100年後の賢者たち

松浦

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失われた書と守護の国

家族と合流

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 サミエ達にタブラで連絡したゾンは、その後すぐに己の姿を変装用の魔道具を使って別人へと変えた。

「俺はまだいいがな。お前達は手配書が回ってるらしい」

「手配書!?」

 犯罪者になったつもりなどさらさらないが、先ほどゾン達に探されていると言われたのはこの事かと痛感する。
 見つかったら即連行されそうでとても嫌な気分になった。

「さすがに行方不明者とかの手配書だろう?」

「見つけ次第丁重におもてなししろ、だとさ」

 カカカと笑うゾンに、ティウとジルヴァラはお互いの顔を見合わせる。
 どう丁重なのか聞き出したい所だが、ティウに関しては手配書がなくても顔が割れている。結界の反撃で破壊されていたとはいえ、ティウの像すら建っていたくらいだ。

「お母さん達はミズガルにいるの?」

「ああ、他種族に変装して宿にいるそうだ。新しい魔道具は細かく設定できていいな」

 ノアの趣味全開の品だが、その点には納得できる。
 ティウは同意しながら自分の左手首を見て驚愕した。

「な、ない! じーちゃんから貰ったバングルがない!」

 あわあわと慌てるティウに、ゾンは笑った。

「お前のは結界を止める時に破壊されていたぞ」

「え? え? え?」

 混乱しながらも青ざめるティウに、ゾンは笑いながら新しいのを差し出した。

「予備だ。次は無理矢理結界を止めたりするんじゃないぞ」

 そう言いながらゾンはティウの左手首にパチンとバングルを嵌める。

「あ、ありがとう……気をつけるね……」

 ノアの魔道具はかなり高級品だ。このバングル一つで国一つ買えるほどの金額がすることもあるので、ティウは青ざめたままだった。
 そんなティウの頭をぐりぐりと撫でるゾンに、ジルヴァラが声をかけた。

「ここからみんなでミズガルに入るのか?」

「俺がサミエ達を飛んで連れてきてもいいんだが、それだともう一回あっちに戻らなきゃならんし、その間の状況が把握できなくなるしで都合が悪いからな。俺達が行くしかないだろう」

「確かに……」

「と言うわけで、全員姿を消す魔法を使ってだな。ミズガルに乗り込むぞ」

「みんな宿にいるの?」

「宿じゃなくて、協力者の家だな。宿はお前達が泊まっていただろう? だから警戒されてて使えない」

「わ、分かった……」

 宿の人達に申し訳ないことをしてしまったとティウは落ち込む。
 アルドリックを救うための作戦を練るのもそうだが、百年ぶりに会う両親達に怒られないかティウはドキドキしていた。

(街や結界の状況も気になるし、アルドリックさんが無事かも気になるけど……)

 怒るサミエの恐ろしさを思い出し、ティウは竦み上がる。

「……お前等どうでもいいが、サミエに怯えすぎじゃねぇか?」

「な、なんでわかったの!? ……って、お前等?」

 どういうことかとティウは横にいるジルヴァラを見る。するとジルヴァラも何やら顔色を悪くしている。

「ど、どうしたの?」

「いや~会えばわかるんじゃねぇか?」

 ニヤニヤと笑うゾンに首を傾げるが、今はそんな呑気なことを言っていられない。

 ティウ達は全員人族に変化し、姿を消す魔法を使う。そしてドラゴンに変じたゾンの背に乗って、ティウ達はミズガルへと戻っていった。

          *

 戻ってくる最中に空の上から結界を見たが、ほぼ三分の一ほど崩れていたのが分かった。
 遠目から分かるほどに結界の周囲では、一つ、また一つとほろほろ崩れていく様を見守る住人達であふれかえっていた。

 ゾンが旋回し、ゆっくりと下降しはじめた。目的地の家が見えてきたようだ。
 そこは住宅街の一角で、貴族の家の一つだということが外観でわかる。緑に囲まれた大きな家には、表には家を取り囲むように守る護衛達の姿が見えたからだ。

 ゾンに促されるままフードを目深に被り、家の裏口の近くにある物置の死角に身体を滑り込ませ、隠れるように家の前で待機する。
 するとすぐに裏口から案内役が来てくれ、そのまま家の中に入ることができた。
 表には護衛達が家の周囲を警戒していたのに、家の中はがらんとしていて人気が無かった。

