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第四章 恋のドタバタ編

使い魔

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 目の前にいる少女のような少年のような性別が分からない小さな子供の足には、包帯が雑に巻かれていた。その包帯も血で真っ赤に染まっている。

「今治してもらうからな。美羽頼む」

「うん。やってみる」

 私は魔王から離れて、子供に近付いた。お祈りするように両手を胸の前で組んで呟いた。

「傷が治りますように。痛いのが飛んでいきますように……」

 すると、頭の髪飾りがキランと光った。

 魔王はすぐさま子供に駆け寄り、包帯を外し始めた。

「どうだ? 傷は塞がったか?」

「うん。痛くなくなったよ」

 包帯を外すと、そこには元々傷など無かったのではないかと思わせる程に綺麗な足があった。

「お姉ちゃん凄いね! ありがとう」

「どういたしまして」

 子供も驚いているが、私自身も非常に驚いている。このアイテムを使ったのが初めてだったから。

 それよりも、私はここに来てから一番気になっていることがある。

「魔王様? 古竜エンシェントドラゴンって竜じゃないの? 人間なの?」

「竜で間違いない。これは擬人化した姿だ」

 擬人化とは……まさか魔王も本来の姿は二本の角と先端が三角形の尻尾を持った巨大なおどろおどろしい姿だったりするのだろうか。

 私の考えていることが分かったのか、魔王は呆れた顔で言った。

「残念ながら俺はこれが本来の姿だ」

「そっか。良かった」

 ボンッ!

「え、何?」

 私と魔王が話をしていると、突如漫画に出てくる効果音のような音が鳴った。

 そして、目の前にはとても綺麗な翼を持った大きな竜がいた。子供は本来の竜の姿に戻ったようだ。

「これが本来の姿だよ」

「わ、竜が喋った!」

「え、そこ? 普通竜の姿に驚くんじゃないの?」

「あ、ごめん。大きくて格好いいなぁ」

 若干棒読みで言うと、古竜がムスッとして言った。

「全然気持ちがこもってないんだけど、魔王、この子なんなの?」

「傷を治してもらっておいて、図々しいやつだ」

「ひゃっ、なに、何?」

 魔王は私を掲げるように縦に抱っこして、堂々と言った。

「美羽はな、何を隠そう……あの卵焼きを始めお弁当を作ってくれている者だ」

 それを聞いた瞬間、古竜が私の前にひれ伏した。

「それはそれは失礼した。是非とも今後も美味しいお弁当を頼む」

「え、あ、はい」

 何が何だか分からないが、魔王だけでなく古竜の胃袋も掴んでいたことは理解した。

◇◇◇◇

 古竜の傷を治した後、私達は魔王の住んでいるという魔王城まで移動した。古竜の背中に乗って。

「怖かった。めっちゃ怖かった。何あれ、アレックスの時より怖かったよ。無駄に遠回りしてなかった? しかも空中を一回転する意味あるの? ジェットコースターじゃないんだからさ、安全ベルトないんだから魔王様いなかったら確実に私は死んでるよ。海の藻屑だよ」

「サービスしてあげたのに……」

「え、誰?」

 そこには魔王と古竜ではなく、魔王と私と同じくらいの女の子が立っていた。しかもレイラに負けず劣らずの美少女だ。

 その少女は俯き加減でやや落ち込んだような雰囲気を醸し出している。

「さっき背中に乗せてあげたでしょ」

「え、それって……古竜? だって擬人化したら子供なんでしょ?」

「そんなのオレの手に掛かれば何にだってなれるよ」

「え、今度はめっちゃイケメン」

 古竜は美少女から美青年へと早変わりした。

「凄い凄い! そんな特技があるんだね! それってどういう時に使うの?」

 私は興味津々に目を輝かせながら青年の古竜に詰め寄った。

「え、別に使い道は……」

「使い道は? なになに?」

「魔王、こいつやっぱ面倒臭いよ」

「面倒臭いって何よ。自分が得意げに披露したんじゃん。もう卵焼き作ってあげないから」

 私は反発するように古竜にそう言った瞬間、古竜はしゃがみ込んだ。そして、古竜の周りだけどんよりとした空気が漂っている。

「え、どうしたの? 魔王様、古竜がおかしいよ」

「美羽が卵焼き作らないって言ったからだろう」

 そんなことで落ち込むなんて、まるで魔王みたいだ。魔王の扱いには慣れた。私はしゃがみ込んで古竜に話しかけた。

「魔王様のとは別に古竜にもお弁当作ってあげるから。さっきは背中に乗せてくれてありがとね」

 すると、古竜はガバッと顔を上げて言った。

「本当か? 卵焼き二つつけてくれるか?」

「良いよ」

「やった。約束だぞ。約束だからな。特別にお前がオレを必要とした時はすぐかけつけてやるからな」

「うん。ありがとう」

 すると古竜の額が私の額にコツンと当たった。今の古竜は青年だ。しかも顔が魔王並みに良い。いくら元は古竜だとしても照れてしまう。

「な、ちょっ、何してんの?」

「約束の印だ。これでお前はいつでもオレを呼べる」

「いわゆる使い魔というやつだ」

 魔王がどこから共なく鏡を持ってきたので覗いてみると、額に文字のようなものが描かれている。

「これ何? 消してよ! 恥ずかしいじゃん。私、学校行けないよ。外歩けないよ」

「一度契約したら消えないよ」

「嘘……魔王様、どうしよ。何か方法ないの?」

「契約は取り消せんが、三日もしたら薄まって見えなくなるから安心しろ」

「良かった……」

 それにしても卵焼き二つで古竜が使い魔になってしまうなんて……。日本にいる私には全く必要性のない使い魔。これから呼ぶこと等ありはしないだろう。
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