皇女様はモフりたい!〜皇位争いに疲れたので自分だけの動物の王国を作ります!〜

パクパク

文字の大きさ
14 / 14

第14話:王都の動きと、差し出された密書

しおりを挟む
王都・レグレア。
その中心にそびえる白金の宮殿の奥、重厚な扉の向こう――
静かな会議室にて、“皇族不在”という現実が、ついに公式の議題となった。

 

「……第五皇女殿下、アリシア様の動向は、いまだ不明のまま。
 所在不明となってより、すでに八十六日。正式な失踪扱いとなります」

 

王室高官の報告に、室内の空気がわずかに揺れる。

皇子派閥の重鎮たちが互いの顔色を伺い、
王の名を口にせずに、“権力の穴”をどう埋めるかの計算が始まる。

 

だがその中――ただ一人、興味深そうに報告書をめくる者がいた。

 

ルゼリア・セレナシア。第七皇女。
アリシアの妹にして、王宮一の“天才観察者”。

 

「ねえ、“不明”って、何を基準にそう言ってるの?」

 

「……は?」

 

「“見つけられない”ことと、“いない”ことは違うわ。
 あなたたちは、どっちのつもりで“不明”って言ってるの?」

 

その言葉に、会議室の空気が凍りついた。

誰も、答えられなかった。

 



 

その日の夜。
王都の裏通り、誰も寄りつかない古い書庫の一室で、
リュミエールは、ひとつの密書を封筒に収めていた。

 

中には、彼女がこの数ヶ月で独自に収集・解読した結界情報と、
アリシアの魔力の反応パターン、そして――“提案”が書かれていた。

 

それは、王都からの“帰還命令”でも、説得でもない。

ただ、アリシア自身に向けて問う一文。

 

「あなたが選ぶなら、それを支える道もある」

 

リュミエールは、それだけを残して封をした。

 

(あなたの居場所は、あなた自身が決めるもの。
 でも、たとえ“逃げた”と思われようと――
 私は、あの日のあなたの選択を、間違いだとは思わない)

 

その封筒を託す相手は、すでに決まっている。

レイヴン・ユスティス。
あの“森に迷い込んだ青年”は、王都と森を繋ぐ唯一の中立点。

 

彼なら、信じられる。
少なくとも、“選ばせること”を選べる人だと、リュミエールは判断していた。

 



 

「……お届けもの?」

 

「うん、アリ……じゃなかった、“リシア”宛て」

 

森の小道、夕方の光の中。
レイヴンは、リュミエールから預かった封筒を、そっと手にしていた。

その表書きには、名前も印も書かれていない。
ただ、さりげない魔力の印だけが、アリシアなら気づける“合図”として込められていた。

 

「……ほんとに、これだけ?」

 

「ええ。中身を読むかどうかも、彼女次第。
 でも、“知らないまま”にしておくには――惜しいと思ったの」

 

リュミエールは、柔らかく微笑んだ。

その瞳には、かつての主への想いと、静かな祈りが込められていた。

 

「どうか、迷わないで」

 



 

その夜、森の小屋に戻ったレイヴンは、アリシアに封筒を渡した。

彼女はそれを手に取ると、わずかに指をふるわせて――

 

「……この魔力。リュミエール……」

 

ぴゅるんが、小さく「ぴぃ……」と鳴いた。

私は深く息を吐いて、封を切る。

そこに書かれていたのは、たった数行の手書きの文字だった。

 

「私は、あなたの“選んだ国”を、間違いだと思わない」
「必要なら、王都の情報を届けます。必要ないなら、捨ててください」
「あなたが選ぶなら――私は、選ばれなくても、構いません」

 

私は、息が詰まりそうになるのを感じながら――
それでも、はっきりと答えた。

 

「……うん。選ぶよ、ちゃんと」

 

ぴゅるんが、私の肩にそっと寄り添う。

モフリスが、ふよよんの背に乗ってふわりと浮いてきた。

私は、微笑んで言った。

 

「ここが私の国。私の居場所。
 でも、王都と“敵”になるつもりはない。
 だからこそ、繋がる道は――私が選ぶ」

 

静かな夜。
けれど、確かに風向きが変わった。

次に来る波が、ただの追跡や捜索ではないと――
私にはもう、わかっていた。

 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

道産子
2025.06.13 道産子

いつか続きが読みたいです(о´∀`о)

解除

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。