転生先がサイコパス一家だったので悪役令嬢になりきってみせます!

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任務終了

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「……ねぇ、そろそろやめない?」

私は兄上の背後から声をかけた。

「……」

ズブッ、ズブッ、ズブッ

返事はない。

兄上はまだ護衛長の頭を刺し続けていた。

「……いや、もう死んでるよね?」

「ていうか、これ以上刺しても意味なくない??」

「おーい、聞こえてますかー??」

ズブッ、ズブッ、ズブッ

「……ダメだ、完全にゾーンに入ってる」

どうしよう、このままだとこの人マジで朝まで刺し続けそうなんだけど……!!

仕方なく、私は思い切って兄上の肩をガシッと掴んだ。

「いい加減にしなさい!!!!」

「うおっ!!??」

兄上の手が止まる。

「はぁ……やっと止まった……」

「いや、あんたがどんなに護衛長を刺したところで、もう死んでるんだから意味ないでしょ!?」

「ほら、そろそろ行くよ!! まだここにいたら別の奴らが来るかもしれないんだから!!!」

私は兄上を無理やり引っ張り、再び走り出した。



暗闇の中をひたすら走り続けた。

後ろには獣人たちもついてくる。

誰もが疲れ切っていたが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

「はぁ……はぁ……あと少し……!!!」

それでも、一向に兄上が追いついてこない。

「……どこ行った?」

私は後ろを振り返り、兄上の姿を探したが、どこにもいなかった。

「……いやいや、どこ行ったんだよ!!!???」

あの人、また単独行動してる!?!?!?

でも、今は兄上のことを気にしている場合じゃない。

「いいや、もう置いてく!!」

どうせまた勝手に戻ってくるだろうし、 そんなことより今は獣人たちを安全な場所に連れて行くことが先決だ。

兄上のことはとりあえず無視して、私はまた前を向いた。



夜が明け始めた頃、ようやく足を止めることができた。

「はぁ……はぁ……つかれたぁ……!!!」

もう限界だった。

獣人たちも皆、体力の限界に達していた。

「……で、兄上は?」

そう思って周りを見渡した瞬間──

「あっ、いるし!!」

気づけば、兄上が普通に合流していた。

しかも、その背中には……

「え、リオン!?!?!?」

兄上は、気絶したリオンを背負っていた。

「いや、ちょっと待って!! どこで拾ってきたの!?!?」

「何!? もしかしてずっと気にしてたの!??」

そう思った瞬間、兄上がポツリと呟いた。

「こいつには、孤児院の不正の証人になってもらう。」

……はぁい、そうですよね。

「いや、さすがに兄上が善意で助けるわけないよね!?!?!?」

「普通に考えて、何か利用するためだよね!!??」

私はツッコミを入れつつも、心の中は別のことでいっぱいだった。

「……これから、どうするの?」

ここまで来たはいいけど、目的もはっきりしないまま逃げてきた。

この獣人たちをどこへ連れて行くのか?

ヴァルムント家に帰ったら、どうなるのか?

兄上は? 私は?

考えれば考えるほど、先が見えなかった。

その時──

「いやいや、素晴らしいです!!!」

突然、拍手の音が響いた。

「お二方、まさかこのように脱出を成功させるとは……思ってもみませんでした!!!」

「……!!??」

私はビクリと体を震わせた。

その場にいた誰もが驚き、身構えた。

でも、この声を聞いた時点で、すぐに察した。

「……はぁ、やっぱりヴァルムント家の人間か……」

そして、思った通り。

男は優雅に微笑みながら、思い出したかのように自己紹介をした。

「遅れました。私、ヴァルムント公爵家で“侍従長”を務めております。」

……はぁ、やっぱりそうだよね。

「このタイミングで現れるとか、なんでヴァルムント家の人間はそうやって都合のいい時に出てくるの!?!?!?」

男は、淡々と続ける。

「では、お二方──“任務終了”です。」

「……」

普通なら喜ぶべき瞬間なのかもしれない。

でも、私はすぐには喜べなかった。

「……この獣人たちは?」

私は侍従長を真っ直ぐに見つめ、問うた。

すると、彼は微笑を崩さぬまま、指を軽く鳴らした。

ゴゴゴゴゴ……!!!

奥から、大量の荷馬車が現れる。

「……!!??」

「え、ちょっと待って……この数……」

「どうやってこんな短時間で用意したの!?」

侍従長は、当たり前のように言った。

「こちらの荷馬車に、獣人の方々にはお乗りいただきます。」

「……」

なんなんだよ、ヴァルムント家……!!

