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番外編集
番外編「過去(きのう)と現在(いま)」(涼視点)
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気まぐれで合コンに参加した。
大学に入って初めての飲み会やったし、人間関係を
円滑に運ぶための機会だと思った。
四月で19になっていたが他は皆18とかいうふざけた集まり。
当然ながらアルコールを飲むのは御法度。
ノンアルで健全な飲み会……という趣旨だった。
同じ学部と、別の学部のメンツで
カップルができあがっていく中で俺も同学部の異性に声をかけられた。
あからさまな視線をぶつけてきた彼女は、気に入ってくれたようだった。
170センチくらいはありそうで細身で、ボブヘアーの美人。
名前を名乗り合った後、彼女は曖昧に微笑んだ。
「……本当は別に声をかけたい子でもいた?」
「そんなんおらへんよ」
口の端から、こぼれた言葉にほんのり苦みを覚える。
かなりつまらなさそうな風情で、宙を睨んでいる小柄な子が、
視界の隅にこびりついていたのは確かだった。
友達と来たわけでもなさそうで、ソファーに一人ぼっちで
取り残されていた。
(……俺が声をかけたらあかんのちゃう。
愛らしい彼女には、ここはふさわしくないように思える)
「ふうん。あの子なら心配しなくても大丈夫よ。
声かけるなオーラを醸し出してるし……」
「……気になってる子なんておらん言うとるやろ。
あんたの方が、ええわ」
腕が絡んでくる。
居酒屋を出ると暗黙の了解でホテルに向かった。
強気な態度を貫こうとして、ぼろを出した彼女は
初めてだと告げてきた。
それでも俺とそうなりたいと言ったから朝まで一緒に過ごした。
(見た目で判断したらあかんってことか……。
あの子と同じ歳の女の子なんや)
震えながら肩にすがる指も恥じらう表情も、
愛らしく、目に映った。
一度限りで、さよならするほど
割り切れるはずもない。
愛しいという感情は嘘ではなく、付き合うようになった。
付き合って数ヶ月が経ち、二人でいるのも自然に感じていた。
薫は、プライドが高く強気に見えて、
本当は弱いのではないか。
弱さを気取られないように振る舞っている。
(自分の情けない姿を見せたないんや)
気づいた時、悲しくなる。
きっと頼りないからだろう。
キスはしても、その先はない。
彼女に触れてはいけないと感じてしまっていた。
合コンで見かけた小柄な子に声をかけて友達になった。
同じ学科の人間とは性別問わず普通に話すし、
その延長に過ぎなかった。
けれど……。
一年後の飲み会は、成人していたのでアルコールありのものだった。
菫子は、誕生日が先なのでノンアルしか飲めないと言いながらも、参加を断らなかった。
菫子とは二人っきりで会うことはなく、怪しまれる要素は何もなかった。
図書館にいた菫子に声をかけて、泣き叫ばれたけれど、
追いかけることはしなかった。
そんな折、薫に路上でキスをされ応じる。
こんな公衆の面前でしたことはなかったが、
彼女の切羽詰まった表情は何かを訴えかけていた。
視界の向こうにいた菫子が、こちらを見ていた。
薫と菫子の間でなにかあったんだろうとは察しがついた。
飲み会の時に体調を壊した菫子を追いかけた薫は、
彼女に何か告げたのだろう。
菫子を意識し始めたのはその時からだ。
求められても応じられなかった。
最後だと分かっているからこそ、傷つけたくない。
それは本音だった。
十分傷つけ苦しめたのにこれ以上、無理だと。
それでも、懇願する彼女はとても可愛らしかった。
抱きしめてキスを交わしたとき見た表情に、
抱いたのは、愛しいという気持ちだった。
(俺を好きでいてくれて……
そばにいてくれてありがとう)
