アピス⁈誰それ。私はラティス。≪≪新帝国建国伝承≫≫

稲之音

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CCⅩⅩⅩⅩⅨ 星々の膨張と爆縮編 後編(7)

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第1章。訪問(2)


 「御使いさま? ぼくはそのような人物ではありませんし、
そう呼ばれるのも、不愉快です。」

アマトは、ミュール司祭の言葉を、否定する。
ラファイアが、不思議そうな笑顔で、アマトの顔を見つめている。

「1000年を超えて存続した、双月教国を数日のうちに滅ぼしたのは、
あなたと暗黒の妖精・・ラティス様・・というお名前でしたか・・・、
そのおふたりが、動いたでしょう・・・。
では、御使いさまと言っても間違いないのでは!?」

「わたしは、そのように、判断しています。」

「・・・・・・・・。」

「それに、新双月教のモクシ教皇猊下げいかも、そえふみの方で、
これを泣き顔のような使者に持たせるともとれる文言もんごんを、入れられています。」

そこで、ミュール司祭の美しい視線が、アマトに突き刺さる。
その瞳の色は、とても、その働きを手放したようには思えない。

「ミカルでは、双月教国の双月教正統派が偽書認定し、
焚書ふんしょされたような議定書も、いくつも残されています。
当然、【未然の議定書】も、そのひとつです。」

「『ここに言葉をわたそう。叡智えいちある者、心美しき者は、
  そのお姿の意味するところを、解くがいい。

  そのお姿の・・・

  一つ目の顔は、美しくも恐ろしい怒りの表情であり、
  二つ目の顔は、美しくも冷たい笑いの表情であり、
  三つ目の顔は、情けなくも暖かい泣きの表情である。』

というがありましたね・・・。」

「つまり、教皇猊下げいかは、『定めのときが来た。』と、
思っておられ、わたしどもに、その考えをお示しになりました。」

「あのエフェクス公会議で、その後正統派を名乗ったものは、
双月教国の滅亡とともに、教団自身にも、変化のときが来たと気付かなければ、
消滅していくでしょう。」

「ま、教団に寄進する金貨の数で、信仰心がはかれるという教義もどうかと、
わたくしには、思えますが・・・。」

ブール教導士が、顔をミュール司祭の方に向ける。
何か精神波で、会話がなされているようだが、むろんアマトにはわからない。
それを見取ってラファイアが、

「ミュール司祭さんは、はずせない次の予定があるようです。」

と、小声でアマトに話をかける。

「失礼しました、アマトさま。あなたが、自分が神々の〖御使い〗であるとか、
ですとかいう態度であったら、
即、お帰りいただいたところですが・・・。」

アマトが反応できないとみると、ラファイアが会話に割り込んでくる。

「ははは、ミュール司祭さま。まさか、アマトさんが、神々の御使いなわけなど、
あるはずないじゃないですか、せいぜい言って、使ですよ。」

「そして、それ以上に、暗黒の妖精のラティスさんが、
御使いなどありえないです。
ええ、そうですよ。そうですとも・・・!」

ラファイアが、暗黒の妖精ラティスが、アゲられる方向に話が進まないように、
なぜか、くぎを刺している。
・・ホント、そういうところろは、律儀な妖精さんである・・。

「アマトさま。返信の方は、わたくしの一存で、お返しすることはできません。
宗派のものと話し合った後、必ず猊下げいかの元へお届けいたしましょう。」

「そして、アマトさま。これだけは覚ておいて下さい。
あなたの・・・、あなたたちの行動を見守っているものが、
いるということを・・・。」

ミュール司祭の厳しい眼差まなざしは、アマトの方を優しく見つめていた。


第2章。後会議


 崩壊した叛乱軍の後処理の基本的立場を決めるミカル軍の公会議は、
夜半過ぎまで続いていた。

「で、ヨスク將の討伐軍への参加の許可は、新帝国の女狐イルム執政官からきたかい?」

とのレリウス公の言葉に、

「風の超上級妖精殿が、先程、書面を届けてきました。」

「クリル大公国から、ヨクス將は、を受けたにて、
新帝国も、ヨクス將の自由意思にまかせるとのことです。」

トリハ宰相は粛々しゅくしゅくと答える。

「フッ。今回新帝国方面の国境爵で、叛乱軍への内通が確認された
コレート男爵の奴の領地を接収し、ミカルに帰属してくれれば、
男爵位に当該領地を、ヨクス將に与えるという大判振る舞いだしな・・・。」

「あまり色々やられると、新帝国からいやがらせと、思われますよ・・・。」

「フフフ、トリハ。本音のところでは、新帝国への嫌がらせではなく、
ヨクス將には、本心からうちに来てもらいたいと考えている・・・。」

「それは、このいさかいの後始末が終わってからの、お話ですな。」

トリハ宰相は、あるじの話をようにかわす。

「だが、トリハよ。さすがに、超上級妖精様だな。
エリースの嬢ちゃんに頼み込んで、
昨日の今日で、便たよりの返事が届くとはな。」

「それ以上に、即日に返事が出せ、かつ組織に不満を出させない女狐の方も、
ほんと無視はできんな・・・。」

その目は、地図上の、大小・多数の青・赤・白の駒の位置を追っている。
ただ、数日前とは違い、白の駒は、ほぼ青の駒にとって代わり、
赤の駒の大半も青の駒に代わっている。

「で、陛下。わたしに残るようおっしゃたのは、
そのような話をするためではないと、
推察していますが・・・。」

「お見通しというわけかい、ま、おまえとの付き合いも長いからな・・・。」

不意に、レリウスの顔色が変わり、口調が変化する。

「トリハ。・・・ジキードのやつは、生き残っていると思うかい・・・?」

トリハ宰相は、軽くうなずき、慎重しんちょうに口を開く。

「この状況から推測しますに、王国連合への亡命のみちにおられれば、
義弟君も、まだ生きていらっしゃるでしょうが、
叛乱側の首領のヒーク伯は、こと決断ことにあたっては、
躊躇ちゅうちょなき御方でしたから・・・。」

「ジキードのやつが、臆病者のを受けても、
王国連合のいずれかの国に、一目散に亡命・・・、逃げていれば・・・。」

「命だけは、助かるだろうと、わたくしは思います。」

「けど、トリハよ。なぜジギードは、この叛乱へ参加したんだ、
やはり2世陛下を超えたいという野望は、
すべてに優先したんだろうか・・・。」

トリハ宰相は、全く減っていないギム酒の杯を机の上に置き、静かに話しだす。

「わたくしが思いますに、ジキードさまが超えようと思われたのは、
2世陛下ではなく、義兄上たるレリウスさま、・・・つまり陛下御自身だと
わたしは確信しております。」

「オレをか・・・!?大公位なら、5年もすれば、やったのにな。」

「ジキードさまは、レリウスさまに対して、兄上として尊敬をされておりました。
だから、自分の手で、力で、レリウスさまに追い付きたい、
レリウスさまを超えたいと、その衝動で行動されたのでは・・・。」

ミカルの公都を出れば、魔鳥キルギリウスの鳴き声が、聞こえたのかもしれない。
だが、ミカルの奥宮では、媒介石の燭光しょくこうもと
 静かに夜はけていくだけであった。
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