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第二章①:その時、母が動いた。〜令嬢再デビュー計画、始動〜
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春の日差しがやわらかく差し込む午後。
私はお気に入りの椅子に腰掛けて、ミント入りの紅茶をちびちび飲んでいた。
控室でのご褒美タイムから数日。
侯爵との対談をなんとかやり切った自分へのご褒美として、
今日は「一日なにもせず、ぼーっとする日」にしようと決めていたのだ。
だが――そのささやかな幸せは、あまりにも突然に、破壊された。
ドン!!!!!
「聞いたわよおおおおおおおおおおおお!!!!」
部屋の扉が、爆音とともに開かれた。
「ちょ、ちょっとお母様!? ドア!ドア破れる!?」
勢いよく飛び込んできた母は、ドレス姿のまま、なぜか扇子を振り回していた。
顔は全力の満面の笑み。目が輝きすぎてて、逆に怖い。
「あなた! 侯爵との謁見、最高だったじゃないの!!」
「あ、ありがとう……でも、なんでそんな全力で!?」
「だからよぉ~~!! 今こそ! このタイミングこそが!
“あなたの社交界再デビュー”に最適な瞬間なのよおおおおお!!」
「は!?!?!?」
私は紅茶を吹いた。
「待って待って待って、今なんて!? “再”!? “デビュー”!? それに“今”? どのワードもやばいって!!」
「だって、今までのあなたは“腹黒悪役令嬢”ってレッテル貼られてて、社交界からは半分閉め出されてたじゃない。
でも今は違う! あの侯爵まで動かした“誠実な王女”として、名実ともに社交界に戻るチャンスなのよ!!」
「え、ちょっ、あのね、私、まだ覚悟できてないというか……」
「大丈夫よ! ドレスも用意してあるし、紹介状も書いたし、開催されるパーティの日時も全部押さえてあるし! 招待状も出したから!」
「ええええええ!? フルコンボ完成してるううう!?」
私は椅子から転がり落ちた。
「いつ!? いつの間にそんな準備してたの!? 私、まったく聞いてないんだけど!? ていうか、私の意見は!? 出たいとか言ってないんだけど!?」
「それは“聞いたら絶対逃げる”と思ったから、最初から“やる前提”で動いてたわ!」
「その判断、どこで学んだの母上ぇ!!」
その後も母は、“社交界リベンジ大作戦”の計画を熱く語り始めた。
用意されているドレスは、何パターンもあるらしい。
もちろん髪型とアクセも、フルコーデ済み。
当日用に“第一印象で好感度を取る仕草集”という謎の冊子まで準備済み。
「あなたはね、今だからこそ“好感度爆上げスタート”を切れるのよ!?
ここでうまく立ち回れたら、“あの姫はやっぱり本物だった”って社交界の大人たちが認めてくれるの!!」
「ちょっと待って、その“大人たち”って、お母様含まれてますよね!?」
「当然でしょ!? というか主催よ!」
「もうやだこの家族ぅぅぅ!!」
でも――なんだろう。
この母のテンション、全然ついていけないけど、
ここまで“背中を押す気満々”で動いてくれてるって、ちょっと嬉しい。
「……私がまた、失敗したらどうするの?」
ふと、ぽつりと漏れた本音。
昔の私が、社交界で“派手なやらかし”をしたことは、忘れられてない。
今の私は別人だけど、過去は消えない。
でも、母は即答した。
「そのときは、私が全部フォローする。
あなたが何を言っても、私が隣で“その通りよ!”って言ってあげる。
そして言うの。“今のあの子を、見てあげてください”って」
「…………」
「だからね? まずは、“立ってみる”ことだけ考えて?
歩くのは、それからよ」
……うん、母ってほんと、すごい。
暴走系だし、テンションおかしいし、ちょっとレース多めの女だけど。
それでも、私はこの人の娘でよかったって、心から思える。
「……わかった。……やってみる。少し、怖いけど」
「うんうん! 大丈夫、可愛く仕上げてあげるから!」
「そっちの“可愛い”はどういう方向なの……?」
こうして、私は――
かつて閉ざされた社交の世界へ、もう一度、足を踏み入れることになる。
中身は変わっていても、“過去の噂”は生きている。
でも、今の私は、逃げたくないと思った。
見ててね。
私は、ちゃんと変わったんだって――この世界に伝えてみせる。
私はお気に入りの椅子に腰掛けて、ミント入りの紅茶をちびちび飲んでいた。
控室でのご褒美タイムから数日。
侯爵との対談をなんとかやり切った自分へのご褒美として、
今日は「一日なにもせず、ぼーっとする日」にしようと決めていたのだ。
だが――そのささやかな幸せは、あまりにも突然に、破壊された。
ドン!!!!!