謝まったら余計、傷つける。
涙を見せた彼女を見送るだけだった。
菫子と落ち合った河原に、薫もやってきた。
情けない俺に、勇気を出せと叱咤し、
菫子には応援の言葉までかけた。
その姿にこの二人は、友達として仲良くなれるんやないかと思った。
薫と付き合っている間距離を詰めようとしなかったことも幸いしたのだろう。
二人に感謝し、俺は菫子と向き合うことにした。
蓋を開けてみれば、友達として接していた時とは
違う姿が見えてきた。
薫はきっと強がっていただけだが
菫子は強かった。
友達より近くにいけない
奴のことなんてさっさと見限るのかと思いきやつかず離れずの距離にいた。
遠ざからなかった。
予想通り菫子と薫は仲良くなり、同じ学科のクラスメイトである
永月伊織とも仲良く過ごしている。
俺と恋愛関係になっても、女性同士の友情は大事にする。
そういう所も好きでますます惹かれていく。
好かれるのか知らんけど、俺の弟と同じ年頃の少年達にも
慕われているのは心底驚いたが。
懐かれているだけと菫子は思っていたようだが、
二人のうちの一人『篤紀』は明らかに菫子に恋をしていた。
健太は姉のように思っているのではないか。
健太も篤紀もいいやつで、俺も弟分としてかわいがるようにはなったが、
菫子を傷つけ泣かせたら、まずいことになりそうだ。
何の因果か実の弟ともクラスメイトで友達だった。
ここ五年を振り返りながらグラスを煽る。
実家から戻ったら菫子が部屋を訪ねてきて、無事に仲直りした。
(今日は菫子、来るしはよ帰らんと)
珍しくバーで飲んでいた俺は、近くの席に座った人物に目を留めた。
「僕の顔に何かついてますか。お兄さん?」
「っ……ついてません。じろじろ見てしもてすみません」
初対面にもかかわらずぶしつけだった。
目深にかぶっていたハンチング帽を脱ぎ、彼はこちらに向き直る。
「隣に行ってもいいですか?」
「どうぞ」
170センチ台半ばくらいだろうか。
俺より少し小さい彼は、ゆるく微笑んだ。
華奢で繊細な雰囲気は自分には持ち得ないものだ。
スツールに腰掛ける様もスマートでくぎづけになる。
「一人寂しく飲んでたら、男らしい感じの
イケメンがいるし……すごい運がいい」
「何がですか。イケメンとか仰いますけど、
あんたこそ相当な美形やないですか。かわいい系というか」
「ありがとう。気分いいから一杯おごるよ」
どちゃくそ可愛い顔をした男性は、天使の風情でそう告げた。
「……いや、そんな。年下に奢られるわけには!」
「君、いくつ?」
「24ですけど……。ついでに言えば社会人二年目の会社員です」
「ワイシャツにネクタイ見れば大体分かるけど……
でもね。言っとくけど僕は君より三つも上なんだけど」
驚いてつい口が開きっぱなしになった。
「兄さんでしたか。すみません……」
「芸人みたい」
そんなつもりはなかったが、口を押さえて笑う彼につられた。
「お言葉に甘えて、注文さしてもらいますね」
メニューを見ながら適当に注文すると、
店員がシェイカーで作り始めた。
差し出された青い色のカクテルを受け取る。
(……悪くはないけどビールの方が好きやな)
「初対面だし何も知らない他人だから、
話せることもあると思うんだよね。
何かお酒で紛らわしたい悩みでもあるんでしょ」
「兄さんが飲んでるの酒やないですよね?」
「うん。アルコールが飲めないから
ノンアルコールカクテルを飲んでるよ。
二十歳になってからの習慣なんだ」
「悩みは一応解決はしたんですよ。
こないだまで喧嘩中だったんですけど
仲直りしたんで」
「付き合っている人かな。
君ってかなりモテそうだよね」
(結構頭の回転が速いな……)
「付き合って三年目になる女性です。
モテ……はどうなんやろ。
三年間、彼女以外は見てないし……」
「だろうね。誠実そうだもの」
「そういう兄さんは……」
「僕も三年一緒にいる人がいるよ。