「ゾン様、ノア様達がお待ちです」

「ああ、無理を言ってすまねぇな」

 執事と思わしき壮年の男性がゾンに頭を下げ、こちらですと案内してくれた。
 大きな扉の前に立ち、扉をコンコンと叩く。すると、中から声がした。

「なんだい?」

「ゾン様がいらっしゃいました」

「分かった。通してくれる?」

 ガチャン、と大きな音を立てて両扉が開く。すると中は食堂のようで、豪華で大きなテーブルの端に、ノアとサミエ、そしてマーニの姿が見えた。

「ティウ!」

 ふわりと空を飛んでマーニがティウに抱きつく。

「お父さん!」

 ぼろぼろ涙を流しながら、マーニはティウの頬を撫で、おでこに頬にとキスの雨を降らせた。

「お父さんごめんなさい……」

「無事でよかった……」

「うん」

 ぎゅうぎゅう抱きしめてくる父だが、その背格好はティウと同じくらいだ。
 誰もが父と言われても否定したくなるその姿は少年である。精霊族の彼の本体は別の所にあり、今は仮の姿としてサミエと一緒に旅をしていた。

 ティウと同じ顔をした少年が、ぼろぼろ泣きながらティウを離さない。
 その姿は双子の生き別れの兄妹が再会したかのようだった。

「ようやく起きたのね。ねぼすけさん」

「お、お母さん……」

「よく顔を見せて頂戴。私の最高傑作」

 ティウとマーニが感動の抱擁をしている様をうっとり見ているこの女性こそがサミエで、ティウの母親だ。
 魔神族とエルフの血を引く、グラマラスで妖艶な女性。ティウとは似ても似つかないが、その顔はどことなくノアに似ている。鞭を愛用する怒らせたら大変怖い人物だった。

「顔色は良いわね。真っ青な顔をして眠り続けていたから心配していたのよ」

「お母さん……ごめんなさい」

「アタクシのマーニを泣かせ続けた罪は重いから覚悟するのね?」

「ひぃん……」

「あらやだ。怯えた顔も可愛いわ」

 マーニ一筋、夫を溺愛しているサミエは、全てにおいて夫が一番なのである。
 ティウはその夫そっくりの娘で、マーニが溺愛している。ティウとマーニが戯れている図をうっとりと眺めながら「アタクシの最高傑作」と称するのがサミエの口癖だった。

「それはそうと……そこの駄犬」

「うぐっ」

「アタクシのマーニに何かしてみなさい? また啼かすわよ」

「……ッ!」

 ジルヴァラの尻尾がひゅんと股の間に入ったような……気がした。

「ティウが眠った後、心配したマーニがお前さんの隣で添い寝しようとしてジルがたたき出したことがあんだよ」

「え?」

「そしたらマーニがびえびえ泣いてな。サミエの鞭がティウの部屋をボロボロにしたんだ」

「あ……だから部屋の物が変わってたのね……」

 ゾンの説明にティウが納得した。起きてすぐ、自分の部屋なのに見覚えのない家具に驚いた事を思い出す。

「サミエ、ここは借り物なんだから暴れないでくれ。まったく……結界の暴走を止めて、もう一度眠ってしまったと聞いた時は肝が冷えたよ」

 苦笑しながらノアもティウを抱きしめてくれる。ごめんなさい……とくぐもったティウの声に、ノアは笑った。

「とにかく無事で良かった」

「うん……でも……」

「王子の末裔の事だね?」

「私のせいで処刑されるって……」

「ティウのせいじゃないよ。彼らは各々が迂闊な行動ばかりしていたからね、その結果だ」

「……………」

 しゅんと肩を落とすティウだったが、すぐに顔を上げてサミエを見た。

「お母さん、アルドリックさんを助けるにはどうしたらいいと思う?」

「…………助けたいの?」

「私のせいで処刑されるなんて、聞いていられないよ」

「ふうん? 同じ顔をしているから情が湧いたのではなくって?」

 その言葉にティウは首を横に振る。シュガストとアルドリックは別人だと強調させた。

「アルドリックさんは美味しいご飯をおごってくれた優しい人!」

「…………そうきたか」

「こればっかりは仕方ない。我々の性だからね」

「仕方ない子ねぇ。でもどう転んだって犠牲は出るわ。誰も傷つかないなんて、そんな虫のいい話はこの世にないもの」

「え……?」

「この場を静める方法は一つしかないわ。もちろん結界の再修復はダメよ。アタクシの最高傑作をこれ以上犠牲にするなら、この国を滅ぼしてでも止めるわね」

「アッ、ハイ……」

 青ざめて片言になるティウに、サミエは妖艶に微笑んだ。

「アナタが犠牲にならず、民衆の憤りを静めて結界を消去する……でも犠牲が出るのは仕方ないと思うの。だって処刑すると公言してしまったのだもの」

 ウフフと妖艶に微笑むサミエに青ざめたティウは、思わずゾン達に助けを求めるように見るのだった。



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