君と歩んだ地獄手記。

秋月

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第一章

裁きの時

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「どういうことですか」
僕にはこの少女が言っていることが理解できず聞き返した。  

「君がいるここ自体が地獄への玄関口だ。私たちはここをトーアと呼ぶ」
エルシィは続けて言う
「つまり、黄泉の国と地獄を結ぶ境界線がここで私はその境界の門番をしているわけさ」

不思議なことが連続して起こり続けていて意味が分からない。
なぜ僕がここにいるのか、この先どうすればいいのか。
「この先どうすればいいかわからないのは当然さ、だから私がいるんじゃないか」
エルシィは笑ながらいった。
驚くべきことにこの少女には僕の考えていることがわかるようだった。

「どうして私の考えていることが分かったのですか」
「当然さ、私は生まれつき人の心が読めるからね」
そういって少女は僕の方へゆっくりと歩み寄る。
「黄泉の国や地獄にいるほとんどの奴らが人間と違うちょっとした能力を持っている。だからこそ私はここで迷える亡者たちの案内人をしているってわけさ」

エルシィは僕の隣を通って僕の後ろにある大きなドアを開いた。


「君には十分な選択肢はない」
といいながらエルシィはこちらへ来るようにと手招きをした。
それに従いながら僕は隣の部屋へ移った。

「選択肢がないとはどういうことですか」
「要は君は人殺しだから死後の世界に君の自由はないということだよ」
「ではこの先どうすれば」
「これから君は大王のもとへ行って裁きを受けることになる。私も君がどのような裁きを受けるかはわからない」
と、言いながらエルシィが部屋に備え付けられた大きな鏡を触ると鏡は次第に歪み僕とエルシィを飲み込んでゆくのであった。







カラスの鳴き声とともに目が覚めた。窓から差し込む日の光からすると夕方のようだ。
部屋は薄暗く床の一部が赤く照らされえている。


「ここはどこだ」
「やっと目を覚ましたか」
向かい側に座っている男が話しかけてきた。


「ここはどこだ」
僕は向かいに座り込む男に再び問う。
「何を寝ぼけているんだ、そろそろ前線は近い気を引き締めろ」
前線という言葉を聞いた瞬間走馬灯のように脳内に戦場の光景が蘇った。

「僕は誰だ」
「何を言っているんだ。ルイ・ブラウン少尉」
「ルイ………ブラウン………」

記憶があいまいでこの名前が本当に正しいのか目の前に座っている男の言うことが正しいのかわからない





「やっと思い出したようだな」
脳内に響き渡るような声が聞こえた。驚いたことにその声は女の声だった。

そして次の瞬間、時間が止まった。正面にいた男は目を開いたまま眠ったようであり、今まで外から聞こえていた虫の鳴き声や風の音が一切聞こえない静寂の世界へと変わった。

「誰ですか?」
「これから貴様への裁きを始める」
「その前にまず教えてください ここはどこなんですか」

「ここは貴様の記憶の一部だ。貴様の記憶を蘇らせるために利用させてもらった」
天の声は続けて言う。
「ここはいわばお前の記憶の一部を使った仮想空間、この裁きが終わる頃には貴様の記憶からはこの光景は消えてなくなるだろう」

「あなたの言う裁きとはいったいなんだ」
「私の役目は生前に罪を犯した者どもをあらゆる地獄へ落とし贖罪をさせることだ。貴様は現世で人を殺しすぎた。」
ルイからしてもどうも答えようのない状況である。なんせ彼には記憶がないのであるから贖罪などと言おうともいつどこでだれを殺したかなど覚えてすらいなかったのである。

パチンッという音が響き渡り、目を覆いたくなるような人を殺す自分の記憶が返ってきた。

「貴様には現世に行き貴様が殺した今は亡者として現世にさまよう者どもを弔ってもらう」
「はい」




天の声は再び黙って、それから話し始めた。

「その前に貴様に生前の記憶の一部を返そう。しかし、これはすぐにすべて帰ってくるものではない。夢の中や他のものと話した時にゆっくりと戻ってくるものだ」







それから僕はあまりにも長すぎる夜を迎えた。



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