引きこもり大豚令嬢は今日もマイペースに生きたい

赤羽夕夜

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都合のいい男に買収される

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 ディナサンが帰って。私はアイシャたちにいらないカップを片付けさせる。しかし、ずっとディナサンの席の後ろで佇んだままの公爵様の様子を使用人たちは気にしている様子。



 とりあえずは、気にしなくていいからと一言だけ付け加えて下がらせた。

 ずっと、公爵様は暗い顔の様子で黙ったまま。そんなにディナサンの”姫”の正体が私なのにショックだったのろうか。



 まぁ、助言をもらいたい相手が私ならこうなるか。



 というか、いつまでここで突っ立っているつもりなのだろうか。



 「……公爵様、いつまでそこに立っておられるつもりでしょうか。そこにおられると使用人たちの仕事の邪魔です。座るか、去るか。そこから動くという選択肢を取ってください」

 「……ああ、すまない」



 いや、座るんかい。



 公爵様は自ら、ディナサンが座っていた椅子を引いて座る。帰るかと思ったんだけど、なおも私に話があるようだ。でも、私は彼の仕事、プライベートの話を聞くつもりは毛頭ないんだけど。



 「……それで、用件は?不貞疑惑の件なら今解消されたかと思ったのですが」

 「それに関してはこちらの早とちりだった。すまない」

 「おや、すんなりと信用されるのですね」



 最初の使用人たちを虐めたという噂は、こちらの話を聞かずに簡単に信じたくせに。

 「事実確認をせずに訪問してしまったのはこちらだからな。それで...…」

 「……待ってください。謝ってそれで終り? 私を舐めすぎていませんか? こちらの都合が悪い時には話を聞いてもらえず、自分の時は意見を押し通して話を聞いてもらおうだなんて図々しいにもほどがあるかと。よくそんな身勝手な真似ができますね?」

 

 そういう不満な気持ちをダイレクトに込めて伝えると、バツが悪そうに瞼を伏せた。



 人の話は聞かないくせに、自分の話は聞いて欲しいというその図々しさには感嘆してしまう。



 「……リーゼロッテははっきり物事をいうのだな」

 「この場で取り繕っても拉致が明かないので。それにこの話の流れだと、多分孤児院の件でしょう?……助言なんて絶対にしませんから」



 これは最初に釘を打って置かないと、調子に乗って聞いてくるパターンの会話だ。だから最初に逃げ道を作っておく。正直、孤児院は慈善活動ではなく、こちらとしても人材育成という観点からのビジネスで行っていることだ。



 今から孤児院を人材育成の場としての側面を持たせたところで、急激な供給は需要に追いつかない。後、個人的な理由も混じるが、現時点でこの話を公爵様にしたところで、こちらに利益が感じない。



 婚約関係といっても、お互いの立場的な利点で承諾したに過ぎないし。



 「しかし、孤児問題は王国全体が抱えるべき問題なのだ。都合がいいのは承知している。だが、3つもの孤児院の経営を立て直したおまえなら、解決できるかと思うのだ。俺が頭を下げれば助言をしてもらえるというのならよろこんで――」



 私は公爵様の言葉を遮る。自分の利益がなければ一生私はここで蔑まれてたし、公爵様にこうやって話す機会などなかった。今日だってディナサンがいなければ、一生不貞の噂を鵜呑みにされていただろう。



 「公爵様ってどこまで傲慢なんですか? あなたの謝罪如き、いらないですし、私が不愉快だと思った気持ちは変わりません。こちらの話は聞かないのに、自分の話は聞けって都合がよすぎ。私がただの根暗なデブだと思ったら大間違いです。婚約者としての責務、もし、これから結婚する場合、役目は全ういたします。けど、プライベートには関与しないで」



 「……だが、これだけは。孤児問題だけは引き下がることはできん。今でも孤児院は片っ端からつぶれ、孤児に回す予算も底をつき始めている。明日食べるものに困る孤児も多いのだ。……今回だけ。今回だけでいい助言をくれないだろうか」

