Pleasure,Treasure

雛瀬智美

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外伝「らぶらぶカップル同士の邂逅」

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 この一週間、怒涛やったな。
 結婚三日前にブライダルチェックに行き、
 翌日、病院のドクターと飲み介抱した。
 藤城青。
 三つ年上らしいから、医師としては4月から四年目だ。
 年上なのに、妙に親近感を覚えた。
 飲みに行ったこと自体は菫子に伝えたが、
 詳しくは男同士の秘密にしておいた。
 結局、彼に話すことはなかったが、全員で
 会うことがあれば驚くと思う。
「この間はウェディングフォトありがと!
 二人とも幸せそう。
 涼くん、タキシード決まっててかっこいいし
 ウェディグドレスの菫子ちゃん、綺麗だな」
「ありがとな! 蒼宙くん達のも
 また今度見せてや」
「そうだね。まだ来たことなかったし、
 うちに遊びにおいでよ。
 愛璃ちゃんも菫子ちゃんに会いたいと思うし」
「行ってもええの?」
「そりゃもちろん。もうとっくに友達でしょ」
「おめでたのお祝いと、蒼宙くんの就職祝いもせんとあかんな」
「気持ちだけでうれしいよ」
「そうや。こないだあの人と会ったで。
 病院で偶然会った時に飲みに誘ったんやけど」
 蒼宙くんが知っている人物と同一らしいので伝えておく。
「さすが涼くん、ぐいぐいいくね」
「蒼宙くんに言われる筋合いないわ。
 それはいいとして、最初の遭遇の時に名前伝え忘れたんやけど」
「続き聞かなくても分かるよ。
 病院のどっかで待ち伏せしてたでしょ」
「……その通りや。
 午前中に検査が終わって、空腹に耐えかねるのまで見越しとったらしい。 
 病院内のカフェで昼を一緒に食べて」
「……そんなにフレンドリーなタイプじゃないのに
 一緒にご飯食べようと待ってたなんて。成長したな……」
「あの人めっちゃおもろいな。
 次の日の夜に飲んだ時のことは内緒な。
 あの人のことはまだ分からんけど嫌いやないわ」
 本人のいないところで話しすぎるのは最低だ。
「あはは。いつかみんなで会えると楽しそうだね。
 僕、実はいとこだしね」
「従兄弟?」
「正確には愛璃ちゃんの従兄弟なんだ。
 結婚したから親戚になったわけ」
「ああ……。
 パートナーも一緒にみんなで会ったらにぎやかで楽しそうかもしれんな」
「遊びに来るのは来週の土曜日とかどう?
 スマホに住所送るから。
 わかんなかったら待ち合わせしてもいいよ」
「ありがとう。教えてもらったら分かると思うわ」
 草壁家と篠塚家でパートナーをまじえて遊ぶ約束をした。
 電話を終わった俺は寝室に戻った。
「起こしたか?」
「起きてたの。明日は休みだしいいんだけど」
「電話は蒼宙くんや。
 今度二人で遊びにおいでって」
「愛璃ちゃんと会えるの楽しみ!
 お祝い何がいいかなー」
「せやなあ。菫子は連絡したりせえへんの?」
「あ、こないだ好きなキャラクターを聞いたわ。
 うさぎの子よ!
 蒼宙さんが好きなわんこのキャラと同じ人が、
 作者らしいの」
「そっち方面はさっぱりわからん。
 その辺の店で買えるやろか?」
 菫子と一緒に友達への贈り物を考えるのも楽しい。
「来週の土曜日やけど大丈夫か?」
「うん!」
 赤ちゃん用グッズではないがネットで見つけた
 ぬいぐるみを注文することになった。
 蒼宙くん夫妻の家に行く日までに届いたので、
 それを綺麗にラッピングし袋に入れた。
 袋も赤いリボンで飾った。
 篠塚家を訪問する当日、車に乗り込んだ菫子は
 はりきっていた。
「涼ちゃん、ナビは私が見てあげるから
 しっかり安全運転してね」
「はいはい」
「はいは一回」
 傍から見ればバカップルなのだろう。
 信号で止まった時、彼女は隣から指示を出した。
「左折したら次はまっすぐね」
「分かりました!」
「よいお返事です」
 初めて行く場所へのわくわく感と、若干の不安。
 結婚したばかりの新妻は楽しそうに笑みを浮かべている。
 そのかわいらしさに今すぐキスがしたくなったのは仕方がない。
「……、な、何するのよ!」
 次の信号で停まった時、助手席に腕を回した。
 影を重ねて唇を重ねた。
 幸い、妻は小柄なので後続車からは姿が見えづらい。
「俺が助手席に身を寄せたことくらいしかわからへんやろ」
「あの人、何やってんのとは思われたわ」
「一瞬の出来事や。気にすんな」
 車を発進させる。
 こうして菫子と出かけられるのも
 車を買ったからだった。
 中古で走行距離が短く、SUV。
 ちゃんと好みのものが手に入れられた。
「こうして涼ちゃんと出かけられるのも
 あと何回かしら」
 隣からの呟きにドキッとする。
「そのうち、私にも子供ができたら
 お腹の中の子も入れて三人になるじゃない」
「……そういうことか。ビビらすなや」
「二人きりでが抜けてたわね」
 軽やかな話し声。
 俺は何を想像したんだろう。
