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第二章 日常、そして非日常

学校では恋人

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「魔王様! 頑張ってクリアしてよ!」

「任せておけ。気をつけて行ってこい」

「行ってきます」

 私は魔王に乙女ゲーム『胸キュンラバーⅡ』を任せて学校に向かった。

 話し合いの結果、私は受験勉強もあるので魔王が乙女ゲームをクリアし、対策を練っていこうという結論に至った。乙女ゲームをやるのはレイラでも良いのだが、私たちはバッドエンドを目指している。

 故に乙女心の分からない魔王が選択していけば、自ずとバッドになるはず! それに、魔王がこちらの世界にいる間はレイラも安全だ。安心して学校に通えると言うものだ。

 私は学校に到着し、上履きに履き替えていると声をかけられた。しかも同じクラスの陽キャ女子三人組。

「何これ、めっちゃ可愛い!」

「今時こんな髪型似合うの斉藤さんだけだよー」

「可愛いってお得だよね。ボロボロの上履きも可愛く見えちゃうもんね」

 小夜以外の女子から声をかけられたことがないので、内心焦った。

「ねー、斉藤さん聞いてる?」

「SNSやってないの? うちらのグループ入りなよ。特別に入れてあげる」

「……」

「友達になろうって言ってんの。鈍いとこも可愛いんだからー」

 嘘ばっか。私は知っている。彼女達がやりたいことを。

 友達とは名ばかりの虐めがこれから始まろうとしている。SNSのグループチャットに私を引き入れ、私以外のグループチャットで私の陰口を言い合う。

 更に学校では陰キャの私はパシリにされること間違いなし。言うことを聞かないと『私たちでしょ?』『友達やめちゃっても良いんだよ』と意味の分からない脅しをされる。

「ねー、斉藤さんってば聞いてる?」

 断らなければ。友達にはならない、グループチャットも間に合っている、と。しかし、言葉が出ない。怖い。逃げ出したい。そんな気持ちでいっぱいになった。

 私が黙っていると彼女達の態度がガラリと変わった。

「そんなんでよく陸に近付いたね」

「私たちの陸を独り占めしようなんて、その見た目変えてから来たら?」

 ああ、そうか。彼女達は田中の周りにいつもいる子達だ。私が田中と関わってしまったから。拓海の時と同じだ。

 もう帰ろう。あの時と同じ目に遭うのはやっぱり辛い。踵を返そうと振り返ると、拓海が真後ろにいた。

「た、拓海?」

「美羽また忘れ物か? そそっかしいんだから」

 女子の一人が拓海に声をかけた。

「え、拓海君って、斉藤さんと仲良いの?」

「まぁな」

 拓海君と名前で呼ぶと言うことは、この子達は拓海と知り合いなようだ。拓海は今でも周りから人気があるので、この状況は彼女達の嫉妬を倍増させるだけだ。

 その場から逃げ出そうとした瞬間、私は拓海に腕を掴まれた。そして、拓海は彼女達に向かってニコリと笑って言った。

「紹介しとくよ。美羽は俺の彼女だから。余計なことしたらタダじゃ済まないよ」

「え、でも斉藤さんって陸と……」

「美羽、田中と付き合ってんの? もしかして浮気?」

「ううん、付き合ってないよ。断ったもん」

「安心したよ。美羽はその辺の女子と違って誰でも彼でも色目を使うような女子じゃないよな」

 拓海が彼氏面しながら頭を撫でてきた。演技なのは分かっているが照れてしまう。

「分かっただろ。美羽は俺一筋なんだから。俺の美羽を泣かせるような奴がいたら例え女でも容赦しないから」
 
「な、何のことかしら? あたしたちはただ斉藤さんと友達になろうとしてただけよ」

「そうよ。別に無理にとは言わないけどね」

「斉藤さん、また教室でね! 拓海君と仲良くね」

 彼女達は口々にそう言って階段を上っていった。

「美羽、大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう」

 私は泣きそうなのを必死で堪えながら、平常を装った。

「ごめんね。私なんかの為に」

「俺、前は何も出来なかったけど、今度は本気で美羽を守るから。だから、私なんかとか言うなよ」

 この感じはなんだろうか。少女漫画のような胸キュンを初めて味わったような気がする。私がヒロインならば、ここで一気に告白して付き合えたりするのだろうが、なんせ見た目は地味で冴えない陰キャ女子。照れを隠すのでいっぱいいっぱいだ。

「ありがとう。拓海は彼氏役が様になってたね。さすがモテる男は違うね」

「役じゃなくて、本気で彼氏になっ」

 キーンコーン、カーンコーン。

 予鈴のチャイムが鳴りだした。

「ん? なに?」

「ううん。早くしないと遅刻するぞ」

「あ、待って!」

 私が拓海を追いかけて走ると、拓海が振り返って爽やかな笑顔を見せながら言った。

「学校では俺たち恋人同士だからな。浮気するなよ」

◇◇◇◇

 朝から濃い一日が始まったので、昼休憩に小夜に報告しておいた。最近は隠し事が多いと怒っていたので念のため。

「あいつらでしょ? 美羽にちょっかいかけてきた奴ら」

「ちょっと聞こえちゃうよ、小夜ちゃん」

「良いじゃん。同じ教室にいるだけでも不愉快だよ。田中も良くあんな奴らと一緒にいられるよね。美羽を虐めようとしたのに」

 小夜の発言が聞こえたのか、噂の女子三人組の一人が、こちらをチラリと見てバツが悪そうに目を逸らした。それを横目に小夜は含み笑いをして言った。

「ふふふ。拓海君が美羽と付き合ってるって聞いて、さぞ羨ましくてしょうがないんでしょうね」

「でもさ、また虐められないかな……?」

「大丈夫よ。あの手の女子は男に構ってもらわないと死ぬ生き物なのよ。彼女の美羽に手出ししたら拓海君に嫌われちゃうし、他の男もそんな最低な女子を相手にしなくなる。拓海君やるわね」

 小夜の見解に関心していると、小夜が眉を下げた。

「ただね……問題は田中よ」

「田中がどうしたの?」

「この間のリクの写真を見られてからまだ一週間も経ってないじゃん? なのに美羽が拓海君と付き合ってるって知ったら絶対怒り出すよ」

「確かに……じゃあ、先に田中に説明を……」

「俺に何を説明するの?」

「え、田中? さっきまであそこに……」

「美羽、俺の名前呼んだでしょ?」

「いや……」

 田中の話はしていたが、呼んではいない。田中はどこまで地獄耳なのだろうか。

「きっと愛の力だね。美羽の声が何処にいても聞こえる気がするんだ。で、俺に説明って何?」

「えっと……ここではちょっと」

 先程の女子三人組が見ているのだ。田中と私を。せっかく拓海が助けてくれたのに、嘘だとバレたら水の泡だ。

「また今度ね」

 この時に場所を変えてでも伝えていれば良かったと後悔することになるとは、この時の私はまだ知らない。
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