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2章 日常が壊れる。
2日目の夜
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別荘の外の森の夜は、すべてを飲み込むほどに深かった。
栞と陽葵が眠りについたのを確認してから、僕は一人、縁側を通って外に出た。見上げた空には、都会では決して見ることのできない、こぼれ落ちそうなほどの星屑が散らばっている。
冷たい夜気に身を縮めていると、背後でパサリ、と草を踏む音がした。
「……悠真くんも、眠れなかった?」
振り返ると、そこには薄い毛布を肩にかけた陽葵が立っていた。星明かりに照らされた彼女の肌は、どこか現実味がないほど白い。
「陽葵。起こしちゃったか?」
「ううん。なんだか、今眠ったら、全部夢になっちゃいそうで……怖いの」
陽葵は僕の隣に並んで座った。二人の肩が触れ合う。
「あの家にいた一ヶ月、本当に地獄だった。世界中で私だけが一人ぼっちで、このまま消えても誰も気づかないんだろうなって。
……でも今は、悠真くんと栞ちゃんのおかげで、信じられないくらい幸せなの。だから、余計に怖いの。この夢みたいな時間が、いつか突然終わっちゃうんじゃないかって…。」
陽葵の細い指先が、僕の袖をぎゅっと掴んだ。僕は迷うことなく、その冷えた手を自分の手のひらで包み込んだ。
「終わらせないよ。俺が、一生かけて陽葵を守るから。……陽葵、大人になったら、俺と結婚してくれないか。お母さんも、あの男も、誰もいないところで……ずっと一緒にいよう」
あまりに子供っぽくて、けれど今の僕にできる、精一杯の誓い。
陽葵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は笑いながら、何度も、何度も頷いた。
「……うん、約束だよ。私、悠真くんのお嫁さんになりたい」
引き寄せられるように、僕たちは顔を近づけた。
触れるだけの、短くて、けれど震えるほどに深いキス。唇に触れた陽葵の体温は、驚くほど温かくて、同時に今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
その時。
背後の暗い別荘、その二階の窓に、ひとつの人影があることに僕は気づかなかった。
栞は、暗闇の中に溶け込むようにして立っていた。
窓ガラス越しに見下ろすその視線の先では、愛する少年が、自分の親友と、自分には決して向けられない慈しみを込めて重なり合っている。
「……三人一緒だって、言ったのに」
栞は自分の口元を両手で強く覆い、声を押し殺した。
頬を伝う涙が、床に落ちて染みを作っていく。胸の奥が焼けるように熱くて、同時に氷を押し当てられたように冷たかった。
自分は二人にとって、一体何なのだろう。
けれど、そんなドロドロとした感情を打ち消すように、彼女は自嘲気味に口角を上げた。
(いいじゃない。元から、二人を応援するって決めていたんでしょう? 私の役割は、二人を守ること。……それだけでいいはずなのに)
栞はゆっくりと窓から離れ、自分の布団に潜り込んだ。
固く目を閉じ、何も見ていない、何も聞いていないと自分に言い聞かせながら、ただの「優しい親友」として寝たふりをする。
外では、悠真と陽葵が互いの温もりを確かめ合うように、もう一度強く抱きしめ合っていた。
三人の夜は、残酷なほど静かに、そして美しく更けていった。
栞と陽葵が眠りについたのを確認してから、僕は一人、縁側を通って外に出た。見上げた空には、都会では決して見ることのできない、こぼれ落ちそうなほどの星屑が散らばっている。
冷たい夜気に身を縮めていると、背後でパサリ、と草を踏む音がした。
「……悠真くんも、眠れなかった?」
振り返ると、そこには薄い毛布を肩にかけた陽葵が立っていた。星明かりに照らされた彼女の肌は、どこか現実味がないほど白い。
「陽葵。起こしちゃったか?」
「ううん。なんだか、今眠ったら、全部夢になっちゃいそうで……怖いの」
陽葵は僕の隣に並んで座った。二人の肩が触れ合う。
「あの家にいた一ヶ月、本当に地獄だった。世界中で私だけが一人ぼっちで、このまま消えても誰も気づかないんだろうなって。
……でも今は、悠真くんと栞ちゃんのおかげで、信じられないくらい幸せなの。だから、余計に怖いの。この夢みたいな時間が、いつか突然終わっちゃうんじゃないかって…。」
陽葵の細い指先が、僕の袖をぎゅっと掴んだ。僕は迷うことなく、その冷えた手を自分の手のひらで包み込んだ。
「終わらせないよ。俺が、一生かけて陽葵を守るから。……陽葵、大人になったら、俺と結婚してくれないか。お母さんも、あの男も、誰もいないところで……ずっと一緒にいよう」
あまりに子供っぽくて、けれど今の僕にできる、精一杯の誓い。
陽葵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は笑いながら、何度も、何度も頷いた。
「……うん、約束だよ。私、悠真くんのお嫁さんになりたい」
引き寄せられるように、僕たちは顔を近づけた。
触れるだけの、短くて、けれど震えるほどに深いキス。唇に触れた陽葵の体温は、驚くほど温かくて、同時に今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
その時。
背後の暗い別荘、その二階の窓に、ひとつの人影があることに僕は気づかなかった。
栞は、暗闇の中に溶け込むようにして立っていた。
窓ガラス越しに見下ろすその視線の先では、愛する少年が、自分の親友と、自分には決して向けられない慈しみを込めて重なり合っている。
「……三人一緒だって、言ったのに」
栞は自分の口元を両手で強く覆い、声を押し殺した。
頬を伝う涙が、床に落ちて染みを作っていく。胸の奥が焼けるように熱くて、同時に氷を押し当てられたように冷たかった。
自分は二人にとって、一体何なのだろう。
けれど、そんなドロドロとした感情を打ち消すように、彼女は自嘲気味に口角を上げた。
(いいじゃない。元から、二人を応援するって決めていたんでしょう? 私の役割は、二人を守ること。……それだけでいいはずなのに)
栞はゆっくりと窓から離れ、自分の布団に潜り込んだ。
固く目を閉じ、何も見ていない、何も聞いていないと自分に言い聞かせながら、ただの「優しい親友」として寝たふりをする。
外では、悠真と陽葵が互いの温もりを確かめ合うように、もう一度強く抱きしめ合っていた。
三人の夜は、残酷なほど静かに、そして美しく更けていった。
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