 もしもの仮定ですらばかばかしい。
(マリッジブルーって、結婚後なのか?)
 40分ほど車を運転し、蒼宙くんたちのマンションにたどり着いた。
 駐車場に車を停めて菫子と車を降りる。
 歩いて建物に向かっていると上から声が降ってきた。
「涼くーん、菫子ちゃん、ここだよー!」
 見上げるとベランダに陽のカップルがいた。
 蒼宙くんとエプロン姿の愛璃さんが二人で手を振っていた。
 菫子と二人で手を振り返す。
 目的の階までエレベーターに乗った。
 ドアをノックすると、すぐに扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
 愛璃さんは可憐な微笑みを浮かべて出迎えていた。
 菫子と二人、どちらともなく腕を伸ばし抱きしめあっている。
 蒼宙くんもにこにこ微笑みこちらに視線を向ける。
「涼くん、ハグしたるって言ってたよね?」
(よう覚えとるな)
 俺は蒼宙くんの肩に腕を回した。
 向こうも肩に腕を回してくる。
「背中ぎゅーじゃないの?」
「……親愛のハグやしな」
 同じ身長、小柄な二人のハグはとてもかわいらしい。
 学生時代も普通に男友達とハグしてたし、ええんと違う。
「蒼宙くん、涼さんが大好きよね」
「ライクの好きだよ。愛璃ちゃんはラブの好き」
「ははは……」
 そんな当たり前のこと言わんでくれ。
「二人とも大好きやで」
「関西弁で大好き初めて聞いたわ」
 リビングに案内してくれた二人はソファーを勧めてくれた。
「愛璃ちゃんにプレゼント。
 キャラクター大賞の時に出たやつみたい」
 菫子はプレゼントを袋ごと渡した。
「ありがとう。
 うれしい。私達、まだそんなに会ってないのにこんなことしてもらって」
「蒼宙さんが涼ちゃんと仲良いから、
 私達もお友達になれたものね。
 愛璃ちゃん、これからも仲良くしようね」
「菫子ちゃん」
 愛璃さんは大粒の涙を浮かべている。
 その涙をすかさず横で拭くのは蒼宙くん。
「妊娠が影響してるのかな?
 愛璃ちゃん、最近涙もろいんだ。
 普段はもっとクールだから余計かわいく見えて」
「妊娠中は不安定になるっていうものね」
「さっきのは本当に感動で泣いたんだからね。
 妊娠中のせいじゃないの」
 愛璃さんはむきになって言い募った。
 その姿を蒼宙くんはほほえましく見つめている。
「そういや企業の研究職なんやろ」
 しかも平社員ではないらしい。
 彼は大学を出た後大学院に通っていた。
「うん。本当は博士課程まで取ろうと思ったけど結婚したし、早めに社会に出たかった」
「また飲みに行こうや。
 おごったるで」
「ノンアルしか飲まないけどね」
「俺も車使うし一緒にノンアル飲むわ」
「ねえ! 二人とも蒼宙くんの卒業式の時の写真見て!」
 愛璃さんは満面の笑みだ。
「愛璃ちゃん、恥ずかしいんだけど」
「かっこいいからいいじゃない」
 この夫婦も割と力関係がはっきりしているようだ。
(いや二人の時は案外別の顔を見せるんかもな)
 愛璃さんは分厚いアルバムを取ってきて、
 俺と菫子の前で広げた。
 蒼宙くんは帽子にガウン姿で凛々しく見えた。
「俺と菫子は大学の卒業式も普通の格好で出たから、
 新鮮やわ。ガウンと帽子、めっちゃ決まってるな」
蒼宙くんは少し照れくさそうだ。
「とっても似合ってる」
「もうしまっていいかな」
 さすがにこれ以上は耐えられなかったのか、
 蒼宙くんはアルバムを奪い取った。
「中高時代は校門前で記念撮影とかしたんだけどなあ。
 あの時は一人じゃなくて心強かった」
「俺も中学の頃は記念撮影……いや」
 菫子の上目遣いの視線が突き刺さる。
「……この前、涼ちゃんの実家で見ちゃったの。
 当時付き合ってた女の子とツーショットで撮ってた卒業写真。
 手を繋ぐどころか肩抱いてて、驚いちゃった」
 それ初耳なんですけど。
「涼くん、やるなあ」
「かなりモテそうですもんね」
「モテてるわけちゃうし。
 青春の一ページなだけや」
「人間、年齢を重ねていれば
 過去の想い出が降り積もっていくものだし」
 蒼宙くんはしみじみ語った。
「そうですよね。私も初恋のひとつやふたつ
 してますし」
「え。俺が初恋ちゃうん?
 って、お前な。初恋はひとつやろ」
「ほら。小学校の時、憧れの先生とかいたじゃない。
 それも恋に数えてるんです」
「いや、そんなんただの憧れで恋ちゃうわ」
「二人ってオシドリ夫婦だよね」
「いいなあ」
 蒼宙くんが用意してくれた夕食をごちそうになったが、
 イメージなのか量を聞かずに大盛ごはんをよそわれた。
 楽しかったので、よしとする。
 俺だけにこっそり見せてくれた写真には、
 最近三度も邂逅した超絶イケメンが一緒に映っていた。
 彼(蒼宙くんの義従兄)は昔、黒く髪を染めていたという。
「二人とも泊まっていけばいいのに」
「泊まらんわ。
 俺らおったらいちゃいちゃできんよ」
 丁重に遠慮した。
「嬉しいですけど、またの機会に。
 今度はご夫妻でうちにも遊びに来てくださいね」
 残念そうな声と視線を振り切り篠塚家を後にした。

