その執着は今更です。

ビーバー父さん

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夜明けの攻防

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 空が黒から紫と群青を混ぜたような色へと変化し始めた。

 夜明けだ。
 
「変だな、一向に引き上げねーな」

「そう、みたいですね」

 下にも行けないなら、上?
 詰んだかな。

 そう思っていると、狼のような獣が何かに怯えた様に、木の周りを警戒し始めた。

「なんだ、どうした」

 副団長の男はその様子を訝しんで、下を凝視していた。

「魔物か」

「魔物が来たんですか」

 少し明るくなった所で、獣は僕達のいる木ではなく、森の奥後方を向いて唸り始めた。

「面白い気配がしておったが、獣どもにまだ食われておらなんだか、ならば、我が頂こう」

 周りは大分明るくなってきたのに、黒い影を纏った姿に、禍々しい事だけしか分からなかった。

 まさに、四面楚歌、こんな時に使わなくていつ使う! 今でしょ!

「獣はどうやってもあいつには勝てそうもないし、次はこちらに来るか」

 魔物は木の上を見上げた様な動きを見せた。

「上にいる者よ、獣の皮をかぶった方はお帰り、この場に相応しくない」

 ふいっと腕らしきものが上がると、そばに居た副団長の姿が消えて叫びというか怒号のような声だけが微かに響いていた。

「ふむふむ、お前、名は何という?」

 副団長がいなくなったと思ったら、すぐ傍に黒い影を纏った魔物が浮かんでいた。

「っひ!」

「あぁ、すまぬな、この姿では人は怖がる」

 そう言うと纏う影がするすると魔物の体と思わしき中に入っていき、次は人間に似通った体を形成し始めた。
 見た目が人っぽくなっても既に本性と言うか正体を見た後では、それほどイメージに変化は無かった。

 昔読んだ寄生獣って漫画みたいな感じで、いつバックンって食われるか分からない恐怖で、見たくないのに目を離しちゃいけないような気がして凝視していた。

「名は何という?」

 再度聞かれた。

「い、言えない、僕の名前は僕の名前じゃないから」

 ローレンツォもルイも、僕が望んだ名じゃないから。

「ふむ、ならば名付けようか」

「いりません!!
 僕は自分の名前を自分が知ってればいいから!
 欲しくもない名前を勝手につけるな!」

 散々、勝手にされて来た。
 ラノベの内容に酷似していて、ローレンツォなんて名前をマカロン野郎につけられて、逃げるためにルイって適当に名乗って、今、魔物は勝手に名前を付けようとする。

「ならば、名乗れ」

「うるさい!
 ここで食われて死ぬならそれでもいい!
 今まで以上に辛いことなんてきっと無いだろうから」

 人の姿を模した魔物は、どうして美形なんだろうか。
 惑わすためにそういう作りなんだろうけど、それが癪に障った。

「ふふふ、食ったりせぬ。
 お前に残ってる神の加護が知りたかっただけだ」

「神の加護、神の加護が?」

 それって転生ものあるある?

「そ、そんなのは知らない!」

 スキルの事だろうか?

「そうか、大分前に変な女が自分はひろいんだから、どうのこうのと言って我から魅了魔具を奪い取って行ったが、お主の方は神の加護が強いのに、何も成さぬのか?」

 ヒロインってミルフィーユ? しかも魅了魔具って詐欺じゃん!
 自由恋愛主義のボンクラが真実の恋とか言って嵌ったのって、魅了魔法のせいか。
 なんかラノベにそんな事書いてなかった気がするけど、それでモンブラン公爵が幸せになるならいいんじゃね? 
 
 そしたら僕の事なんかほっといてくれるでしょ。
 王室が何といっても、ほら、真実の恋なんだから、自分でどうにか切り拓くでしょ。

「そっか、そうなんだ。
 なんかそう言う方向に行ってくれるなら、僕としては大助かりだし、安心だわ」

「何がどうした?」

「ん? あぁ、そのヒロインが魅了魔具を使ってくれたらいいなぁって思っただけ」

 ザッハトルテ問題解決じゃん!

「ではお主は何を成す者になる?」

 一つ解決の兆しが見えたら、なんかホッとしてこの魔物が悪い奴に見えなくなった。
 単純。

「冒険者になって、自由気ままに、お金の心配しないで生きる!」

 そうそう、三食、いや二食をしっかり食べられる人生を目指す。
 目標、ちっせー。

「それだけの加護があるのにか」

「加護があっても、勇者とかにならなきゃいけないわけじゃないでしょ」

 ふむ、と考えた魔物は、そうだな、と納得した。

「ならば、いつかまた会おうぞ」

「お客さんとしていつか来てよ。 
 お店でもやる予定だからさ」

 最後は和気あいあいって感じで別れた。
 一体何がしたかったんだろう?






 ギルドでローレンツォの容姿にそっくりな者が登録したと言う報告を受けた。

「冒険者だと!?
 そのような危険な事をしなくても、私がちゃんと養ってやる!」

「ですから、その養うが一年もの間、出来ていなかったではないですか」

 執事も同罪であろう!

「お前も家令として使用人の行動を把握していなかったではないか!」

 長年私を諫めたり、教育係として正道を教えて来た者が、この体たらくではないか。

「あー、そろそろお暇したいと思いますので、はっきり言いますね。
 私は、旦那様に再三ご忠告しましたよ。
 聞いてなかったのは旦那様です。
 そして、主人の言う事が聞けないのか、と命令されたのも旦那様です。
 奥様の待遇に対し、執事とは言え使用人でございますから、費用などの事は手が出せませんし。
 教育を間違ったのは私めの責任でございます。
 ですから、本日、この場でお暇いたします」

「え、おい、いつ、は?」

 初老の執事はその年とは思えないような体裁きで、部屋から消えた。

 いつ、忠告されていたのだ。

「あ!」

 思い出した。
 服を与えた時に、『奥様のお好みに合わせて、まずお話をされれば』とか、『お食事が出されていないのは、旦那様のご命令だと聞きましたが、奥様のお体が心配ではないのですか?』も言われた。

「もっとはっきり、ちゃんと私が聞くまで言い続ければいいだろう!!」



 

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