「聞いたわよおおおおおおおおおおおお!!!!」
部屋の扉が、爆音とともに開かれた。
「ちょ、ちょっとお母様!? ドア!ドア破れる!?」
勢いよく飛び込んできた母は、ドレス姿のまま、なぜか扇子を振り回していた。
顔は全力の満面の笑み。目が輝きすぎてて、逆に怖い。
「あなた! 侯爵との謁見、最高だったじゃないの!!」
「あ、ありがとう……でも、なんでそんな全力で!?」
「だからよぉ~~!! 今こそ! このタイミングこそが!
“あなたの社交界再デビュー”に最適な瞬間なのよおおおおお!!」
「は!?!?!?」
私は紅茶を吹いた。
「待って待って待って、今なんて!? “再”!? “デビュー”!? それに“今”? どのワードもやばいって!!」
「だって、今までのあなたは“腹黒悪役令嬢”ってレッテル貼られてて、社交界からは半分閉め出されてたじゃない。
でも今は違う! あの侯爵まで動かした“誠実な王女”として、名実ともに社交界に戻るチャンスなのよ!!」
「え、ちょっ、あのね、私、まだ覚悟できてないというか……」
「大丈夫よ! ドレスも用意してあるし、紹介状も書いたし、開催されるパーティの日時も全部押さえてあるし! 招待状も出したから!」
「ええええええ!? フルコンボ完成してるううう!?」
私は椅子から転がり落ちた。
「いつ!? いつの間にそんな準備してたの!? 私、まったく聞いてないんだけど!? ていうか、私の意見は!? 出たいとか言ってないんだけど!?」
「それは“聞いたら絶対逃げる”と思ったから、最初から“やる前提”で動いてたわ!」
「その判断、どこで学んだの母上ぇ!!」
その後も母は、“社交界リベンジ大作戦”の計画を熱く語り始めた。
用意されているドレスは、何パターンもあるらしい。
もちろん髪型とアクセも、フルコーデ済み。
当日用に“第一印象で好感度を取る仕草集”という謎の冊子まで準備済み。
「あなたはね、今だからこそ“好感度爆上げスタート”を切れるのよ!?
ここでうまく立ち回れたら、“あの姫はやっぱり本物だった”って社交界の大人たちが認めてくれるの!!」
「ちょっと待って、その“大人たち”って、お母様含まれてますよね!?」
「当然でしょ!? というか主催よ!」
「もうやだこの家族ぅぅぅ!!」
でも――なんだろう。
この母のテンション、全然ついていけないけど、
ここまで“背中を押す気満々”で動いてくれてるって、ちょっと嬉しい。
「……私がまた、失敗したらどうするの?」
ふと、ぽつりと漏れた本音。
昔の私が、社交界で“派手なやらかし”をしたことは、忘れられてない。
今の私は別人だけど、過去は消えない。
でも、母は即答した。
「そのときは、私が全部フォローする。
あなたが何を言っても、私が隣で“その通りよ!”って言ってあげる。
そして言うの。“今のあの子を、見てあげてください”って」
「…………」
「だからね? まずは、“立ってみる”ことだけ考えて?
歩くのは、それからよ」
……うん、母ってほんと、すごい。
暴走系だし、テンションおかしいし、ちょっとレース多めの女だけど。
それでも、私はこの人の娘でよかったって、心から思える。
「……わかった。……やってみる。少し、怖いけど」
「うんうん! 大丈夫、可愛く仕上げてあげるから!」
「そっちの“可愛い”はどういう方向なの……?」
こうして、私は――
かつて閉ざされた社交の世界へ、もう一度、足を踏み入れることになる。
中身は変わっていても、“過去の噂”は生きている。
でも、今の私は、逃げたくないと思った。
見ててね。
私は、ちゃんと変わったんだって――この世界に伝えてみせる。
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