初めての旅で気疲れしていたのもあって、ジルヴァラがバスタブにお湯を張ってくれたのを使っただけだった。
家にあったシャワーの仕組みと宿のシャワーの使い方が別物だったので、ティウは服を着たままジルヴァラに説明を受けていた。
いまだにトイレやシャワーの仕組み一つ一つに驚いてしまう。さらにこれを作ったのがノアだと言われて、二重三重に驚いた。
「ノアのじーさんは何でもかんでも魔道具を作ろうとするが、もはや癖なのか?」
「うんそう。昔、困ったら作ればいいって言ってた。それにしてもこの仕組みすごくない!? 普通に感動しちゃった!」
今日こそはシャワーを使ってみたいとお願いして先ほどから説明を受けているが、うっかりノズルの真下で魔道具を作動させてしまった。
「のわーー!」
これでもかと水を被ってしまったティウは、ジルヴァラに笑われながら救出された。
ティウがブルブルと頭を振って水気を飛ばしていると、それを見たジルヴァラが神妙な顔をした。
「その耳、変装だよな……?」
「え?」
何のことだとティウがきょとんとさせていると、ティウが頭を振った仕草が獣人そのもので驚いたようだ。
「でもこの耳、不思議なんだけど痛覚があるみたいなの。さっき耳に水が入って気持ち悪くてビックリした! 人の頭の上にある犬耳って真上に耳の穴があるから、水が入りやすいのかな?」
「どうなってんだ……?」
顎に手を当てて唸るジルヴァラにティウが笑った。
「じーちゃんの魔道具は謎が多いよね。感情で動くくらいだし、もしかしたら痛覚とかもこだわった一つなんじゃないのかな? なんせ凝り性だし!」
「…………そうか」
いまいち納得がいかない顔をしながらタオルで拭かれそうになったが、このままシャワー浴びちゃう! と、お礼を言いながら風呂場からジルヴァラを追い出した。
それからしばらく経ってシャワーを浴び終わったティウは、ほくほく顔で「楽しかった……」と呟いた。
「ああ。ここまで声が聞こえていたぞ」
「へへへ」
魔道具の一つ一つに感動していたら、無意識に声に出ていたらしい。子供っぽかったかなと少し照れくさくなった。
「お次どうぞ!」
「ありがとう」
新しいタオルをジルヴァラに渡し、その背中を見送る。
そういえばどちらの姿で風呂に入るのか疑問に思っていたが、ジルヴァラは人化したまま風呂に入っていた。
(肉球で魔道具の操作は難しいよね)
ティウはうんうんと一人頷いた。
(あ、そうだ。荷物……)
ジルヴァラがお風呂に入っている間に、ティウは荷物の整理などを済ませる事にした。
明日のギルドに顔を出す予定の時刻を確認して、終わった後の行き先をジルヴァラに相談しようと予定を組み立てる。
(明日は朝の屋台を見ながらご飯食べたいなぁ。朝市場でそのまま食料品を買いだめしたいし……ミズガルを出る前にも、もう一度本屋に寄りたいし……)
本はレシピ本と植物と魚の図鑑に絞って買ったが、手帳にくぎ付けになってしまったのを思い出す。
(でも、とってもいい買い物ができたと思う!)
旅行手帳の表紙の革を撫でながら、ティウは最初のページをめくった。
街の地図を見ながら、一つ一つ予定を立てて、手帳に書き込んでいく。さっそく使えるのが何より嬉しくてたまらない。
この百年で活字率が上がり、本が安価で出回るようになったという事実がティウにとって何より朗報だった。
(予定は書いたけど……他にも書きたいな)
初めての旅、戸惑ったこと、新しくて驚いたこと、嬉しかったこと、美味しかったもの……そんな他愛無いものも何でも書いた。
その日一日の出来事や次の日の予定を書き込んでいくという行為が、今日一日を大事に過ごした証な気がして幸せを感じる。
「へへへ……」
もらったチラシを丁寧に畳み、ノートに挟んだ。遺伝書録とはまた違った感覚にティウは夢中になった。
興味があると優柔不断にあれもこれもと貪欲に求めてしまうので、ティウはこうして日記に先の予定を書き込んでいくのを日課にしていた。
(チラシはあとでのりで貼り付けよう。新鮮~!)
チラシをはさむ事で、文字だけの日記とは違った思い出がよりリアルに思い出されると気付いた。読み返す時の楽しみがさらに増す事に気付いて、ティウは感動した。
「これは新しい習慣にしてもいいかも……! あ、待って。この調子で書いてたらあっという間にページ無くなっちゃう!」
一日に二ページも使っていたら、あっという間になくなってしまう。ティウは慌てて予定に「旅行手帳の買い足し」と付け加えた。
ざっと荷物の整理と明日の予定を確認し終わったら、ティウは深呼吸を一つして姿勢を正した。
「書録はお母さんのを確認、と……遺伝書録!」
アニマリベルを発動させてざっとミズガルの歴史が記されている書録を取り出す。
恐る恐るそのページを開こうとしたが、ちょうど百年前から現在にかけての書録に鍵がかけられているのが分かった。
「むむむ……!」
魔法陣の中から次から次に書録を取り出すが、どれも鍵がかかっていて中を見る事は叶わない。百年前のミズガル周辺地域などの記録も鍵がかかっていた。
ティウが間違って見てしまわないようにという母の配慮なのだろうか? それとは別に、用意周到にもミズガルの郷土料理などのメモ的な書録が別で置いてあったのが謎だ。
気を利かせたサミエ達がティウのために料理、治療魔法、薬に関するものだけわざわざ記録して置いてくれたようだが、何だかとっても複雑である。
「嬉しいけど……嬉しいけど!」
ここまで行動がバレバレなのかとちょっとむくれてしまう。徹底した鍵のかけっぷりに、聞かれても「絶対教えない」と間接的に言われているようで釈然としない。
(やっぱり思い出して欲しくないって事なのかな……)
賢者と悟られないようにと、家族との約束を破ってまで結界を施した昔の自分。
記憶を思い出して今の結界の状況を見れば、また身の危険を顧みず結界を修復するかもしれない。そう思われたとしたら、確かに書録に鍵をかけて封印するだろう。
結界を修復してしまったら、ティウは次こそ助からないかもしれないのだ。
(昔の私は何を考えていたんだろう……)
家族に心配をかけていたのが手に取るように分かる。釘を刺されたような痛みも感じた。
考え事をしながら手の中の書録を眺めているのを、風呂から上がったジルヴァラに見られていたことにティウは気付かなかった。
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