陽葵の笑顔に僕は夢中だ。

そら

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1章 日常って大事だね。

放課後は勉強したい!

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 次の日の昼休みの屋上。陽葵の手にあるのは、購買で一番安い、中身のほとんど入っていないパン一つだけだった。
 
 昨日、倒れた陽葵の件で学校から家へ連絡がいったらしい。母親は先生に対し「娘が勝手に過度なダイエットをしていただけ」と説明したそうだ。学校側もそれを信じ、陽葵に注意を与えた。
 
 その結果、彼女はおそらく学校では、周囲の目を誤魔化すための「最低限の食事」を口にするようになった。

 たった一つのパンを、彼女はまるで宝物のように大切に、少しずつ、少しずつ口に運んでいた。
「……ねえ、陽葵。やっぱり今日もお弁当、作りすぎちゃったの。これ、食べてくれない?」
 
栞が、震える声を押し殺して、彩り豊かな自分のお弁当箱を差し出した。以前なら「わあ、ありがとう!」と甘えてくれたはずの陽葵が、今日は小さく首を振って、乾いた笑みを浮かべた。

「ううん、いいよ。私、今このパンにハマってるんだ! 素朴な味が最高なんだよね。栞の美味しいお弁当を食べたら、この子の良さが分からなくなっちゃうもん」

「でも、陽葵、それだけじゃ……」

「大丈夫、大丈夫! ほら、先生からも怒られちゃったし、これからはちゃんと食べるから。私ってば元気すぎて困っちゃうくらいでしょ?」
 
陽葵はわざとらしく自分の力こぶを作って見せたが、その腕は以前よりずっと細くなっていた。

彼女は「虐待なんてされていない」「私は普通の、幸せな家庭の女の子だ」と、自分自身に言い聞かせ、母親のついた嘘をなぞるように、僕たちの差し伸べる手を拒絶するようになった。

 その日の放課後、陽葵は珍しく図書室の閉館時間ギリギリまで、僕たちの隣で一心不乱にペンを動かしていた。普段なら「もう集中力切れちゃった!」とはしゃぎ出すはずの彼女が、何かから逃げるようにノートを埋めていく。

 ふと、壁に掛かった時計が閉館のチャイムを鳴らす直前の時刻を指した。

 陽葵はそれを見上げた瞬間、まるで判決を言い渡された囚人のような、絶望的で悲しそうな顔をわずかに見せた。けれど、僕と目が合うと、弾かれたようにその表情を塗りつぶした。

「あはは、もうこんな時間! 集中しすぎて気づかなかったよ」
 
 校門まで歩く間も、彼女の足取りはどこか重く、けれど校門で別れるその瞬間には、いつもの完璧な仮面を被り直して大きく手を振った。

「また明日ね! 明日は絶対、小テスト満点取っちゃうから見ててよ!」

 その笑顔。夕日に溶けてしまいそうなほど眩しくて、けれど…。どこか儚い作り物のような笑顔だった。
彼女が笑えば笑うほど、僕と栞の心には暗い影が濃くなっていくのを感じた。
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