漆黒の魔術師と金の聖女ー時空転移は永遠の出会いー

雛瀬智美

文字の大きさ
28 / 42
第二章

番外編「悪夢(☆)」

しおりを挟む
悪夢と言いつつらぶらぶです。

最終話までご覧になった上で、どうぞ。








  微笑みながら目の前を駆けていく愛しい女。

「クライヴ、こっちよ」

 金髪、青い瞳、こちらを映す眼差しの清廉さ。

 全てにおいて、クライヴを支配してやまなかった。

 手に入れたつもりでも、逆に手玉に取られている。

 長い間認めたくなかった事実を

  あっさりと認めている自分がいた。

「ルシア」

 名を呼んで、追いかける。離さぬよう手を掴んだ

 ……つもりだった。触れたと思ったのに、その姿は掻き消えた。

 まるで、最初からいなかったかのような鮮やかな消失。

 唖然とする。目の前の景色が揺らぐ。

 辺りを探してみても見つからず

  むなしい叫びだけが庭園にこだまする。

 場内をくまなく探しまわっても

  どこにもおらず、不安が込み上げてくる。

 瞬間転移を使い、城内や森を探したが、ルシアはいなかった。

 息を切らし、走り抜けた先は、魔界への扉がある場所だった。

 白い壁に触れて、呪文を唱える。

 通り抜けた先に、馴染みの存在を見つけて、息をつく。

(こいつの存在に安心したみたいで気分が悪いな)

