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3章 太陽の輝き…
平穏の対価
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事件から一夜明け、僕たちの日常は、奇妙なほど『普通』を取り戻していた。
けれど、その静けさの裏側で、僕と栞は自分たちが犯した「間違い」の対価を、それぞれの家で「罪」として支払い始めていた。
「……家政婦さんが、監視役として派遣されることになったわ。」
放課後、誰もいない渡り廊下で栞が力なく呟いた。彼女の表情は、あの日以来どこか生気がなく、いつも完璧だったはずの制服の着こなしも、どこか乱れている…。
「家政婦さんが……?」
「ええ。クレジットカードは当然没収。両親がいない間は、その人が私の行動を逐一報告することになったの。食事も全部その人が用意する。……事実上の外出禁止よ。今日は図書委員の仕事があるって嘘をついて、やっとこうしてあなたと話せてるの。」
栞は自嘲気味に笑った。
彼女の家は、栞の自由を奪う強固な「檻」へと変わってしまったようだった。
「悠真くんの方は? お父さんとは話したの?」
「……いや。あの日、家に帰ってから一度も口を利いてない。お互いに顔を合わせないように、僕が起きた時にはもう父さんは仕事に出ているし、夜も帰ってきてるのかさえ分からないんだ。……完全に、すれ違いの生活だよ」
あの時、頬を打った父さんの手の感触と、冷徹な眼差しが、今も脳裏に焼き付いて離れない。
そんな僕たちの重苦しさとは対照的に、陽葵は、本当に家に戻った。
あれほど狂乱していた彼女の母親は、あの日を境に憑き物が落ちたように穏やかになったという。放課後、僕らを待つ陽葵の表情は、以前のような「無理な明るさ」ではなく、心の底から安堵しているような、柔らかいものに変わっていた。
「あ、悠真くん! 栞! 見て、今日のお弁当、お母さんが作ってくれたんだよ」
屋上で広げられたお弁当箱。少し不格好な卵焼き。
「ちょっと焦げちゃってるけどね」と笑う陽葵は、失いかけていた「母親」を完全に取り戻したかのように見えた。
陽葵にあの笑顔を取り戻させたのは、僕の幼稚な正義感ではなく、父さんの介入だった。
その事実は、僕の胸を複雑に締め付ける。けれど、彼女が幸せならそれでいい。……ただ、心の隅っこで、またあの地獄が始まるんじゃないかという拭いきれない不安が、黒い影を落としていた。
「……悠真、お前さ、本当になんかあっただろ?」
教室に戻ると、親友の健斗が机を寄せてきた。
「え……いや、別に。ちょっと寝不足なだけだよ」
「嘘つけ。顔が死んでるぞ」
健斗は僕の肩を軽く叩き、真剣な眼差しを向けた。
「いいか、本当に行き詰まったら相談しろよな。俺たち、友達だろ?」
その真っ直ぐな言葉の温かさに、鼻の奥がツンとした。本当のことを全部ぶちまけて、泣き出したかった。けれど、僕はそれを必死に笑い飛ばした。
「……ありがとう、健斗。大丈夫だよ」
それから数日、僕は毎日、教室の窓際で幸せそうに笑う陽葵を、遠くから見つめ続けた。
彼女の笑顔を見るたびに、僕の抱える不安は少しずつ、けれど確実に、「安心」というう言葉で満たされようとしていた。
「……よかった。本当に、これでよかったんだ」
夕暮れの教室。僕は一人、そう自分に言い聞かせた。僕が救えなかった陽葵を、父さんが救ってくれた。それで十分じゃないか、と…。
けれど、その静けさの裏側で、僕と栞は自分たちが犯した「間違い」の対価を、それぞれの家で「罪」として支払い始めていた。
「……家政婦さんが、監視役として派遣されることになったわ。」
放課後、誰もいない渡り廊下で栞が力なく呟いた。彼女の表情は、あの日以来どこか生気がなく、いつも完璧だったはずの制服の着こなしも、どこか乱れている…。
「家政婦さんが……?」
「ええ。クレジットカードは当然没収。両親がいない間は、その人が私の行動を逐一報告することになったの。食事も全部その人が用意する。……事実上の外出禁止よ。今日は図書委員の仕事があるって嘘をついて、やっとこうしてあなたと話せてるの。」
栞は自嘲気味に笑った。
彼女の家は、栞の自由を奪う強固な「檻」へと変わってしまったようだった。
「悠真くんの方は? お父さんとは話したの?」
「……いや。あの日、家に帰ってから一度も口を利いてない。お互いに顔を合わせないように、僕が起きた時にはもう父さんは仕事に出ているし、夜も帰ってきてるのかさえ分からないんだ。……完全に、すれ違いの生活だよ」
あの時、頬を打った父さんの手の感触と、冷徹な眼差しが、今も脳裏に焼き付いて離れない。
そんな僕たちの重苦しさとは対照的に、陽葵は、本当に家に戻った。
あれほど狂乱していた彼女の母親は、あの日を境に憑き物が落ちたように穏やかになったという。放課後、僕らを待つ陽葵の表情は、以前のような「無理な明るさ」ではなく、心の底から安堵しているような、柔らかいものに変わっていた。
「あ、悠真くん! 栞! 見て、今日のお弁当、お母さんが作ってくれたんだよ」
屋上で広げられたお弁当箱。少し不格好な卵焼き。
「ちょっと焦げちゃってるけどね」と笑う陽葵は、失いかけていた「母親」を完全に取り戻したかのように見えた。
陽葵にあの笑顔を取り戻させたのは、僕の幼稚な正義感ではなく、父さんの介入だった。
その事実は、僕の胸を複雑に締め付ける。けれど、彼女が幸せならそれでいい。……ただ、心の隅っこで、またあの地獄が始まるんじゃないかという拭いきれない不安が、黒い影を落としていた。
「……悠真、お前さ、本当になんかあっただろ?」
教室に戻ると、親友の健斗が机を寄せてきた。
「え……いや、別に。ちょっと寝不足なだけだよ」
「嘘つけ。顔が死んでるぞ」
健斗は僕の肩を軽く叩き、真剣な眼差しを向けた。
「いいか、本当に行き詰まったら相談しろよな。俺たち、友達だろ?」
その真っ直ぐな言葉の温かさに、鼻の奥がツンとした。本当のことを全部ぶちまけて、泣き出したかった。けれど、僕はそれを必死に笑い飛ばした。
「……ありがとう、健斗。大丈夫だよ」
それから数日、僕は毎日、教室の窓際で幸せそうに笑う陽葵を、遠くから見つめ続けた。
彼女の笑顔を見るたびに、僕の抱える不安は少しずつ、けれど確実に、「安心」というう言葉で満たされようとしていた。
「……よかった。本当に、これでよかったんだ」
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