陽葵の笑顔に僕は夢中だ。

そら

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1章 日常って大事だね。

太陽が陰る。

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「あーあ、テストなんてこの世から消えちゃえばいいのに!」

放課後の教室、陽葵が机に突っ伏しながら叫んだ。

「本当だよな! この学校、テスト難しすぎなんだよ」

部活終わりの健斗が乱入してきて、僕の隣の椅子を勝手に使い始める。教室に残っていた他のクラスメイトたちからも「全くだ!」「消去法で選んでも全部外れる気がする」と、口々に悲鳴と笑い声が上がった。

「健斗は勉強しなくても余裕そうじゃん。いつも部活ばっかりでさ」

僕がノートをまとめながら聞くと、健斗は「ヘヘッ」と鼻を鳴らした。

「俺はスポーツ推薦枠だからな。赤点さえ取らなきゃ、あとは野となれ山となれよ」

「いいなー! 健斗くん、その枠私に譲ってよ!」

 陽葵は顔を上げてケラケラと笑う。その横顔は、西日に照らされてどこまでも幸せな女子高生そのものに見えた。

「そういや陽葵。お前、さっきから見てて思ったんだけど、その長袖暑くないのか?」

 健斗が何気なく、陽葵の伸ばされた袖口を指差した。
 その瞬間、陽葵の体がビクッと硬直した。

「……え? あ、あはは。これ? 最近、私の中で長袖が流行りなんだよね」

 陽葵は一瞬だけ目を泳がせたが、すぐにいつものような調子で答えた。けれど、最近やけに痩せているのが少し気になっていた。よく見ると顔色も…。

「……陽葵。顔色、あんまり良くないよ? 暑いなら無理しないほうがいいと思うけど」

 僕が心配になって声をかけると、陽葵は困ったように眉を下げて笑った。

「あ、やっぱりわかる? 最近、ちょっと寝不足気味で……ほら、テストも近いしね」

 そんな陽葵の様子を、栞が静かに見つめていた。彼女は僕と一瞬だけ目配せをすると、何かを察した栞は、この話題をこれ以上しないために無理やり話を打ち切った。

「そうね。じゃあ、無駄話をしないでしっかり勉強しましょうか。陽葵、ここ間違ってるわよ」

「うげっ、本当だ。……ごめんね、二人とも。最近お母さんが勉強しろって厳しくて……。なんだか、ずっと気が張っちゃってるのかも」

陽葵の口から出たのは、どこにでもあるような「母親への愚痴」だった。

当たり障りのないその理由に、僕は少しだけ安心し、彼女の異変を深く追求することをやめてしまった。

(僕にはよく分からないけど、健斗もよく愚痴ってるしな…。)

だが、栞の瞳には、まだ拭いきれない不安の色が残っていた…。

「さ、健斗くんの奢りでアイスを食べに行くためにも、あともう一踏ん張りね」

栞の言葉に、陽葵が「おー!」と元気よく拳を突き出す。


僕は、彼女のその作った笑顔の裏に潜む闇に、まだ気付こうとしてなかった。
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