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第四章 恋のドタバタ編

プチざまぁ

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 シャーロットとの戦闘の日は、ちょうど一ヶ月後、私の大学受験の翌日となった。シャーロットがそれまでに再び奇襲をかけてくれば変わってくるが、ひとまずそれで話がついた。

 そして、魔界に行った日からは何事もない日常を過ごし、本日はいよいよ体育祭。年間行事を楽しみたい所だが、私と小夜は口々に愚痴をこぼした。

「私、体育祭って苦手なんだよね」

「あー、分かる。運動できる人は良いけど、私達みたいに足遅いとただの恥だよね」

「小夜ちゃんは良い方だよ。ダンスとか得意じゃん。私なんてダメダメだもん」

「オタ芸教えてあげるって言ってんのに、美羽が恥ずかしがってやらないからでしょ」

「はは……」

 ドルオタではあるが、そこまで極めようとは思わない。

「あれ、何か観覧席が騒がしくない?」

 小夜の視線の先を目で追うと、一部人だかりができている。

「なんだろうね。誰か倒れたのかな?」

「まだ時間あるし行ってみる?」

 私と小夜は野次馬根性で観覧席へと向かった。

◇◇◇◇

「これは……」

「あら、美羽。本日は頑張って下さいませ。応援しておりますわ」

「二人とも何してんの?」

 観覧席の人だかりは魔王とレイラによるものだった。魔王とレイラが並んで立っており、その間に代わる代わる人が入ってはシャッターが切られている。まるでアイドルの撮影会だ。

「皆さんが是非ご一緒に写真を撮りたいと言うものですから」

「美羽も撮るか」

「いや、撮ろうとは思ってたけど……私は後で良いや。行こう、小夜ちゃん……あれ? 小夜ちゃん?」

 小夜とクラスの集合場所に戻ろうとしたのだが、隣にいたはずの小夜が見当たらない。

「美羽! 早くおいでよ。撮るよ!」

「小夜ちゃんは……そうなるよね」

 私は諦めて野次馬に紛れて魔王とレイラと写真を撮った——。

 その後は開会式を終えて無事に体育祭は開かれた。その頃には観覧席も静かになっており、私達在校生の席からでも魔王とレイラが見えた。因みに兄もレイラの横にいた。
 
「それにしても悪役令嬢と魔王が体育祭見に来てくれるなんて、美羽は良いなぁ」

「はは、そうだね。でも小夜ちゃんの写真も沢山撮るってレイラはりきってたよ」

「え、マジ!? 私、やる気出てきたよ。悪役令嬢に写真撮ってもらえるなら死ぬ気で玉入れ頑張るよ!」

 死ぬ気の玉入れとはどんなものなのか、小夜の出番が楽しみだ。

「私も応援してるよ。あ、拓海だ」

 拓海は綱引きに参加するようだ。拓海が私に気付いて爽やかな笑顔で手を振ってきた。なので、私も小さく手を振っておいた。けれど、周囲の視線が痛い。

「斉藤さん良いなぁ」

「幼馴染なんだって」

「幼馴染ってお得だよね。見た目関係なしに恋愛に発展しやすいもんね」

 一応まだ学校では拓海と付き合っている設定になっている。田中のファンからの嫌がせはなくなったが、拓海のファンからの嫉妬妬みの対象になる。

 しかし、昔のようにただの幼馴染という曖昧な関係ではなく、正式に交際をしている為、陰口はあっても直接的な嫌がらせはされずにすんでいる。

 私はぼーっと拓海が綱を引く姿を見ていると、小夜が言った。

「拓海君と田中、勝負してるらしいよ」

「勝負?」

「今日の体育祭で勝った方が美羽とデート出来るんだって」

「え、何それ。初耳なんだけど」

 本人のいないところで盛り上がらないで欲しい。私が断るとは思わないのだろうか。

「小夜ちゃん、何でとめてくれないの?」

「だって面白そうじゃん。それに嫌なら断れば良いだけだし」

「まぁ、そうだけど……」

 それより、体育祭は殆どがクラス対抗なのにどうやって勝敗をつけるのだろうか。甚だ疑問が残るが、自分を取り合って勝負など少女漫画の世界でしか見たことがない。女子としては正直嬉しかったりもする。

「でも、そろそろちゃんと返事した方が良いのかな……」

「まぁねー。二人の優しさに甘えてるとこはあるよね。誰を選択したとしても、私はサポキャラとして全力で美羽を応援するよ!」

「はは、小夜ちゃんサポキャラだったんだ。頼もしいなぁ」

「美羽、全然思ってないでしょ」

「そんなことないよ。私が出るのまだ先だからお手洗い行ってくるね」

 私は小夜に手を振って、一人トイレのある校舎へと向かった。

◇◇◇◇

 トイレに行った後、私は中庭を通ってやや回り道をしてグランドへ戻ることにした。

 こういった行事がある時の学校は何故だかいつもと違う場所に来たような気分にさせられる。それを味わうのが新鮮で楽しい。この道を選んだのはただそれだけの理由だ。
 
 鼻歌まじりに歩いていると、向かってくる女子二人組に見覚えがあって顔が強張った。

 あれは中学生時代の同級生。高校は違う学校になったので今では全く関わらなくなったが、当時は虐めの中心にいた子達。

 私は素通りしようとしたのだが、案の定声をかけられた。

「斉藤さん? やっぱ斉藤さんだ! 久しぶり!」

「いつぶりかな。斉藤さん、ここの高校だったんだね」

「うん」

 私はいつものように愛想笑いをした。すると、女子二人は皮肉な笑いを見せた。

「高校でもぼっちなんだね。私達がまた友達になってあげよっか」

「良いね! これ終わったらカラオケでも行く?」

「私は……」

「何? 聞こえないよ」

 今は一人じゃない。みんなが付いてくれている。この二人のような安っぽい上辺だけの友情じゃない。だから大丈夫。

「私は、私の友達と帰るから大丈夫だよ」

「うそ、斉藤さん友達出来たの? 紹介してよ」

「見たいみたい! 呼んできてよ」

「……」

 私が黙っていると二人は更に皮肉たっぷりに言った。

「友達なんて嘘じゃん。本当はいないんでしょ?」

「遠慮しないでさ、うちらとまた遊ぼうよ」

 私が再び言い返そうと口を開きかけると、背後から私の大好きな人の声が聞こえてきた。

「美羽、こちらの中庭は丁寧に手入れされているのですね。お花が喜んでいますわ」

「レイラ!」

 レイラが現れると、その美しさなのかお嬢様ならではのオーラのせいか分からないが女子二人はレイラを見て呆気に取られていた。

「美羽、こちらのお二人はお友達ですか?」

「そうよ。私達は……」

 私ではなく女子の一人が口を開くと、それが聞こえていないかのようにレイラは嫌味たっぷりに言った。

「そんな訳ありませんわよね。美羽はこんな下品な女性は相手にしませんものね」

「げ、下品って、あんた何様なの?」

 レイラは悪役令嬢ばりの迫力を見せながら二人を見下した。

「わたくしですか? わたくしは美羽の親友ですわ。汚らわしいので、その顔を二度と美羽の前に見せないで下さるかしら。行くわよ、美羽」

「う、うん」

 私は唖然と立ち尽くす二人を見て、スッキリした気持ちでいっぱいになった。

 そして、体育祭はまだまだ続く——。
 
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