子豚のワルツ

ビーバー父さん

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咲季の身体

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咲季の部屋へ走り出したのはトルクだった。

その後を続くのはレオハルトで、当然、行きたくは無いが、行かざる負えない状況のトアは他の皆と移動した。







「咲季!!!!」

ベッドに座っている咲季を見つけ、トルクは抱きしめた。

「咲季、許してくれ、お願いだ」

涙を流し許して欲しいと懇願するトルクに、咲季は首を傾げた。

「ここはどこですか?
 まだ暗いので夜なんでしょうか?
 あと、何かしゃべってますか?
 良く聞こえないのですが…
 僕は、どうなってるんでしょうか?
 車に轢かれて、助かったのかな?」

そこにいた皆が驚愕の表情をした。

咲季の目は光を映さず、耳は声を言葉を聞けなく、そして記憶は転生前になっていた。

このことに喜んだのはほかでもない、トアだった。
自分の罪は無かったことになった、と。
そしてレオハルトは、やり直しがきくと。

トルクたちは、咲季のこの状況をみて、己の罪深さを知った。



咲季は見たくないと願った。
自分ではない誰かを選ぶ言葉を聞きたくないと願った。
そして、愛してしまった事を忘れたいと願った。

神の祝福は、咲季の願いを叶えることに発動していたのだった。

「僕デブだけど、ずいぶん痩せられたんだなぁ。
 でもお腹のこの辺りは痩せられなかったんだ…
 残念」

てへっと笑いながら、自分のお腹を触る咲季をみると、下腹部が大きくなっていた。

「あのー、ここ、どこですか?
 僕の両親とか、一緒に事故にあった山際君とか、どうなったんですか?」

見えない目で手探りで周りを確認する咲季の手を取って、トルクはそのお腹に自分の子がいることを確信した。







僕どうしちゃったんだろう。
あの時ダンプに轢かれちゃったと思ったんだけどな。
もしかして、異世界転生とか、ないか、そんなの。
漫画とかの世界だもん。

でも困った。
何にも見えないし、聞こえないし。
周りに誰かいるんだけど、何にも言ってくれないんだよね。
そんなに、僕の状態は酷いのかな?
触れるところを触ってみたけど、あんなおデブだったのに痩せて細くなってたよ!
ラッキー!!
大病したら別人みたいに痩せちゃったってやつかな~?
んー、下っ腹だけ残ってる。
やっぱ、そんなうまくいくわけないか~

取り敢えず、挨拶は大事なのに、相手がどんな人か分からないから、名前だけでも言ってみようと思った。

「あの、どなたか分かりませんが、助けていただいたんですよね?
 ありがとうございます。
 僕、田淵 咲季って言います。
 よろしくなのかな?
 迎えが来ると思うし、待たせてもらっててもいいですか?
 病院なら入院費とか大丈夫なのかなぁ」

笑ったり困ったりする咲季をトルクは愛し気に見つめていた。
自分に笑いかけてくれたわけでも、あの時のようにキスをくれるわけでもないのに、ただ、この声を聞けて笑顔を見れただけでも幸せだと思った。

咲季がこちらの言葉が読み書きできたか不明だったが、その手の平にトルクの名前や死んでこの世界へ転生してきたことを書いた。

書いていく途中で、理解できていた咲季が手を引っ込めた。

目が見えなくなっていることと耳が聞こえなくなっていることを書いたときは、驚きながらも涙して受け入れていたのに、この世界で神に愛されて転生者として伴侶を得て今ここにいることを書いた。
そして、お腹に子供を宿していることを書いてる途中で、手を離された。
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