20 / 84
2章 日常が壊れる。
逃げるためには……。
しおりを挟む
皿洗いを終え、リビングに戻った僕たちは、これからの現実について話し合いを始めた。
陽葵を囲んで座る僕らの中心には、栞が広げた一枚の地図と、彼女の財布から出されたあのクレジットカードがあった。
「……悠真くん、陽葵。落ち着いて聞いて」
栞の声は、昨日までの穏やかさが嘘のように冷徹だった。
「クレジットカードをこれ以上使えば、必ず足がつくわ。親も警察も、利用履歴を追ってここを特定するのは時間の問題よ。だから、今から町へ降りて、換金しやすい金や宝石類をこのカードで買えるだけ買うわ。それをお金に変えたら、カードはすぐに処理する。しばらく生活できるだけのまとまった現金を得るには、これしかないの。」
栞の言葉に、僕と陽葵は顔を見合わせた。
「……でも、それって。……さすがに、やりすぎじゃないか? 栞の親だって、そんなことされたら……」
「そうだよ、栞。そこまで甘えるわけにはいかないよ……」
僕たちの反対を予想していたのか、栞は瞬きもせずに淡々と返した。
「甘えじゃないわ、戦略よ。このままじゃ現実的に無理。逃げ続けるには、綺麗事だけじゃ足りないの」
沈黙が流れる。高校生の僕たちにとって、その提案は「犯罪」の境界線を踏み越えるような恐怖があった。けれど、俯く僕たちに、栞はふっと力を抜いて、わざとらしく笑ってみせた。
「……なにも盗むわけじゃないわ。いつか返すんだから、借金が少し増えるだけよ」
その言葉に、僕は救われたような気がした。栞がそこまで覚悟を決めてくれている。だったら、僕が怖気づいている場合じゃない。
「……わかった。陽葵、栞の言う通りにしよう。俺、死ぬ気で働いて、いつか必ずその金を倍にして返せるように頑張るから。」
僕が陽葵の手を握って伝えると、陽葵は少しだけ不安げに、けれど僕の瞳を見て、小さく微笑み返した。
「……そうだね。私たち、もう借金まみれだね。……うん、わかった。悠真くんがそう言うなら、私も頑張る」
見つめ合い、未来への約束を重ねる僕と陽葵。その二人の世界を、栞は感情の抜け落ちたような無機質な瞳で見つめていた。
自分が差し出した「犠牲」が、皮肉にも二人の絆をより一層深めていく。その残酷な構図を、彼女だけが自覚していた。
陽葵を囲んで座る僕らの中心には、栞が広げた一枚の地図と、彼女の財布から出されたあのクレジットカードがあった。
「……悠真くん、陽葵。落ち着いて聞いて」
栞の声は、昨日までの穏やかさが嘘のように冷徹だった。
「クレジットカードをこれ以上使えば、必ず足がつくわ。親も警察も、利用履歴を追ってここを特定するのは時間の問題よ。だから、今から町へ降りて、換金しやすい金や宝石類をこのカードで買えるだけ買うわ。それをお金に変えたら、カードはすぐに処理する。しばらく生活できるだけのまとまった現金を得るには、これしかないの。」
栞の言葉に、僕と陽葵は顔を見合わせた。
「……でも、それって。……さすがに、やりすぎじゃないか? 栞の親だって、そんなことされたら……」
「そうだよ、栞。そこまで甘えるわけにはいかないよ……」
僕たちの反対を予想していたのか、栞は瞬きもせずに淡々と返した。
「甘えじゃないわ、戦略よ。このままじゃ現実的に無理。逃げ続けるには、綺麗事だけじゃ足りないの」
沈黙が流れる。高校生の僕たちにとって、その提案は「犯罪」の境界線を踏み越えるような恐怖があった。けれど、俯く僕たちに、栞はふっと力を抜いて、わざとらしく笑ってみせた。
「……なにも盗むわけじゃないわ。いつか返すんだから、借金が少し増えるだけよ」
その言葉に、僕は救われたような気がした。栞がそこまで覚悟を決めてくれている。だったら、僕が怖気づいている場合じゃない。
「……わかった。陽葵、栞の言う通りにしよう。俺、死ぬ気で働いて、いつか必ずその金を倍にして返せるように頑張るから。」
僕が陽葵の手を握って伝えると、陽葵は少しだけ不安げに、けれど僕の瞳を見て、小さく微笑み返した。
「……そうだね。私たち、もう借金まみれだね。……うん、わかった。悠真くんがそう言うなら、私も頑張る」
見つめ合い、未来への約束を重ねる僕と陽葵。その二人の世界を、栞は感情の抜け落ちたような無機質な瞳で見つめていた。
自分が差し出した「犠牲」が、皮肉にも二人の絆をより一層深めていく。その残酷な構図を、彼女だけが自覚していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる