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4章 日食
変化
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僕は外に灯りが漏れないよう、窓際を避けた本棚の奥の場所に小さなライトを置いた。
「……よし。警備員がいないなら、栞に報告しないとな」
僕がスマホを取り出すと、陽葵は少しだけ落ち着かない様子で、栞の声が繋がるのをじっと待っていた。
プルルル、という電子音が静まり返った本棚の間に響く。数回のコールの後、栞が電話に出た。
「……悠真くん? 無事なのね?」
「ああ、大丈夫だ。警備員もさっき帰ったよ。今は図書室の奥の方で、窓から光が漏れないように注意してるよ。」
「そう、良かったわ。……陽葵は? 彼女はそばにいるの?」
僕はスマホのスピーカーをオンにした。静まり返った図書室に、栞の声が少し硬く響く。陽葵は膝を抱えて座り、その声を聞き逃さないようにじっと耳を傾けていた。
「隣にいるよ。さっきまで二人で、陽葵がいなくなった後の話をしていたんだ。栞……。僕がどん底だった時、栞がずっと向き合って支えてくれたこと、陽葵に話したよ。陽葵も、栞には本当に助けられたって、すごく感謝してるんだ」
スピーカーから、栞が微かに息を呑む音が聞こえた。一瞬の沈黙の後、彼女はどこか震える声を押し殺すような声で答えた。
「……そう。私は、ただ、あなたが壊れてしまうのが見ていられなかっただけよ。……陽葵がそう言ってくれるなら、救われるわ。」
陽葵はその言葉を聞いて、複雑な表情で視線を落とした。感謝の気持ちと、先ほど教室で見てしまった栞の涙。
その狭間で、陽葵の胸には言葉にならない感情が渦巻いている。
「あ、それとさ、さっき陽葵の帰りを待ってる間に僕、寝ちゃったんだ。起きたら陽葵が目の前にいてびっくりしたよ。こっちは真っ暗なのに、陽葵は寝顔までしっかり見えたって言うんだ。霊になると暗闇でも見えるらしくて、自分でも猫になったのかもなんて笑ってるよ」
僕が冗談混じりに報告すると、栞のふっと力が抜けたような笑い声が聞こえた。
「ふふ、猫か……。真っ暗な図書室で、彼女にずっと寝顔を観察されていたなんて、災難だったわね」
「……でも、陽葵らしいわ」
「全くだよ。本人は可愛かったなんてからかってくるし」
「……いいわ。明日、私が鍵を開けに行くまで、二人でしっかり情報を整理しておきなさい。……おやすみなさい、二人とも」
そう言った栞の声は、どこか少し、何かから逃げるように早足だった。
「あ、栞。まだ何か――」
「ごめんなさい、家政婦に怪しまれると困るから、もう切るわね。……また明日」
彼女はそれ以上僕に言葉を挟ませる隙を与えず、一方的に通話を終了させた。静かな図書室に、ぷつりと切れた無機質な電子音が響く。
「……行っちゃった。栞、やっぱり家だと大変なんだな…。」
僕がスマホを置いて呟くと、陽葵はどこか遠くを見つめるような目で小さく言葉を漏らした。
『……栞ちゃん、本当に優しいよね』
「ああ、そうだな」
僕は陽葵の不安を和らげるように、穏やかに笑って答えた。
「栞は、陽葵のことが本当に大好きなんだろうな。だからこそ、陽葵がいなくなった後も、僕のそばにいて一緒に探し続けてくれたんだと思う。あいつ、不器用だけどさ」
僕がそう言うと、陽葵は少しだけ困ったような、それでいてどこか切なそうな表情を浮かべて、静かに頷いた。
『……うん。そうだね。本当に、大好き……なんだと思う。私に対しても、悠真くんに対しても……。』
陽葵はそれ以上、何かを言いかけるのを飲み込むようにして、僕から視線を外した。小さなライトの光が、二人の間に微かな影を落とす。
