陽葵の笑顔に僕は夢中だ。

そら

文字の大きさ
19 / 84
2章 日常が壊れる。

幸せな朝……。

しおりを挟む
 三日目の朝は、眩しいほどの光とともに訪れた。
 
 昨夜の星空が嘘だったように青空が窓の外に広がっている。
 
 リビングで鉢合わせた陽葵が、僕の顔を見た瞬間に、火がついたように顔を赤らめた。昨夜のキスの記憶が、朝の光の中で鮮明に蘇る。僕もまた、まともに彼女の目を見られず、意味もなく台所の水道をひねった。
 
 ふと、手が触れそうになり、僕は勇気を出して陽葵の指先を握ろうとした。陽葵もそれを待っていたかのように、そっと手を差し出す。

「……二人とも、いつまでそうしているの? 冷めないうちに朝食を作るわよ」
 
 背後から響いた栞の声に、僕たちは弾かれたように手を離した。

「あ、あはは! 違うんだよ栞…、これはその……!」

「そ、そうだよ! 埃がついてただけだから!」
 
 必死に誤魔化そうとするが、二人の顔が真っ赤なのは丸わかりだった。けれど栞は、その動揺に一切気づかないふりをして、「陽葵、手伝って」と淡々とエプロンを締めた。
 
 二人が並んで台所に立つ。陽葵は時折僕の方を振り返り、昨日より上手く焼けた目玉焼きを「見て見て!」と自慢げに掲げた。

 不自由な逃亡生活の中、こうして好きな人と、信頼する親友と食卓を囲める。僕はその奇跡のような幸せを噛み締めながら、運ばれてきた料理を口に運んだ。

「……うまっ。陽葵、これ昨日よりずっといいよ」

「でしょ? 悠真くんのために気合入れたんだから!」
 
 デレデレと鼻の下を伸ばす僕を見て、隣に座っていた栞が、ふいにおかずの大きな塊を僕の口に押し込んだ。

「むぐっ!? 栞、何すんだよ」

「手が止まってるわよ。そんなにデレデレしてると、味が分からなくなるんじゃないかと思って」
 
 それは栞なりの軽い嫌がらせだった。嫉妬が混じっていることなど露ほども思わない僕は、「栞らしくないな」と笑いながら彼女の顔を覗き込んだ。

「……栞、なんだか今日、元気なくないか? 顔色も悪いし」

「そう?……少し、寝不足なだけよ。慣れない場所だもの、当然でしょ」
 
 栞は視線を落とし、冷めかけたコーヒーを啜った。陽葵も心配そうに身を乗り出す。

「栞…大丈夫? ……じゃあ、せめて皿洗いは私と悠真くんでやるから、栞ちゃんは少し休んでて!」

「……ええ。そうしてもらえると助かるわ。二人で仲良く、やってちょうだい」
 
 栞の言葉に、陽葵はまた顔を赤くしながら「もう、栞ちゃんたら!」と僕の腕を引っ張って流し台へと向かった。
 
 食器が重なる音、水を流す音、そして二人のひそひそとした笑い声。
 
 二人の背後で、椅子に座ったままの栞の表情が、スッと暗く沈んだ。
 
 二人の幸せを一番近くで見届けると決めたはずなのに。自分が守ると誓った二人のはずなのに。
膝の上の手に力が入ってしまいどうしても震えてしまう…。
 
 楽しそうに肩を寄せ合う二人の背中は、今の彼女にとって、何よりも直視しがたい残酷な光景として映っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...