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第一章17:おつかれ姫様、控室にて。
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ドアが閉まる音を背中で聞いた瞬間、私はふにゃっとその場に崩れた。
緊張してた。もう、ほんっっっとに緊張してた。
侯爵の視線も、空気の重さも、父の言葉も。全部がすごすぎて、耐えたのが奇跡ってレベル。
私は控室のソファに倒れ込み、両手を広げて天を仰ぐ。
「終わったああああああああ……!!」
誰にも見られてないと信じて、全身で脱力。
ちゃんと喋れたかは記憶が曖昧。
でもたぶん、変なことは言ってない。変なことは言ってないはず……!
「……姫様」
その声に、私はびくっと飛び上がった。
そこには、クラウスが静かに立っていた。
「……お疲れ様でございました」
「うぅ、ありがとうクラウス……助けてくれて……」
私がソファから立ち上がろうとするのを見て、クラウスはゆっくりとティーカップを差し出してくれた。
香り高いミントティー。ほっとする、優しい匂い。
「お見事でした。言葉の選び方、間合い、沈黙の取り方。どれも、よくできておりました」
「いや、あれたぶん“黙ってた”んじゃなくて“何も出てこなかった”だけだから……」
「沈黙も、時には強い意志の証明です。姫様の“言えなさ”が、かえって誠実に映ったのでしょう」
クラウスは、どこか誇らしげだった。
「……それでも、本当によくお話しくださいました。
私は、前王にも仕えてまいりましたが……この数年で、今日ほど“王家が誇らしい”と感じた日はありませんでした」
そんなこと言われたら、泣く。
私は目元を両手で覆って、必死に堪えた。
「もう……泣かせに来てるでしょ……!」
「いいえ。私はあくまで、客観的な感想を述べただけで」
ちょっと笑ってるのが、ずるい。
* * *
控室の扉が、こんこんと軽くノックされた。
「入っていいか?」
開いた扉の先に、兄がいた。
相変わらず黒いロングコート、書類を数枚抱えたまま。
「侯爵の感情の揺らぎ、分析してみた。……結果、だいぶ好印象だったらしい」
「分析って……何かの実験台にされた気分……」
「だが一つ言っておこう。“感情の綻び”は、お前の“言葉を選ばない誠実さ”に反応して起きていた。……つまり、お前の勝ちだ」
「勝ち負けだったの!?」
でも、たぶんそれって、褒めてくれてるんだよね……?
兄なりの、最大限の“すごかったよ”だったんだと思う。
その後、テンション高めのノックが響いたと思ったら、次に入ってきたのは母だった。
「ねぇ聞いた!? 聞いた!? 侯爵との対談、見事にこなしたって!? いや~うちの子、ほんと誇らしいわ~!!」
母はもう、褒める気満々のオーラ全開で、
私の手を握ってぐるぐる回しながら大騒ぎ。
「ちょっと待って、ドレスどうだった!? 清楚系にして正解だったでしょ!? あれで好感度+20よ、絶対!」
「そ、そんな数値で評価されるの……!?」
「お茶も正解だったわね! あの香り、知的貴族大好き系!」
「どっちかというとクラウスが選んでくれたけど……!」
そして、最後に無言で入ってきたのは、弟。
「……侯爵とのやり取り、すごかった」
ぽつりと、それだけ。
「え? なんか……褒めてくれてるの?」
「……わかりにくかったら、言い直す。“姉はすごかった”。……誇らしい」
その瞬間、私はほんとに泣きそうになった。
この子が、こんなストレートな言葉使うなんて。
自分でびっくりしてるのか、表情はちょっと不器用だったけど――その分、嬉しかった。
気づけば、家族全員が、私の控室に集まっていた。
ひとりずつ違う言い方で、でも同じことを伝えてくれた。
――「ちゃんと頑張れたね」って。
「……ありがとう、みんな」
ぽつりとこぼした私の言葉に、誰もがふわりと微笑んだ。
その空間は、どこよりも暖かくて、
私はようやく、心から一息、つくことができた。
(うん……これで、また少し、自信が持てた気がする)
緊張してた。もう、ほんっっっとに緊張してた。
侯爵の視線も、空気の重さも、父の言葉も。全部がすごすぎて、耐えたのが奇跡ってレベル。
私は控室のソファに倒れ込み、両手を広げて天を仰ぐ。
「終わったああああああああ……!!」
誰にも見られてないと信じて、全身で脱力。
ちゃんと喋れたかは記憶が曖昧。
でもたぶん、変なことは言ってない。変なことは言ってないはず……!
「……姫様」
その声に、私はびくっと飛び上がった。
そこには、クラウスが静かに立っていた。
「……お疲れ様でございました」
「うぅ、ありがとうクラウス……助けてくれて……」
私がソファから立ち上がろうとするのを見て、クラウスはゆっくりとティーカップを差し出してくれた。
香り高いミントティー。ほっとする、優しい匂い。
「お見事でした。言葉の選び方、間合い、沈黙の取り方。どれも、よくできておりました」
「いや、あれたぶん“黙ってた”んじゃなくて“何も出てこなかった”だけだから……」
「沈黙も、時には強い意志の証明です。姫様の“言えなさ”が、かえって誠実に映ったのでしょう」
クラウスは、どこか誇らしげだった。
「……それでも、本当によくお話しくださいました。
私は、前王にも仕えてまいりましたが……この数年で、今日ほど“王家が誇らしい”と感じた日はありませんでした」
そんなこと言われたら、泣く。
私は目元を両手で覆って、必死に堪えた。
「もう……泣かせに来てるでしょ……!」
「いいえ。私はあくまで、客観的な感想を述べただけで」
ちょっと笑ってるのが、ずるい。
* * *
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「入っていいか?」
開いた扉の先に、兄がいた。
相変わらず黒いロングコート、書類を数枚抱えたまま。
「侯爵の感情の揺らぎ、分析してみた。……結果、だいぶ好印象だったらしい」
「分析って……何かの実験台にされた気分……」
「だが一つ言っておこう。“感情の綻び”は、お前の“言葉を選ばない誠実さ”に反応して起きていた。……つまり、お前の勝ちだ」
「勝ち負けだったの!?」
でも、たぶんそれって、褒めてくれてるんだよね……?
兄なりの、最大限の“すごかったよ”だったんだと思う。
その後、テンション高めのノックが響いたと思ったら、次に入ってきたのは母だった。
「ねぇ聞いた!? 聞いた!? 侯爵との対談、見事にこなしたって!? いや~うちの子、ほんと誇らしいわ~!!」
母はもう、褒める気満々のオーラ全開で、
私の手を握ってぐるぐる回しながら大騒ぎ。
「ちょっと待って、ドレスどうだった!? 清楚系にして正解だったでしょ!? あれで好感度+20よ、絶対!」
「そ、そんな数値で評価されるの……!?」
「お茶も正解だったわね! あの香り、知的貴族大好き系!」
「どっちかというとクラウスが選んでくれたけど……!」
そして、最後に無言で入ってきたのは、弟。
「……侯爵とのやり取り、すごかった」
ぽつりと、それだけ。
「え? なんか……褒めてくれてるの?」
「……わかりにくかったら、言い直す。“姉はすごかった”。……誇らしい」
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気づけば、家族全員が、私の控室に集まっていた。
ひとりずつ違う言い方で、でも同じことを伝えてくれた。
――「ちゃんと頑張れたね」って。
「……ありがとう、みんな」
ぽつりとこぼした私の言葉に、誰もがふわりと微笑んだ。
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