子豚のワルツ

ビーバー父さん

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トラウマ

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うまくいかない。
エスラの恋心はエディオンに果たして届いていなかったのか。

どのくらいの時間を共にしていたか分からないけど、あの小屋から駆け出して来たエスラは、確実に慕っていたしその姿を見つめるエディオンが憎んでいたり怒っていたような気はしなかった。

「咲季、何を考えている?」

トルクの半獣化した胸の中で、微睡みながら答えの出ないエディオンとエスラの事を考えていた。

「エスラの想いとエディオンの思いが違っていたのか、と。
 エスラはあんなに素直に気持ちを瞳に出していたから」

「そうだな。
 エディオンの過去を知れば、そんな風に思えないと嘆くエスラ殿の気持ちも分かる。
 だがな、実際、エディオンも魔王封印に関わって、封印したであろう?」

そうだ。
確かに転生はさせてしまったけど、偶然だったって言ってた。
しかもエディオンは生贄の封印にその役を務めたんだ。

本当なら、魔王にとっては自分を殺した相手なのに。

「エスラ殿は記憶もそのままに再生されて、殺されては封印を去れる
 それを続けられ、きっと体も心も容赦ない傷と痛みで苦しまれたはずだ。
 それでも、あのエディオンを許し慕うと言うのは、並大抵の繋がりでは無いと思うぞ。
 私達が悩んでも仕方ない。
 本人たち次第で、その思いもまた、正解などないのだ」

「うん、そうだね」

「恋とは誰かの気持ちの犠牲に成り立ち、愛とは互いを思い合い許す事だと思っている。」

「犠牲?」

「そうだ。
 お互いだけしか見えない恋は、誰かの恋心を踏みにじっているかも知れない。
 でもな、それを知ったからと言って何も出来ない。
 潰してしまった誰かの恋心の上に、私たちは愛し合ってる事を時々は思い出そう。」

そんな事考えたことも無かった。
でもだから片思いがあるんだな。
横恋慕もそうだ。

「愛してる、トルク」

「私もだ、咲季。
 大きな祝福を貰うためには、努力も必要なのさ」

「努力?」

「愛し合う努力だな。
 この場合は、もう一度、咲季の身体を愛したい」

「もう!
 そこじゃん、言いたかったのって、そこ?」

クスクスと笑って、まるで悪だくみをする様に、僕の乳首を舐めては快感を与えてくれた。










部屋の外の騒がしさで目が覚めた。
それはトルクも同じだった様で、裸に薄絹を巻き付けただけで、外を確認しに行った。

「何があった!!」

バタバタと騒がしくしていた従者の一人を捕まえて聞いてみたところ、魔王エスラがその身を犠牲にしてエディオンの家族を転生させた、と言った。

僕たちは、急いでエディオンが眠る部屋へと駆け付けると、魔族とは言えエディオンの家族親族、そして伴侶にその息子までが転生していた。
しかも、そのままの容姿で、違うとすれば、顔色の悪い魔族という種になっていた。
そして、その傍らにはエディオンが立っていた。

「エス、ラ?
 エスラ!!!!
 なんで、何でこんな!!!」

エスラの身体は細かく刻まれて、頭だけになっていた。
駆け寄って、その頭部を抱きしめた。


「俺の大事な家族を、転生させてくれって頼んだだけだよ。
 俺を愛してるなら、体の一部を与えて再生すれば、俺みたいに魔族だけど転生出来るんだから」

「エディオン!!!
 エスラの気持ちを逆手に取ったの?
 その体を犠牲にして、家族を復活させて、それが目的?」

「最初から、復活が望みだった。
 目覚めた時に、魔王様が提案したから、それを了承しただけだ。
 一度だけ抱いてくれたら、家族を転生させるって」

何てことだ。

エディオンが復活できたのは、エスラの体の一部が入り込んでるからだったんだ。
転生出来た理由に気づいたんだ。
封印された場所に埋められたって、それでエディオンがエスラの再生の時に一部が入り込んで転生出来たんだ。

「ねぇ、エスラがお前たちに何をした?
 エディオンから切り刻まれて封印され、そのエディオンも裏切られて殺されたんじゃないか」

「え?
 ちが、う
 俺は、魔王に、殺され、て」

「違う!!!
 殺したのは、レオハルトの国の王弟達だ!!」

おかしい、記憶がすり替えられてるのか?

「え、スラ、?」

「どうやってエスラに転生させた!?」

「あ、
 あいつが、そう言った」

抉られた傷を持つ魔族になった男を指して、こいつが教えてくれたと言った。

「エディオン!
 ちゃんと思い出せ!!
 お前の為なら、エスラは何でもするだろ!」

僕はエスラの頭を抱えて、エディオンに怒鳴り散らし、泣きだした。

「エスラ、エスラ 
 エディオンも、絶対許さないからな!!」

「咲季!!
 冷静になれ!」

嫌だ、嫌だ、こんな事!
僕だって同じ目に合わされたかもしれない。
ただ孕まされる道具に。

「僕だって、道具にされてた。
 バカだから信じて、レオハルトの事が好きって思ってた。
 でも違ってた!
 トルクにだって、利用された!!
 家族だからって、でも、僕はそれでも、許したんだ。
 エスラだってそうだよ!!
 好きだから、好きだから受け入れたんだ!!
 エディオンの家族に伴侶に息子を転生させるって事は、エスラにとって絶対エディオンとの未来が無くなるって分かってる事じゃないか!!
 それでも、自分の身を削らなきゃいけないって分かってても、エディオンの為に出来ることをしてあげたかったんだ!!
 僕はもう、許したりしない!!」

感情のまま叫んでた。

それを聞きつけた三人の息子が僕を支えて立ち上がらせた。

「父様、俺達もあの時の事は記憶で知ってる。
 最初の思惑がどうであれ、母様の心はまだ深い傷があるんだよ」

「そうだね。
 マロが言った通り。
 俺たちは咲季母様の気持ちが痛いほど分かる。
 同じ者だからな。
 シュリも豹紋が同じだって知ってた?」

「父上、母様が本当は凄く強いのは、誰かを想う心だ。
 その心を、壊さないでくれ
 あの時の事に、引き戻されるんだ」

あぁ、そっか。
トラウマだったんだ。



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