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4章 日食
紐
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学校に着いたのは、始業のチャイムが鳴る直前だった。下駄箱のところで、友人の健斗がニヤニヤしながら僕の肩を叩く。
「お、悠真! ギリギリだな、お前。珍しいじゃん」
「……ああ。ちょっと寝坊しちゃって」
僕はぎこちない笑みを浮かべて誤魔化し、急いで教室へ向かった。
席に着いてから視線を巡らせると、いつもの場所に栞が座っていた。そしてそのすぐ隣、窓際の空席に座って、陽葵がブンブンと大きく手を振っている。僕は周りに悟られないよう、机の下で小さく手を振り返した。
昼休み。僕たちはいつものように、人目のつかない場所で集まった。
僕は、今朝父さんから聞いた話を二人に打ち明けた。
「母さんは、男の人と出て行っちゃってたんだな。父さん、愛想を尽かされたのがショックで、誰にも……僕にも言えなかったみたいなんだ。だから、あの日、僕たちが黙って居なくなった時、あんなに怒ったんだと思う…」
落ち込みながら話す僕に、栞が静かに言葉をかける。
「……お父さんも、ずっと一人で抱えてきたのね。悠真くんが自分を責める必要はないわ。それは、大人の事情だったんだから…。」
栞の言葉に救われる思いがしたが、ふと見ると、陽葵が何かを考え込むように視線を落としていた。
『……お母さんが、「男の人と出て行った」……』
陽葵はそれだけを小さく繰り返すと、そこから繋がる何かを手繰り寄せようとするように、眉間にしわを寄せてじっと黙り込んだ。
僕の話した「母の失踪」という言葉が、陽葵の記憶の刺激を与えたのか、陽葵は何かを言いかけようとして口を開き、けれどまだ形にならないもどかしさに唇を噛み、必死に思考の断片を繋ぎ合わせようとしていた。
その張り詰めた空気を切り裂くように、栞のポケットでスマホが激しく鳴り響いた。
「……お父さんからだわ。ちょっと失礼するわね」
栞は少し離れた場所で電話に出た。けれど、受話器越しの声を聞くうちに、彼女の顔からみるみる血の気が引いていくのがわかった。
「……え? ……そんな、嘘でしょう? ……はい、はい……」
栞の返事は途切れ途切れで、最後にはスマホを持つ手が小刻みに震えだした。通話を終え、ふらふらと僕たちの方へ戻ってきた彼女の瞳は、絶望に近い色で揺れていた。
「……栞? どうしたんだよ、一体何が……」
「……警察が、見つけたって。山の中で……」
栞は喉を詰まらせながら、絞り出すような声で続けた。
「……陽葵のお母さんと、あの彼氏。……二人で、亡く…なっているの…が発見されたんですって…。」
陽葵の肩が、びくりと跳ねた。答えを探して沈黙していた彼女の表情が、その報せを聞いた瞬間、別の衝撃に塗り替えられていくのがわかった。
「お、悠真! ギリギリだな、お前。珍しいじゃん」
「……ああ。ちょっと寝坊しちゃって」
僕はぎこちない笑みを浮かべて誤魔化し、急いで教室へ向かった。
席に着いてから視線を巡らせると、いつもの場所に栞が座っていた。そしてそのすぐ隣、窓際の空席に座って、陽葵がブンブンと大きく手を振っている。僕は周りに悟られないよう、机の下で小さく手を振り返した。
昼休み。僕たちはいつものように、人目のつかない場所で集まった。
僕は、今朝父さんから聞いた話を二人に打ち明けた。
「母さんは、男の人と出て行っちゃってたんだな。父さん、愛想を尽かされたのがショックで、誰にも……僕にも言えなかったみたいなんだ。だから、あの日、僕たちが黙って居なくなった時、あんなに怒ったんだと思う…」
落ち込みながら話す僕に、栞が静かに言葉をかける。
「……お父さんも、ずっと一人で抱えてきたのね。悠真くんが自分を責める必要はないわ。それは、大人の事情だったんだから…。」
栞の言葉に救われる思いがしたが、ふと見ると、陽葵が何かを考え込むように視線を落としていた。
『……お母さんが、「男の人と出て行った」……』
陽葵はそれだけを小さく繰り返すと、そこから繋がる何かを手繰り寄せようとするように、眉間にしわを寄せてじっと黙り込んだ。
僕の話した「母の失踪」という言葉が、陽葵の記憶の刺激を与えたのか、陽葵は何かを言いかけようとして口を開き、けれどまだ形にならないもどかしさに唇を噛み、必死に思考の断片を繋ぎ合わせようとしていた。
その張り詰めた空気を切り裂くように、栞のポケットでスマホが激しく鳴り響いた。
「……お父さんからだわ。ちょっと失礼するわね」
栞は少し離れた場所で電話に出た。けれど、受話器越しの声を聞くうちに、彼女の顔からみるみる血の気が引いていくのがわかった。
「……え? ……そんな、嘘でしょう? ……はい、はい……」
栞の返事は途切れ途切れで、最後にはスマホを持つ手が小刻みに震えだした。通話を終え、ふらふらと僕たちの方へ戻ってきた彼女の瞳は、絶望に近い色で揺れていた。
「……栞? どうしたんだよ、一体何が……」
「……警察が、見つけたって。山の中で……」
栞は喉を詰まらせながら、絞り出すような声で続けた。
「……陽葵のお母さんと、あの彼氏。……二人で、亡く…なっているの…が発見されたんですって…。」
陽葵の肩が、びくりと跳ねた。答えを探して沈黙していた彼女の表情が、その報せを聞いた瞬間、別の衝撃に塗り替えられていくのがわかった。
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