出逢ってからは四年かなあ」
「兄さん、優しそうやし恋人さんも
幸せやろな」
愛らしいが妖艶な兄さんは意味深な笑みを浮かべ話をつづけた。
「三年は分岐点(ターニングポイント)でしょう。
この先の未来にたどり着けるか見極めなきゃいけない時期だ」
中性的な兄さんは髪をかきあげた。
「はっきりせん俺のせいで、
喧嘩になったし……あとはタイミングだけですかね」
「今更だけど、君って関西弁使うんだね」
「ほんまに今更やわ……」
「歳が上とか関係ないから気軽にため口で話してよ。
関西弁、聞きたいな」
小首をかしげてきた。
「兄さんって、あざといって言われへん?」
「愛璃ちゃんにも言われたなあ。
初対面の人にまで言われるなんて」
(彼の大切な人は愛璃という名前なんやな。
初対面の俺の前で名前出すとは相当らぶらぶや)
「……ところで何してる人ですか。
かなり優秀な方なんやない?」
「大学院五年目。修士号なら二年だけど
博士号が欲しかったからプラスで三年だね。
バイトは、家庭教師と塾講師……」
「っわ……、すご」
「変わり者なだけだよ」
名も知らない童顔の男性はオレンジジュースを一気飲みした。
「プロポーズは日付的に忘れられない日にした方がいいかもね」
「クリスマスイブとか?」
「いいんじゃない。
今年に決めないと!」
ぽん、と肩を叩かれる。
意外に力は強かった。
「僕はね、彼女との子供が欲しいって感じて
プロポーズするしかないと思ったんだ。
女性との恋愛が初心者で何もかも
分からなくて、慎重だったけど……」
「……女性との恋愛の初心者?」
「うん」
(……もう会わんような相手が、聞くことやないか)
心の中が読まれたように彼は平然と口にした。
「恥ずかしいんだけど……彼女と付き合うまで
童貞みたいな感じだったよ」
(ん? みたい?)
「恥ずかしいことやないですって。
純粋そうやし……その見た目だし」
「純粋かどうかはわからないよ?」
妖しい微笑に、びくっとした。
「慣れてないしつまんないだろうなとは思うんだ。
君とは違うから」
「経験豊富やないですよ」
「現在進行形で三年付き合ってる人が、初めてじゃないんでしょ?」
「……それはそうですけど」
薫の前に付き合った女性が初めての相手で
その前に一人付き合っている。
わざわざ伝えることでもないことだ。
(中高時代の青い想い出……懐かしい。
もう顔も名前も覚えてない)
「でも、君のお相手も僕のフィアンセも
初めてだった。共通点だ」
「……兄さん、酔ってないんよな?」
「アルコールは一滴も口にしてないよ。
酔うわけないでしょう」
「どうせ二度と会うこともないんやし、
ついでに言っときますけど、
彼女の最初が俺でよかったって思ってますよ。
どこぞの奴に渡す気もさらさらなかったしね」
最後も俺やけどな。
「ぶっ……君みたいなかっこいい人から
こんな独占欲を抱かれたらたまんないだろうな」
「わろてるやないですか」
「いやいや、僕も一緒。
想像するだけで不愉快だよ。
彼女にとっては幸運だったかはわかんないけどね。
他の奴になんてゆずれないって思ったから」
悪びれもなく品のいい顔立ちの彼は毒を吐いた。
「さっきからちょいちょい気になってたんやけど、
もしかして、同性も好きな方なん?」
「特に興味がないよ。かっこいい人には
かっこいいっていうだけ。
彼女以外の異性に興味がないし、
そういう目で見ることはない」
納得した。
氷で薄まったカクテル(名前忘れた)は、飲めたもんじゃない。
ここに菫子がいない時点で美味しいはずもなかったからいいのだが。
「今夜のことはこの場限りで忘れようね。
ってことで、名前は? 僕は蒼宙(あおい)」
(苗字は言わへんのか)
「……涼。不思議な先輩、今日は楽しかったで」
名前は彼によく似合っている気がした。
この三か月後、蒼宙くんと再会を果たすことになったし、
