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2章 日常が壊れる。
幸せな朝……。
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三日目の朝は、眩しいほどの光とともに訪れた。
昨夜の星空が嘘だったように青空が窓の外に広がっている。
リビングで鉢合わせた陽葵が、僕の顔を見た瞬間に、火がついたように顔を赤らめた。昨夜のキスの記憶が、朝の光の中で鮮明に蘇る。僕もまた、まともに彼女の目を見られず、意味もなく台所の水道をひねった。
ふと、手が触れそうになり、僕は勇気を出して陽葵の指先を握ろうとした。陽葵もそれを待っていたかのように、そっと手を差し出す。
「……二人とも、いつまでそうしているの? 冷めないうちに朝食を作るわよ」
背後から響いた栞の声に、僕たちは弾かれたように手を離した。
「あ、あはは! 違うんだよ栞…、これはその……!」
「そ、そうだよ! 埃がついてただけだから!」
必死に誤魔化そうとするが、二人の顔が真っ赤なのは丸わかりだった。けれど栞は、その動揺に一切気づかないふりをして、「陽葵、手伝って」と淡々とエプロンを締めた。
二人が並んで台所に立つ。陽葵は時折僕の方を振り返り、昨日より上手く焼けた目玉焼きを「見て見て!」と自慢げに掲げた。
不自由な逃亡生活の中、こうして好きな人と、信頼する親友と食卓を囲める。僕はその奇跡のような幸せを噛み締めながら、運ばれてきた料理を口に運んだ。
「……うまっ。陽葵、これ昨日よりずっといいよ」
「でしょ? 悠真くんのために気合入れたんだから!」
デレデレと鼻の下を伸ばす僕を見て、隣に座っていた栞が、ふいにおかずの大きな塊を僕の口に押し込んだ。
「むぐっ!? 栞、何すんだよ」
「手が止まってるわよ。そんなにデレデレしてると、味が分からなくなるんじゃないかと思って」
それは栞なりの軽い嫌がらせだった。嫉妬が混じっていることなど露ほども思わない僕は、「栞らしくないな」と笑いながら彼女の顔を覗き込んだ。
「……栞、なんだか今日、元気なくないか? 顔色も悪いし」
「そう?……少し、寝不足なだけよ。慣れない場所だもの、当然でしょ」
栞は視線を落とし、冷めかけたコーヒーを啜った。陽葵も心配そうに身を乗り出す。
「栞…大丈夫? ……じゃあ、せめて皿洗いは私と悠真くんでやるから、栞ちゃんは少し休んでて!」
「……ええ。そうしてもらえると助かるわ。二人で仲良く、やってちょうだい」
栞の言葉に、陽葵はまた顔を赤くしながら「もう、栞ちゃんたら!」と僕の腕を引っ張って流し台へと向かった。
食器が重なる音、水を流す音、そして二人のひそひそとした笑い声。
二人の背後で、椅子に座ったままの栞の表情が、スッと暗く沈んだ。
二人の幸せを一番近くで見届けると決めたはずなのに。自分が守ると誓った二人のはずなのに。
膝の上の手に力が入ってしまいどうしても震えてしまう…。
楽しそうに肩を寄せ合う二人の背中は、今の彼女にとって、何よりも直視しがたい残酷な光景として映っていた。
昨夜の星空が嘘だったように青空が窓の外に広がっている。
リビングで鉢合わせた陽葵が、僕の顔を見た瞬間に、火がついたように顔を赤らめた。昨夜のキスの記憶が、朝の光の中で鮮明に蘇る。僕もまた、まともに彼女の目を見られず、意味もなく台所の水道をひねった。
ふと、手が触れそうになり、僕は勇気を出して陽葵の指先を握ろうとした。陽葵もそれを待っていたかのように、そっと手を差し出す。
「……二人とも、いつまでそうしているの? 冷めないうちに朝食を作るわよ」
背後から響いた栞の声に、僕たちは弾かれたように手を離した。
「あ、あはは! 違うんだよ栞…、これはその……!」
「そ、そうだよ! 埃がついてただけだから!」
必死に誤魔化そうとするが、二人の顔が真っ赤なのは丸わかりだった。けれど栞は、その動揺に一切気づかないふりをして、「陽葵、手伝って」と淡々とエプロンを締めた。
二人が並んで台所に立つ。陽葵は時折僕の方を振り返り、昨日より上手く焼けた目玉焼きを「見て見て!」と自慢げに掲げた。
不自由な逃亡生活の中、こうして好きな人と、信頼する親友と食卓を囲める。僕はその奇跡のような幸せを噛み締めながら、運ばれてきた料理を口に運んだ。
「……うまっ。陽葵、これ昨日よりずっといいよ」
「でしょ? 悠真くんのために気合入れたんだから!」
デレデレと鼻の下を伸ばす僕を見て、隣に座っていた栞が、ふいにおかずの大きな塊を僕の口に押し込んだ。
「むぐっ!? 栞、何すんだよ」
「手が止まってるわよ。そんなにデレデレしてると、味が分からなくなるんじゃないかと思って」
それは栞なりの軽い嫌がらせだった。嫉妬が混じっていることなど露ほども思わない僕は、「栞らしくないな」と笑いながら彼女の顔を覗き込んだ。
「……栞、なんだか今日、元気なくないか? 顔色も悪いし」
「そう?……少し、寝不足なだけよ。慣れない場所だもの、当然でしょ」
栞は視線を落とし、冷めかけたコーヒーを啜った。陽葵も心配そうに身を乗り出す。
「栞…大丈夫? ……じゃあ、せめて皿洗いは私と悠真くんでやるから、栞ちゃんは少し休んでて!」
「……ええ。そうしてもらえると助かるわ。二人で仲良く、やってちょうだい」
栞の言葉に、陽葵はまた顔を赤くしながら「もう、栞ちゃんたら!」と僕の腕を引っ張って流し台へと向かった。
食器が重なる音、水を流す音、そして二人のひそひそとした笑い声。
二人の背後で、椅子に座ったままの栞の表情が、スッと暗く沈んだ。
二人の幸せを一番近くで見届けると決めたはずなのに。自分が守ると誓った二人のはずなのに。
膝の上の手に力が入ってしまいどうしても震えてしまう…。
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