溺愛ダーリン

朝飛

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昔の記憶

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「え、待って。今何て言った?」
「だから、俺はお前が好きだから付き合ってほしいって」
 
 中学三年の夏、受験勉強で欝々とした気分を晴らすために、一番仲が良かった友人とふざけ合ったのが発端だった。

 最初はお互い、単なるじゃれ合いの延長戦上というのもあり、性欲を持て余したガキだったのもあって、互いの性器を弄ったりして遊ぶくらいだった。

 だが、何回かそれを繰り返すうち、興味本位なのか、それとも欲求に抗えなくなったのか、友人は最後までしてみないかと言い出した。

 やめておけばいいのに、鈴も好奇心には抗えず、また、実はその友人に密かに淡い恋心に近いものを抱いていたのも手伝って、行為に及んだ。

 だが、やはり結局は所詮中学生だ。初めて尽くしで分からないことばかりだったため、最後まですることは叶わず、中途半端に熱を持て余すだけで終わった。

 それでも、友人は何度も誘いをかけてきた。その度に乗っていくうちに、錯覚を抱いてしまったのだ。もしかして、あいつも同じなのではないかと。

「はは、何それ。新手のジョーク?うけるんだけど」
「だって、お前……」
「俺と乳繰り合ううちに勘違いしましたってか?おめでたいやつ。あんなん単なるお遊びだよ、お遊び」

 鼻で笑われた途端、かっと頭に血が上り、怒鳴ったのか、それとも友人を殴ったのか。いや、結局は何も言えなかったのだ。友人とはそれ以来ふつりと縁が切れた。

 それから、何度も似たようなことを繰り返した。毎回、まるで決められたシナリオの上を歩かされているように、自分だけが勝手に勘違いして、思い上がって、振られたり、いつの間にか音信不通にされていたり。

 学習能力のなかった自分も、ようやく三十路に突入することで頭が冷えたのか、最後の失恋が尾を引いたのか、期待しないことを言い聞かせるようになっていたというのに。

「レイ。どうしたの?」

 昼休み、屋上でこっそり煙草を吹かしながら過去に思いを馳せていると、ぽんと頭に手を置かれた。振り返って確かめるまでもなく、アダム以外にいない。

「いや、別に。あんたは煙草吸う?」

 なんとなく一度自宅に招いてあんなことがあってから、素の口調になってしまっているが、アダムも指摘しないのでこのままだ。

 それから、アダムの好意を少しずつ信用してくると、逃げ回るのも馬鹿らしく思えてきて、わりと普通に接するようになった気がする。

 だが、完全に心を許すのは無理だ。

「いや、僕は煙草は吸わないよ。それよりさ、レイ」
「うん?」
「こっち見て、顔をよく見せて」
「何だよ」

 いつになく強い口調に戸惑いながら、アダムの方を振り向くと、真剣な瞳にぶつかった。しかし、鈴の顔を見て何かを確認すると、アダムは微笑んだ。

「よかった」
「何が」
「だって、レイが泣いているかと思ったから」

 その言葉に一瞬どきりとして、笑みをつくって見せる。

「泣いてないから。ほら、笑っているだろ」

 我ながら少し引きつっている気がした。

 すると、アダムが顔を近付けてきたので、反射的に目を閉じてしまった。しかし、唇に触れるかと思った感触は降ってくることなく、代わりに頬にそっと柔らかく触れてくる。 

 自然と、初対面の時のことを思い出した。

「っ……」

 唇を離した後、まるで慰めるように頭を撫でられて、思わず息が詰まった。

「さあ、そろそろ時間なので戻ろうか」

 明るく言いながら、そのまま背を向けたアダムは知らない。その時、鈴が柄にもなく泣きそうになってしまったことを。
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