更に一年後、彼とも深くかかわりを持つ相手と親しくなるとは思わへんかった。
大学に入って初めての飲み会やったし、人間関係を
円滑に運ぶための機会だと思った。
四月で19になっていたが他は皆18とかいうふざけた集まり。
当然ながらアルコールを飲むのは御法度。
ノンアルで健全な飲み会……という趣旨だった。
同じ学部と、別の学部のメンツで
カップルができあがっていく中で俺も同学部の異性に声をかけられた。
あからさまな視線をぶつけてきた彼女は、気に入ってくれたようだった。
170センチくらいはありそうで細身で、ボブヘアーの美人。
名前を名乗り合った後、彼女は曖昧に微笑んだ。
「……本当は別に声をかけたい子でもいた?」
「そんなんおらへんよ」
口の端から、こぼれた言葉にほんのり苦みを覚える。
かなりつまらなさそうな風情で、宙を睨んでいる小柄な子が、
視界の隅にこびりついていたのは確かだった。
友達と来たわけでもなさそうで、ソファーに一人ぼっちで
取り残されていた。
(……俺が声をかけたらあかんのちゃう。
愛らしい彼女には、ここはふさわしくないように思える)
「ふうん。あの子なら心配しなくても大丈夫よ。
声かけるなオーラを醸し出してるし……」
「……気になってる子なんておらん言うとるやろ。
あんたの方が、ええわ」
腕が絡んでくる。
居酒屋を出ると暗黙の了解でホテルに向かった。
強気な態度を貫こうとして、ぼろを出した彼女は
初めてだと告げてきた。
それでも俺とそうなりたいと言ったから朝まで一緒に過ごした。
(見た目で判断したらあかんってことか……。
あの子と同じ歳の女の子なんや)
震えながら肩にすがる指も恥じらう表情も、
愛らしく、目に映った。
一度限りで、さよならするほど
割り切れるはずもない。
愛しいという感情は嘘ではなく、付き合うようになった。
付き合って数ヶ月が経ち、二人でいるのも自然に感じていた。
薫は、プライドが高く強気に見えて、
本当は弱いのではないか。
弱さを気取られないように振る舞っている。
(自分の情けない姿を見せたないんや)
気づいた時、悲しくなる。
きっと頼りないからだろう。
キスはしても、その先はない。
彼女に触れてはいけないと感じてしまっていた。
合コンで見かけた小柄な子に声をかけて友達になった。
同じ学科の人間とは性別問わず普通に話すし、
その延長に過ぎなかった。
けれど……。
一年後の飲み会は、成人していたのでアルコールありのものだった。
菫子は、誕生日が先なのでノンアルしか飲めないと言いながらも、参加を断らなかった。
菫子とは二人っきりで会うことはなく、怪しまれる要素は何もなかった。
図書館にいた菫子に声をかけて、泣き叫ばれたけれど、
追いかけることはしなかった。
そんな折、薫に路上でキスをされ応じる。
こんな公衆の面前でしたことはなかったが、
彼女の切羽詰まった表情は何かを訴えかけていた。
視界の向こうにいた菫子が、こちらを見ていた。
薫と菫子の間でなにかあったんだろうとは察しがついた。
飲み会の時に体調を壊した菫子を追いかけた薫は、
彼女に何か告げたのだろう。
菫子を意識し始めたのはその時からだ。
求められても応じられなかった。
最後だと分かっているからこそ、傷つけたくない。
それは本音だった。
十分傷つけ苦しめたのにこれ以上、無理だと。
それでも、懇願する彼女はとても可愛らしかった。
抱きしめてキスを交わしたとき見た表情に、
抱いたのは、愛しいという気持ちだった。
(俺を好きでいてくれて……
そばにいてくれてありがとう)
謝まったら余計、傷つける。
涙を見せた彼女を見送るだけだった。
菫子と落ち合った河原に、薫もやってきた。
情けない俺に、勇気を出せと叱咤し、
菫子には応援の言葉までかけた。
その姿にこの二人は、友達として仲良くなれるんやないかと思った。