 「孤児への対策を立てれなかった無能な王国の責任でしょう。私になんのメリットが……」

 「メリットがあれば助言してくれるのか」



 今度は公爵様が私の言葉を遮る番だった。



 まぁ? 私にメリットがあるのであれば、手を貸さないことはない。目の前にある全ての命など興味ないし、救う気はない。それこそ偽善者のすることだ。

 

 「私にメリットがあるならいいですよ。でも、現状は公爵様が提示しそうな条件で私が魅力的と感じるものがあるかどうか……」

 「では、君にあてる生活費の増額は……」

 「屋敷の維持や使用人の給金を含めて月たった金貨3枚の生活費しかもらえないのに、どう増額してくれるんです?私、今月に総額で金貨700枚くらいの収入が入ってきてますし、生活費はディナサンが負担してくれるのでいらないですよ?」



 それとなく、公爵様からあてられた生活費の話も話題に組み込んでみる。話を聞いてくれている状態なら、この当初頭を抱えていた問題に目を向けてくれる気がした。



 心配しろ、とかそういう意味ではなく。私に当てられたお金のほぼを着服している予算管理の担当者が痛い目みればいいな~という目論みも混ざっている。対処されなくても、今はそれなりの生活も出来ているのでいいけど。



 「……俺はおまえの生活費として金貨20枚はハイリーに預けてあるはずだ」

 「知りませんよ。だったらハイリーに聞いてみたらどうです? 彼に予算管理を任せているんですから、私が手をつけられるはずありませんよ」



 公爵様は一端口を閉じ考え込む。すると、すぐに返事が帰ってきた。

 「それは……確認をしてみる。不便をかけてすまなかった」

 「別に。不便だったのはこちらに住居を移した時くらいです。今は自分の生活費は自分で賄っていますのでそんなに不便じゃないですよ。……とりあえず、今は公爵様からいただける生活費はメリットになり得ません。貰えるならもらうくらいな感じです」



 お金は稼げている状態だし、わざわざ助言を条件に貰うにしてはもったいない気がする。でも、別に今欲しいものはないし。



 ……あ、いや、砂糖が高騰化してるから、砂糖の原料のてんさいを栽培しているところの利権とか貰えるならプライドかなぐり捨ててするけど。まぁ、たかだか助言ひとつではこちらも対価としては高すぎる。



 「俺がおまえに差し出せるもの……うちが所有している店の利権とかしかないな……それは駄目だろうか」

 「へえ。……そのお店というのは」

 「一応王国で名のあるスイーツ店なのだが……俺は直接経営に関わっていないのだが、たしか名前は……”マダムマコロン”だった――」

 「乗った!乗りました!それでいいです!」



 マダムマコロンだって!さっきたべたマカロンのお店じゃないの!あそこのマカロン、割くりとしてクリーミーで甘いクリームは絶品で、並んで買うのに2時間はかかるのよね。



 そのお店の利権くれればオーナー特権とかで、融通してスイーツが手に入れられるじゃん……。



 つい、テンションに任せて身を乗り出す。若干公爵様が引き気味の反応をしたので、我に帰って席に座り直した。



 「んん”。とにかく、マダムマコロンの経営に関するすべての権利を譲渡ということで手を打ちます。……でも女性に渡してもいいんですか?」

 「うまく立ち回るから貰うのだろう?おまえの店になるのだから好きにするといい」

 「いや、女性差別的なものを気にしているのですが……ま、いいか。後でなし、はないですから」

 「ああ、感謝する。提案した俺がいうのも難なのだが、ディナサンとの契約は大丈夫か?」

 「あれ、公爵様がしつこいから、帰ってもらうために半分嘘も織り交ぜたんです。実際、ドラム商会の不利益にならない程度の助言であれば大丈夫ですよ。その辺は私、わきまえているので」



 お互いの利害が一致したので、私は彼に孤児対策についての、私なりの助言を。彼は彼で私の大好きなスイーツ店をくれることに。



 ブルーベルにお茶とお菓子のセッティングをさせていざ会議。

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