「陽葵?」
『……なんでもない! さあ、朝まで時間はたっぷりあるし、ゆっくりお話しよ!』
「……よし。警備員がいないなら、栞に報告しないとな」
僕がスマホを取り出すと、陽葵は少しだけ落ち着かない様子で、栞の声が繋がるのをじっと待っていた。
プルルル、という電子音が静まり返った本棚の間に響く。数回のコールの後、栞が電話に出た。
「……悠真くん? 無事なのね?」
「ああ、大丈夫だ。警備員もさっき帰ったよ。今は図書室の奥の方で、窓から光が漏れないように注意してるよ。」
「そう、良かったわ。……陽葵は? 彼女はそばにいるの?」
僕はスマホのスピーカーをオンにした。静まり返った図書室に、栞の声が少し硬く響く。陽葵は膝を抱えて座り、その声を聞き逃さないようにじっと耳を傾けていた。
「隣にいるよ。さっきまで二人で、陽葵がいなくなった後の話をしていたんだ。栞……。僕がどん底だった時、栞がずっと向き合って支えてくれたこと、陽葵に話したよ。陽葵も、栞には本当に助けられたって、すごく感謝してるんだ」
スピーカーから、栞が微かに息を呑む音が聞こえた。一瞬の沈黙の後、彼女はどこか震える声を押し殺すような声で答えた。
「……そう。私は、ただ、あなたが壊れてしまうのが見ていられなかっただけよ。……陽葵がそう言ってくれるなら、救われるわ。」
陽葵はその言葉を聞いて、複雑な表情で視線を落とした。感謝の気持ちと、先ほど教室で見てしまった栞の涙。
その狭間で、陽葵の胸には言葉にならない感情が渦巻いている。
「あ、それとさ、さっき陽葵の帰りを待ってる間に僕、寝ちゃったんだ。起きたら陽葵が目の前にいてびっくりしたよ。こっちは真っ暗なのに、陽葵は寝顔までしっかり見えたって言うんだ。霊になると暗闇でも見えるらしくて、自分でも猫になったのかもなんて笑ってるよ」
僕が冗談混じりに報告すると、栞のふっと力が抜けたような笑い声が聞こえた。
「ふふ、猫か……。真っ暗な図書室で、彼女にずっと寝顔を観察されていたなんて、災難だったわね」
「……でも、陽葵らしいわ」
「全くだよ。本人は可愛かったなんてからかってくるし」
「……いいわ。明日、私が鍵を開けに行くまで、二人でしっかり情報を整理しておきなさい。……おやすみなさい、二人とも」
そう言った栞の声は、どこか少し、何かから逃げるように早足だった。
「あ、栞。まだ何か――」
「ごめんなさい、家政婦に怪しまれると困るから、もう切るわね。……また明日」
彼女はそれ以上僕に言葉を挟ませる隙を与えず、一方的に通話を終了させた。静かな図書室に、ぷつりと切れた無機質な電子音が響く。
「……行っちゃった。栞、やっぱり家だと大変なんだな…。」
僕がスマホを置いて呟くと、陽葵はどこか遠くを見つめるような目で小さく言葉を漏らした。
『……栞ちゃん、本当に優しいよね』
「ああ、そうだな」
僕は陽葵の不安を和らげるように、穏やかに笑って答えた。
「栞は、陽葵のことが本当に大好きなんだろうな。だからこそ、陽葵がいなくなった後も、僕のそばにいて一緒に探し続けてくれたんだと思う。あいつ、不器用だけどさ」
僕がそう言うと、陽葵は少しだけ困ったような、それでいてどこか切なそうな表情を浮かべて、静かに頷いた。
『……うん。そうだね。本当に、大好き……なんだと思う。私に対しても、悠真くんに対しても……。』
陽葵はそれ以上、何かを言いかけるのを飲み込むようにして、僕から視線を外した。小さなライトの光が、二人の間に微かな影を落とす。
「陽葵?」
『……なんでもない! さあ、朝まで時間はたっぷりあるし、ゆっくりお話しよ!』
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