薫と付き合っている間距離を詰めようとしなかったことも幸いしたのだろう。
二人に感謝し、俺は菫子と向き合うことにした。
蓋を開けてみれば、友達として接していた時とは
違う姿が見えてきた。
薫はきっと強がっていただけだが
菫子は強かった。
友達より近くにいけない
奴のことなんてさっさと見限るのかと思いきやつかず離れずの距離にいた。
遠ざからなかった。
予想通り菫子と薫は仲良くなり、同じ学科のクラスメイトである
永月伊織とも仲良く過ごしている。
俺と恋愛関係になっても、女性同士の友情は大事にする。
そういう所も好きでますます惹かれていく。
好かれるのか知らんけど、俺の弟と同じ年頃の少年達にも
慕われているのは心底驚いたが。
懐かれているだけと菫子は思っていたようだが、
二人のうちの一人『篤紀』は明らかに菫子に恋をしていた。
健太は姉のように思っているのではないか。
健太も篤紀もいいやつで、俺も弟分としてかわいがるようにはなったが、
菫子を傷つけ泣かせたら、まずいことになりそうだ。
何の因果か実の弟ともクラスメイトで友達だった。
ここ五年を振り返りながらグラスを煽る。
実家から戻ったら菫子が部屋を訪ねてきて、無事に仲直りした。
(今日は菫子、来るしはよ帰らんと)
珍しくバーで飲んでいた俺は、近くの席に座った人物に目を留めた。
「僕の顔に何かついてますか。お兄さん?」
「っ……ついてません。じろじろ見てしもてすみません」
初対面にもかかわらずぶしつけだった。
目深にかぶっていたハンチング帽を脱ぎ、彼はこちらに向き直る。
「隣に行ってもいいですか?」
「どうぞ」
170センチ台半ばくらいだろうか。
俺より少し小さい彼は、ゆるく微笑んだ。
華奢で繊細な雰囲気は自分には持ち得ないものだ。
スツールに腰掛ける様もスマートでくぎづけになる。
「一人寂しく飲んでたら、男らしい感じの
イケメンがいるし……すごい運がいい」
「何がですか。イケメンとか仰いますけど、
あんたこそ相当な美形やないですか。かわいい系というか」
「ありがとう。気分いいから一杯おごるよ」
どちゃくそ可愛い顔をした男性は、天使の風情でそう告げた。
「……いや、そんな。年下に奢られるわけには!」
「君、いくつ?」
「24ですけど……。ついでに言えば社会人二年目の会社員です」
「ワイシャツにネクタイ見れば大体分かるけど……
でもね。言っとくけど僕は君より三つも上なんだけど」
驚いてつい口が開きっぱなしになった。
「兄さんでしたか。すみません……」
「芸人みたい」
そんなつもりはなかったが、口を押さえて笑う彼につられた。
「お言葉に甘えて、注文さしてもらいますね」
メニューを見ながら適当に注文すると、
店員がシェイカーで作り始めた。
差し出された青い色のカクテルを受け取る。
(……悪くはないけどビールの方が好きやな)
「初対面だし何も知らない他人だから、
話せることもあると思うんだよね。
何かお酒で紛らわしたい悩みでもあるんでしょ」
「兄さんが飲んでるの酒やないですよね?」
「うん。アルコールが飲めないから
ノンアルコールカクテルを飲んでるよ。
二十歳になってからの習慣なんだ」
「悩みは一応解決はしたんですよ。
こないだまで喧嘩中だったんですけど
仲直りしたんで」
「付き合っている人かな。
君ってかなりモテそうだよね」
(結構頭の回転が速いな……)
「付き合って三年目になる女性です。
モテ……はどうなんやろ。
三年間、彼女以外は見てないし……」
「だろうね。誠実そうだもの」
「そういう兄さんは……」
「僕も三年一緒にいる人がいるよ。
出逢ってからは四年かなあ」
「兄さん、優しそうやし恋人さんも
幸せやろな」
愛らしいが妖艶な兄さんは意味深な笑みを浮かべ話をつづけた。
「三年は分岐点(ターニングポイント)でしょう。
