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5章 日月
馬鹿なこと
しおりを挟む『私は、悠真くんのことが、好きなのに……悠真くんじゃない人に……っ』
陽葵は涙で声を途切れさせ、自分の体を隠すように座り込んだ。その姿は、かつての明るい彼女からは想像もつかないほど、深く傷ついていた。
それを見た僕は、全身が激しい怒りと嫌悪感で震えた。
「なんだよそれ……。父さんが陽葵のことを愛してる? ふざけるなよ……ふざけるな!!」
僕は叫んだ。父さんが陽葵に抱いていたのは、僕が知っているような純粋な親愛などではなかった。アルバムの空白、母さんに似た陽葵の面影、そして執着。すべてが最悪の形で繋がってしまった。
栞は、陽葵の声と僕の言葉から、事件の真相を理解したのか。その顔には絶望が広がり、顔の色がなくなって体を震わせていた。
「……つまり、あなたのお父さんは、陽葵ちゃんを……」
栞の言葉が最後まで続くことはなかった。
泣きじゃくる陽葵の姿を見ていると、視界が憎しみで真っ赤に染まっていくようだった。
僕が世界で一番愛している陽葵を、父さんは母さんの身代わりにしようと攫って無理矢理……。しかも、そんなおぞましいことをしたのが、自分と同じ血が流れている肉親だなんて。
今すぐ自分の体の中にある血をすべて入れ替えてしまいたい。死んでしまいたいと思うほど、自分自身の存在すら気持ち悪くて仕方がなかった。
でも、あいつだけは……あいつだけは、絶対に許さない。
僕が立ち上がると、その異様な気配に気づいた栞が、必死な顔で僕の腕を掴んだ。
「……悠真くん、待って。早まったことは考えないで」
栞の瞳には恐怖と理性が混ざり合っていた。
「確かに、あなたのお父さんがやったことは万死に値するわ。でも、あなたが今考えていることは……誰も、陽葵ちゃんさえも幸せにしない。お願いだから、警察に話をしましょう」
僕は栞の顔をじっと見つめ、無理やり作った笑顔で答えた。
「大丈夫だよ、栞。ちゃんと警察にも連絡する。栞が心配しているようなことはしないから。……ごめん、少しトイレを借りていいかな?」
少し恥ずかしそうに言った僕を見て、栞はまだ疑わしそうな、けれど少しだけ安堵したような複雑な表情で僕を放した。
「……本当に、馬鹿なこと考えないでね」
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」
僕は静かに扉を閉めた。
そして、トイレには向かわず、音を立てずに階段を駆け下りると、そのまま栞の家を飛び出した。
夜の冷たい風が頬を打つ。手の中には、陽葵の指輪が固く握りしめられていた。
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