子豚のワルツ

ビーバー父さん

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僕は心がまだ傷ついていたんだ。

奥底にしまっていたけど、子供がいたから我慢したんだ。
もっと喚いてぶつけたらこの気持ちが解消できたんだろうか。
違うな。
また、何かがきっかけで同じように感情が引きずられるんだ。

「母様、大丈夫。
 僕たちがいる。
 ね?」

「情けないな。
 僕は自分が傷つくことから逃げてばかりで。
 ごめんね、みんな。」

大きく深呼吸をして、エディオンとその家族、マナイやトリシュ、ロゲルへ向き直った。

「エディオン様、失礼をお許しください。
 もう、必要のないエスラの首は、私が頂いてもよろしいでしょうか? 
 もし、対価が必要でしたら、私が個人で支払えるだけの対価を支払いましょう。
 そして、そこの傷がある魔族を、こちらへ還していただけませんか?
 アレは父王、ダリューンの弟君でございますゆえ」

エディオンの家族は、事情が分からず不安げに英雄を見つめた。

「え、と、もう、家族は復活したので、構いません。」

まるで、子供の様な受け答えに、苦笑を禁じえなかった。

「トルク、あとで話し合いましょう」

エスラの首をマロが用意してくれた布で包み、その場にいた皆にこの国から出ることを伝えて部屋を後にした。

「咲季ちゃん!!
 私たちもすぐに帰るから!!
 絶対待ってて!」

「うん、兄様、ゆびきりしたもん、待ってる」

振り向きながら笑顔でマナイたちに答えて、瞬きしたらまた落ちそうな涙を我慢した。








転移魔法で、帰国した。

出るまでに結構、捕まったけど、三人の息子が躱してくれた。

「母様、エスラ様は多分、もう自力では再生できないと思う。」

「そうかも。
 でも、見て
 エスラったら満足そうだよ」

涙が止まらなかった。
また、痛い思いして再生されても嫌だよねぇ。
もう、痛い事しないから、ね。

「エディオンが好きだからって、そんなに頑張らなくて良かったのに。
 バカだなあ」

首と一緒に切られて短くなった黒髪を撫で、折られた角の根元にキスをして、神の祝福を発動させた。

一面光が溢れて、僕達親子と共に飲み込まれ、神様が現れた。



咲季、また、巻き込まれて。


神様、エスラを助けて!


ここまでになった魔王は再生できない。
新たな生を与えるには、咲季のスキルでは無理だ。
神の祝福は生きている者にしか、与えられないんだ。


どうしたら新たに生まれ変われるの?


マロがスキルを使えば。
でも、同じ記憶を引き継いだりは出来ないんだ。
エスラでは無くなる。


母様、私達の弟として、育て直しましょう。


マロ?


そうだね、それならもう、追われたり傷つけられたりしない。
俺は賛成だ。


シュリ?


同じ黒だ。
きっと賢い子になる。
ついでにマロの次くらいには可愛いかもな。


フロウ?


決まりだ。
咲季、神の祝福とマロの命の泉を併せて使うよ。


マロが笑って、フロウも笑って、シュリが僕をしっかり後ろから抱きしめて、エスラの首を囲んだ。

まるで光が泉から湧く様に、僕達の体とエスラの首を浸した。

エスラは光の粒になり、額に白い星を持った黒い子猫になった。


エスラは何も覚えてない筈だ。


この子には、あまりスキルを与えられなかった。
だから、咲季達の元で守ってあげて。


ありがとうございます、神様。




光が引くと、腕の中に小さなエスラがいた。

「こんにちは。
 エストