溺愛ダーリン

朝飛

文字の大きさ
1 / 10

苦い恋の記憶

しおりを挟む
「加藤先生、ずっと好きでした。付き合ってください」

 教師になって三年目の春だった。仕事にも大分慣れ、生活面が安定してきた時に、同僚であり先輩でもある加藤滉一に告白をした。

 教師になりたてだった頃からずっと優しく教えられてきたせいもあるが、何より教職に対する熱意に惚れ込み、憧れから育った恋慕だった。
 もともと佐上鈴《れい》は女より男が好きなところがあって、何人かと関係を持ったことはあったが、実はまともに付き合った試しはない。

 皆一様に、鈴が本気になればなるほど冷めてしまって、体の関係以上を求めると逃げ出した。それも単に相手が悪かったのか、自分の方に問題があったのかは分からないが、今回はそれなりに自信があった。

 ゆっくり段階を踏んで、三年もの月日を経て築き上げた友人という関係を経て、ようやく告白するに至ったのだ。少しばかり時間をかけ過ぎた気がしなくもないが、自宅に招かれて二人きりという好機はこれを逃せば二度と来ない気がして。

 しかし、期待を込めて加藤を見つめると、ぽかんと口を半開きにした後、眉を下げてこう言われた。

「ありがとう。気持ちは嬉しいんだけど、僕、もうすぐ結婚するんだ」

 その途端、正に奈落に突き落とされてしまった鈴は、やめとけばいいのに、加藤を強引に押し倒していた。

「なっ、鈴君、何を……」
 下の名前で呼ばれるのを嬉しく思ってしまう自分に嫌気が差しながら、驚いている加藤に向かって言い放った。

「せめて、最後に思い出を下さい。あなたの後ろの処女ぐらい、もらってもいいですよね」
「やめっ、ぁ、」

 嫌がる加藤の服を剥ぎ取り、そのまま強引に体を重ねていた。

 後から思い出しても、あの時の自分はどうかしていたと思う。結婚すると言っても、仕事を辞めるわけではないので、そのまま同じ職場で顔を合わせるというのに、抑えがきかなかった。

 それを最後に、加藤の自宅には当然行っていないし、顔を合わせても必要最低限のこと以上は話さなくなった。

 そうこうするうちに、鈴の方が転勤することになって、とうとう和解もすることなく、それきりになった。

 とても大事に時間をかけて温めていた想いなだけあって、さらに終わり方がいけなかったせいか、いつまでもずるずると引きずってしまっている。あれから、やがて四年が経ち、鈴も三十二歳になろうとしているのに、新たな恋に進むことができないままだった。

「やっぱり、野郎同士の恋愛なんて、今の日本ではまだまだだよなあ。結婚できるようになるのもいつのことやら」

 その前に歳食ってじじいにならあ、と一人苦笑しながら、ベランダで葉巻を燻《くゆ》らせる。
 もう、本気の恋愛には懲りた。性欲処理だけでいい。どうせ、自分と一緒になりたがる相手など現れないのだから。

 目に染みるほど綺麗な満月を見上げて、鈴は煙草の煙と共に嫌な記憶も吐き出そうと努めたが、なかなか振り払えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

琥珀の檻

万里
BL
砂漠の王国の離宮「琥珀の間」で、王・ジャファルは、異母弟であるアザルを強引に抱き、自らの所有物であることを誇示していた。踊り子の息子として蔑まれ、日陰の存在として生きてきたアザルにとって、兄は憎悪と恐怖の対象でしかなかった。 しかし、その密事を見つめる影があった。ジャファルの息子であり、次期王位継承者のサリムである。サリムは叔父であるアザルに対し、憧憬を超えた歪な独占欲を抱いていた。 父から子へ。親子二人の狂おしい執着の視線に晒されたアザルは、砂漠の夜よりも深い愛憎の檻に囚われていく。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...