「……ちゃんと門を見張ってろよ。ケルベロスだろ」

『どうした、機嫌が悪いな。髪が逆立ってるぞ』

 からかわれて、むっとする。

  弄ばれている気がしてならない。

 相手は途方もない年月を生きている魔物であり、

  いちいち腹を立ててもしょうがないのだが。

「ルシアはこっちに来なかったか? 」

『来てないが』

「城内のどこにもいないんだ。

 俺に何も告げずにいなくなるなんて今までなかったのに」

『……探していない場所もあるんじゃないか。

 他に行く場所があるわけじゃなしどこかにいるだろう』

「そうだな」

 ケルベロスは悠然と構えていた。

 地獄の番犬ケルベロスのくせして、

  ふらふら散歩とは優雅なものだと思ったが、

 奴に励まされたのは確かなので、

  軽く手を振って、光の壁をくぐった。

 後ろから、何やら聞こえた気がするが

  気のせいだと思うことにした。

 若干、後ろ髪が逆立っていることも。

『……ルシアは一人で魔界に来れないだろうに。

 恋は盲目というやつか。

  馬鹿になったものだが、前より可愛げが出てきたじゃないか』

 城内に戻り、サンルームへ向かう。

  気分を落ち着かせようと思ったが、逆効果だった。

 今日は快晴のようで柔らかな日差しが、

  天窓から室内に降り注いでいる。

 一気に滅入ってきて、寝台に横たわる。

  一人では広すぎる。

 隣りに彼女がいたら、抱き寄せて離さないのに……。

 どっと押し寄せてきた疲労が、眠りへといざなう。

  眩しいから余計眠いのだろう。

 俺も焦って、探し損ねているのかもしれないし、

  その内帰ってくるはずだ。

 上向きになり、瞼の上に腕を当てて瞳を閉じた。

 瞼の奥から熱いものがじわりと込み上げてきてはっとする。

「何かの間違いだ……」





「……クライヴ」

 根暗な彼のことだ。

  寝室にこもっているに違いないと思ったら

 案の定、真っ暗な部屋にいた。

  寝台の上で、眠っている。

 時々苦しそうに呻いているので、

  額に手を当ててみたらひどい汗だった。

 ぎゅっ、と手を握り、起こさないように

  そっと覗きこんでみる。

「うわっ」

「ひゃあ……」

 大げさなほど驚かれてこちらの方が驚いた。

 浅い眠りだったのだ。

「悪い夢でも見たんですか? 」

「夢……ああ、夢だったのか」

 一瞬、呆然としたクライヴは、

  納得したように息をついて、私を抱き寄せた。

 彼の胸の中に倒れこんで、硬い胸を感じて、どきりとする。

 確かな引力に導かれて、こちらからも腕を回した。

「この部屋はちょうどいい暗さでほっとする。

 夢の中ではサンルームで寝たからな」

「……ぷっ」

 吹き出したら、笑いが止まらなくなった。

 体をくねらせて笑い転げる私は体を

  反転させられ、気づけば組み敷かれていた。

「償えよ」

「ご、ごめんなさい! 笑い過ぎですよね……」

 冗談ぶってみたが彼のシリアスな雰囲気は変わらなかった。

 頬に触れる手が、熱い。

  唇の上で触れては離れるキス。

 ついばむ音が艶めかしく響く。

「俺がどんなに心配したか分かるか。 

 目の前で幻みたいに掻き消えたお前を必死で探し回って。

 城内にも森にもいなかったから魔界まで行ったんだぞ」

「……それ夢の中のことですよね。私は悪くないんじゃ」

 両腕を一くくりに掴まれて見下ろされている。

  狂おしい瞳は、私を求めているのがわかる。 

「っ……や……っ」

 耳朶に息がかかる。

  縁をなぞって、唇で挟まれた。

「お前がいないと、駄目になる。

  何も見えなくなってまともな判断もできない。

  思考も全部ルシアに染まっているから」

 耳を食まれると同時に、胸を揉みしだかれていた。

「……っあ」

 頂ごと押しつぶして、愛撫する。

 もう一方の手が衣服の裾をまくり

  あげているのが油断ならない。

 とっくに、腕は解放されて自由になっていたのに、

  甘い悦楽を与えられて身動きが取れなくなっていた。

  逃げたいとも思わないのだけれど。

「馬鹿だと思うだろ」

 指が、太腿を撫で上げる。

  ゆっくりと上下する動きに呻いてしまう。

 乱された衣服、呼吸、すべてが彼の意のままだ。

「っ……私も同じだから」

「あの牢獄に捕らわれていた時よりも

 恐ろしかったよ。ルシアが消えるだなんて

  夢でなかったらと思うとぞっとする」

 クライヴは変わった。弱音も見せるようになって、

  とても人間らしくなった。

 私はそんな彼が、前よりずっと好きだ。

 囁きは耳に直接流し込まれていて、

  肌へもたらされる刺激とで自然と体がしなった。

 舌を絡められて、差し出した。

  縺れ合わせて、顎に伝う滴を気にも止めずに、

 求めあう。

  背中で留め具が外されて、一気に取り払われる。

 晒された肌が震えたのは寒さじゃなくて、

  愛されている悦びから。

 彼が全部を脱ぎ捨てて覆いかぶさってくる。

 頭部を抱きしめたら、ふくらみが餌食になった。

  小刻みな舌の動き。

 そっと噛まれると、奥の方から、溢れてくる。

「んん……クライヴ」

 下から包み込むように揉まれる。

 音を立てて吸われ、頂きが濡れたのを感じた。

「……っ駄目……」

「あんまり大きい声出すなよ、子供たちが起きる」

「誰のせい……っああ」

 貫かれる。

  奥までたどり着いたクライヴは、小さく息を吐き出して

 それから動き出した。

  内部で擦れて、痺れが起きる。

 幾度となく抱かれても、こんな風に近づく瞬間が、

  うれしくてそして離れる時が、切ない。

 刹那を分け合うから余計愛しくて

  何度も繋がりたいと願ってしまう。

「あなたを愛しています。ずっと一緒にいて」

「ああ」

「いつまでも、抱いて。私を欲しがって。

 私もあなたを求めて離さないから」

 声が掠れて、届いたかどうかわからない。

 抱き起こされて彼の膝の上で、突き上げられる。

  目の前の景色がぼやけていく。

「愛してるよ……」

 彼の動きが一層激しくなって、大きく脈打つ。

 どく、と弾けて放たれる飛沫に意識を奪われた。

 髪をなでる。

  汗で張りついた髪はしっとり湿っていて男らしい香りがする。

「あなたの前からいなくなったりしません。

  頼まれても離れてなんてあげないわ」

 抱きしめて、頬に口づけた。

  眠る横顔が綺麗で目が離せなくなる。

「クライヴじゃなくて、私が見ればよかったのに」

 私が消えたことが、夢か現実か

  分からなくなるほど苦しんだ彼。

「笑ったりしてごめんなさい」

 傷つけたに違いない。

  彼は、思ったよりも繊細なのだ。

 私は、図太くて、繊細とは程遠い。

  違うから側にいられる。

「好きよ」

 急に手を握りしめられて、はっ、と

   横を見れば彼が微笑んでいた。

「じゃあ、今度はお前が俺を抱いてくれ」

 じゃあって何。

  どこから繋がっているのと問えばキリがない。

 腰を高く上げて四つんばいになる。

  指先で彼自身に触れた。

  ふくらみがシーツに擦れる。

 屹立しているソレにちゅ、と軽く音を立てて、キスをする。

 びくびく、と震えている。

  そのまま、膝の上に乗って腰を下ろしていく。

「ああっ……はあっ……」

 深い場所での繋がりに、すぐに波にさらわれそうになる。

 腰を揺らして、彼を感じる。

 両のふくらみを揉みしだかれて、きゅんと疼いた。

「素直で、いいな。奥に響くから締めつけて」

 目尻に涙がたまる。好きを体中で伝えているから。

「……悪夢を見たことなんて掻き消されたよ。

  お前が優しくしてくれたから」

 最後に奥深くを突かれて、再び昇りつめた。

 もたれかかった体を抱きしめる腕は、温かい。

 うっすら目を開けたら、彼に背中を抱かれた。

「本当は、いつまでだって繋がっていたい。

  お前が離れるのは不愉快だ

 ……また抱ける楽しみを想像するから耐えられるんだ」

 今のは独り言だろうか。私聞いてるんですけど。

 とん、とんと胸をこぶしで叩いてみたら、

「何してる」

 憮然と問い返されたので、ふふっと笑った。

「胸の扉を叩いてみたの。

  クライヴが、可愛くて素敵でたまらないから」

「……大人なのか子供なのかどっちだ」

「好きなように取って」

 だって、私は私だから。

 あなたを愛する心を取ったら何も残らないのだもの。

「四六時中側にいろ……

  悪夢なんて二度と見なくてすむように」

「……ん、分かったわ」 

 抱きついて、しがみついたら、頭をなでてくれた。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

処理中です...