この先の未来にたどり着けるか見極めなきゃいけない時期だ」
中性的な兄さんは髪をかきあげた。
「はっきりせん俺のせいで、
喧嘩になったし……あとはタイミングだけですかね」
「今更だけど、君って関西弁使うんだね」
「ほんまに今更やわ……」
「歳が上とか関係ないから気軽にため口で話してよ。
関西弁、聞きたいな」
小首をかしげてきた。
「兄さんって、あざといって言われへん?」
「愛璃ちゃんにも言われたなあ。
初対面の人にまで言われるなんて」
(彼の大切な人は愛璃という名前なんやな。
初対面の俺の前で名前出すとは相当らぶらぶや)
「……ところで何してる人ですか。
かなり優秀な方なんやない?」
「大学院五年目。修士号なら二年だけど
博士号が欲しかったからプラスで三年だね。
バイトは、家庭教師と塾講師……」
「っわ……、すご」
「変わり者なだけだよ」
名も知らない童顔の男性はオレンジジュースを一気飲みした。
「プロポーズは日付的に忘れられない日にした方がいいかもね」
「クリスマスイブとか?」
「いいんじゃない。
今年に決めないと!」
ぽん、と肩を叩かれる。
意外に力は強かった。
「僕はね、彼女との子供が欲しいって感じて
プロポーズするしかないと思ったんだ。
女性との恋愛が初心者で何もかも
分からなくて、慎重だったけど……」
「……女性との恋愛の初心者?」
「うん」
(……もう会わんような相手が、聞くことやないか)
心の中が読まれたように彼は平然と口にした。
「恥ずかしいんだけど……彼女と付き合うまで
童貞みたいな感じだったよ」
(ん? みたい?)
「恥ずかしいことやないですって。
純粋そうやし……その見た目だし」
「純粋かどうかはわからないよ?」
妖しい微笑に、びくっとした。
「慣れてないしつまんないだろうなとは思うんだ。
君とは違うから」
「経験豊富やないですよ」
「現在進行形で三年付き合ってる人が、初めてじゃないんでしょ?」
「……それはそうですけど」
薫の前に付き合った女性が初めての相手で
その前に一人付き合っている。
わざわざ伝えることでもないことだ。
(中高時代の青い想い出……懐かしい。
もう顔も名前も覚えてない)
「でも、君のお相手も僕のフィアンセも
初めてだった。共通点だ」
「……兄さん、酔ってないんよな?」
「アルコールは一滴も口にしてないよ。
酔うわけないでしょう」
「どうせ二度と会うこともないんやし、
ついでに言っときますけど、
彼女の最初が俺でよかったって思ってますよ。
どこぞの奴に渡す気もさらさらなかったしね」
最後も俺やけどな。
「ぶっ……君みたいなかっこいい人から
こんな独占欲を抱かれたらたまんないだろうな」
「わろてるやないですか」
「いやいや、僕も一緒。
想像するだけで不愉快だよ。
彼女にとっては幸運だったかはわかんないけどね。
他の奴になんてゆずれないって思ったから」
悪びれもなく品のいい顔立ちの彼は毒を吐いた。
「さっきからちょいちょい気になってたんやけど、
もしかして、同性も好きな方なん?」
「特に興味がないよ。かっこいい人には
かっこいいっていうだけ。
彼女以外の異性に興味がないし、
そういう目で見ることはない」
納得した。
氷で薄まったカクテル(名前忘れた)は、飲めたもんじゃない。
ここに菫子がいない時点で美味しいはずもなかったからいいのだが。
「今夜のことはこの場限りで忘れようね。
ってことで、名前は? 僕は蒼宙(あおい)」
(苗字は言わへんのか)
「……涼。不思議な先輩、今日は楽しかったで」
名前は彼によく似合っている気がした。
この三か月後、蒼宙くんと再会を果たすことになったし、
更に一年後、彼とも深くかかわりを持つ相手と親しくなるとは思わへんかった。
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