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外伝「記憶の揺りかご」11
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唇に残った甘やかな感触。
つい、我慢できなくて触れてしまった。
かりそめの関係は、脆くて儚い。
「……記憶の箱なんてこじ開ければいい。サーヤが苦しむ様子は見たくないが」
苦痛と甘さと切なさに満ちた日々は、流れていく。
またひと月が過ぎた。
宮廷医とともにサーヤの部屋を訪れたセイは、サーヤがこちらを見て
笑っているのに気づいた。
見とれてしまった。
「先生、そろそろ退院ですか?
不調はどこにもないので、家に帰りたいです」
「お身体は、回復されていますが、まだしばらく入院されていた方が」
「私が、忘れているからでしょう。でもここにいたら、駄目なんです。
陛下がよくしてくださるからって、甘えすぎてしまう」
「陛下はお心が広いのでお許しになります。気になさらずともよいのです」
サーヤはぶんぶんと横に頭(かぶり)を振った。
「……私は、誰でどこで何をしていたかも覚えている。
この部屋で目覚めた時からそうだったじゃないですか……」
「忘れていることを思い出さなければ、サーヤさんは帰れません」
「……ごっそり抜け落ちている記憶は、彼と過ごした数ヶ月なのね……きっとそう。
帰れないのは、あの人と一緒にいた場所を思い出せないから」
独りごちたサーヤに微笑みかける。
「気分転換に外に出てみるか。
部屋の中ばかりにいたら、塞ぎ込むばかりだろ」
「陛下、何を」
宮廷医が、咎めるが、セイは聞く耳を持たなかった。
「思い出すきっかけが、できるかもしれない。念の為、頭痛薬を渡してくれ」
後者は、隣に立つ男に向けて告げた。
宮廷医が持参していた頭痛薬を受け取る。
部屋に二人きりになったあと、セイは口を開いた。
「サーヤ、お前に嘘をついていた」
「……ええ、そうね。ここは、病院ではなくて、入院なんてしていないんでしょう。
あの方は宮廷医だわ。あなたが呼んで下さるから、想像はついた」
全部知っていて騙された風を装っていた。
「……王宮のお部屋に住まわせてくれたのは、私を想って下さっていたからなの? 」
「……ああ」
「……お人好しにも程があるわ」
「俺が甘いのは特定の人間に限るがな」
うろたえたサーヤの手を引く。
強引に抱き上げると、部屋の扉を開けた。
廊下を突き進むセイに抗議の声が上がった。
「も、もー、恥ずかしすぎるわ。
歩けるから下ろしてよ」
「却下だ。俺は俺のやりたいようにする。文句ならいくらでも言っていろ」
「……馬鹿」
(……間違いない。お前はサーヤだ。俺が愛した生意気であいくるしくて、
心を高ぶらせる女だ)
つい、我慢できなくて触れてしまった。
かりそめの関係は、脆くて儚い。
「……記憶の箱なんてこじ開ければいい。サーヤが苦しむ様子は見たくないが」
苦痛と甘さと切なさに満ちた日々は、流れていく。
またひと月が過ぎた。
宮廷医とともにサーヤの部屋を訪れたセイは、サーヤがこちらを見て
笑っているのに気づいた。
見とれてしまった。
「先生、そろそろ退院ですか?
不調はどこにもないので、家に帰りたいです」
「お身体は、回復されていますが、まだしばらく入院されていた方が」
「私が、忘れているからでしょう。でもここにいたら、駄目なんです。
陛下がよくしてくださるからって、甘えすぎてしまう」
「陛下はお心が広いのでお許しになります。気になさらずともよいのです」
サーヤはぶんぶんと横に頭(かぶり)を振った。
「……私は、誰でどこで何をしていたかも覚えている。
この部屋で目覚めた時からそうだったじゃないですか……」
「忘れていることを思い出さなければ、サーヤさんは帰れません」
「……ごっそり抜け落ちている記憶は、彼と過ごした数ヶ月なのね……きっとそう。
帰れないのは、あの人と一緒にいた場所を思い出せないから」
独りごちたサーヤに微笑みかける。
「気分転換に外に出てみるか。
部屋の中ばかりにいたら、塞ぎ込むばかりだろ」
「陛下、何を」
宮廷医が、咎めるが、セイは聞く耳を持たなかった。
「思い出すきっかけが、できるかもしれない。念の為、頭痛薬を渡してくれ」
後者は、隣に立つ男に向けて告げた。
宮廷医が持参していた頭痛薬を受け取る。
部屋に二人きりになったあと、セイは口を開いた。
「サーヤ、お前に嘘をついていた」
「……ええ、そうね。ここは、病院ではなくて、入院なんてしていないんでしょう。
あの方は宮廷医だわ。あなたが呼んで下さるから、想像はついた」
全部知っていて騙された風を装っていた。
「……王宮のお部屋に住まわせてくれたのは、私を想って下さっていたからなの? 」
「……ああ」
「……お人好しにも程があるわ」
「俺が甘いのは特定の人間に限るがな」
うろたえたサーヤの手を引く。
強引に抱き上げると、部屋の扉を開けた。
廊下を突き進むセイに抗議の声が上がった。
「も、もー、恥ずかしすぎるわ。
歩けるから下ろしてよ」
「却下だ。俺は俺のやりたいようにする。文句ならいくらでも言っていろ」
「……馬鹿」
(……間違いない。お前はサーヤだ。俺が愛した生意気であいくるしくて、
心を高ぶらせる女だ)
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