「……泊まっていけばいいのには驚いたわね」
「俺らのとこより一部屋多いみたいやけど……
 さすがにそれはな」
 帰宅後、ソファーでくつろいで今日を回想していた。
「俺の昔の写真、何覗き見てんねん」
「お義母さんが見せてくれたんだってば」
「想像つくけど……」
「私以外でも家族に紹介した人いたのね」
「初めて付き合った相手やったし、
 当時は嬉しくてしゃあなかったんやろ。
 普通に家まで連れて行ってたし……
 10年も前の昔やで?」
「うん。私も初恋は涼ちゃんじゃないし、
 過去の思い出は降り積もっていくものよね」
「今度実家帰ったらほかすわ……いらんし」
「駄目よ。卒業の記念でしょ」
「集合写真とは別で個人で撮ったやつや」
 淡い記憶が、懐かしいとはいえ、
 過ぎ去りし日々だ。
 あの頃に菫子と出逢えていたらと思うのは、
 しょうもない憂いである。
「涼ちゃんは昔からかっこよかったのね。
 蒼宙さんとの共通点はスキンシップが自然とできるってことかな」
「……タイプは違いすぎるやろ」
「付き合ってもない時にかわいいって言ってたし、
 元々そういう人ではあるけれど」
「誰でもいうわけやない。
 菫子やから言ったんやで」
 割と簡単に言えるタイプの人間なのは今更否定はしない。
 菫子は友達だったころから名前を呼んでいた。
 苗字の柚月とは呼びたくなかった。
 線引きをする相手とそうではない相手。
 情が深いのではない。
 きっと俺は誰よりも冷めている人間だ。
 だから、暑苦しいと言われつつも
 愛情表現が過多なのだろう。
 メイクを落とし素顔に戻った菫子を膝に抱き上げる。
 頬を寄せて口づければ、華が咲いたように微笑んだ。
「問題がなかったし早くほしいんやったよな」
「うん。すべてはコウノトリの赴くままかな」
 二人で五年も一緒にいたし、
 家族が多い方が楽しいとも思う。
 卒業して二年後の結婚は子供のことも見越しての部分もある。
 風呂ではしゃいで、笑い合って楽しい気分のまま
 そんな夜もたまにはいいのではないか。
「お前を愛してるで」
「涼ちゃん……」
 つぶやきながら、深く菫子を抱きしめた。
 以前より愛しあうことに慣れても、
 初々しさは変わらない。

 小さな身体と寄り添い合って眠りに落ちた。



























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