「さすがに、ヤバすぎない!?!?」

私は改めて、ヴァルムント家の恐ろしさを思い知った。



その時だった。

ドサッ。

「……ん?」

私は音のした方を振り向いた。

「……兄上?」

兄上が、倒れていた。

「え、ちょっと待って!? なんで!?」

「……いや、よく考えたら、今まで立ってられたのが奇跡だったわ!!!」

瀕死の状態で戦い続け、何事もなかったように歩いていた兄上。

でも、普通に考えたら、こんな状態で耐えられるほうがおかしい。

「……ほんと、何者なの……」

すぐに侍従たちが駆け寄り、治療を始める。

回復魔法と応急処置が施され、兄上の傷がみるみる塞がっていく。

「……いや、これが普通に行われるヴァルムント家、やっぱりおかしいよ!!!」

「こんなの、常識が狂ってる!!!」

そして、ふと思った。

「……私も、ここで生きる限り、いつか兄上みたいに“こんな風に”戦えるようにさせられるんじゃ……?」

ゾッとした。

「……先のこと、考えたくない……」

「でも、考えずにはいられない……!!!」

私は、治療される兄上を見つめながら、暗い気持ちになった。

──これから先、自分がどうなってしまうのか。

考えれば考えるほど、不安だけが募っていくのだった。

馬車に乗り込んだ瞬間、私はそのまま意識を手放した。

もう限界だった。

疲労は骨の髄まで染み渡り、まぶたは鉄の扉のように重い。

「……もう無理……」

何かを考える余裕すらなく、私は深い眠りへと落ちていった。

──そして。

「お嬢様、到着いたしました」

静かに響く声で目を覚ました時、私はすでにヴァルムント家の門の前にいた。

「……え?」

「着いたの?」

「っていうか、私、いつから寝てたの!?!?!?」

体は鉛のように重い。

目を擦りながら馬車から降りると、そこには獣人たちが集められていた。

「……あれ?」

嫌な予感がする。

その予感は、すぐに的中した。

「……来たか」

──ヴァルムント公爵が、そこにいた。



侍従長の案内で、私は兄上とともに公爵の前に立った。

その場には、解放した獣人たちも控えている。

「まずは、よくやった」

公爵の低い声が響いた。

「当初は孤児院の不正を調査するだけの予定だったが……まさか、お前たちがそのまま奴隷商に連れて行かれるとは思っていなかった」

「だが、その結果──不正の証拠を掴み、あのゴミどもに一泡吹かせられた。」

公爵の口元が、わずかに持ち上がる。

「満足している。」

「いや、もっと心配するとかないんですか!?!?!?」

私は心の中で全力でツッコんだ。

「まぁ……生きて帰ってこれたから、いいのか……?」

公爵は淡々と続ける。

「無事に任務を終えた褒美を与える。何が望みだ?」

……きた。

褒美の話が出た瞬間、私はすでに心を決めていた。

「これはもう、あれしかない!!!」

でも、その前に兄上が口を開いた。

「俺はいらない」

「……は?」

「え、どうした急に!?!?!?」

「理由は?」

公爵が兄上を見つめる。

すると、兄上は堂々と答えた。

「妹から学ぶことがあったからだ」

「…………」

「…………え?」

「いや、めっちゃ謙虚やん!!??」

「さっきまで人の頭を滅多刺しにしてた人と同じ人間!?!?」

兄上の意外な発言に私は目を丸くしたが、公爵はあっさりと頷いた。

「そうか」

「では、エリシア。お前はどうする?」

公爵の視線が、私に向けられる。

私は、一瞬の迷いもなく告げた。

「──獣人たちを奴隷から解放してください!」

堂々と、はっきりと。

すると、公爵は即答した。

「──ダメだ」

「……え?」

早ッッッ!!!

「……こいつらは、経緯はどうあれ、正式な手続きを経て奴隷となった者がほとんどだ」

「たまたま非合法の奴隷商に行きついただけであり、解放する理由にはならん」

「それに、解放したとして──どこへ行く?」

公爵の冷たい言葉に、獣人たちは静まり返る。

だが──

「……まだ、私は言い終えていません!」

私は一歩前に出た。

公爵の鋭い視線が、私を射抜く。

心臓が跳ねた。

怖い。

でも、ここで引くわけにはいかない。

「獣人たちを奴隷から解放してください。」

「そして──彼らを、私の侍従にさせてください!」

「……!!」

静寂。

公爵は、一瞬驚いたように眉を動かした。

「……ほう」

短く考え込んだ後、

「……それならば仕方がない」

「しっかりと教育するように」

そう言い残し、公爵は去っていった。

「……え、いいの!?」

「マジで通ったんだけど!!??」

私は驚きつつも、安堵の息をついた。

すると──

「……ありがとう、エリシア様」

獣人のリーダーが、一歩前に出た。

「……?」

彼の鋭い目が、まっすぐに私を捉える。

「私たちは当初、あなたが“あなたたちの居場所を提供します”と言ったのは、その場しのぎの言い訳だと思っていました。」

「どうせ、危機を脱したら捨てられるだろうと」

「なんせ、私たちは王国では駆除対象だからです」

リーダーの言葉に、獣人たちが一斉に頷く。

「でも……あなたからは、私たちに対する差別の念を感じなかった。」

「今までずっと差別されてきた私たちには、そういうものが本能的にわかるのです」

「だからこそ、あなたについていってみようと思えました」

「──その選択は、正しかった」

リーダーの言葉に、私は息を呑んだ。

「……」

「獣人とは、施された恩義には何倍もの施しによって返す文化があります」

「しかし、それとは別に──」

「私たちは、あなたの“相手を説得する能力”、即座に計画を立てる“知能”、そして“危機に陥った時にすぐに行動する力”──」

「その全てに、心を動かされました」

「──ここにいる総勢30人の獣人の忠誠を、どうかお受け取りください」

「……」

「……」

「おっっも~~~~~~~~~~~~い!!!!!」

「いや、そんな重いの受け取れるわけないじゃん!!??」

30人の忠誠って何!?!?!?!?!?!?

私の頭の中は混乱したまま、獣人たちの視線を浴びていた。

「……やばい、もう後戻りできないやつだ……!!!」

私は、ヴァルムント公爵家の“主”としての道を、一歩踏み出してしまったのだった。
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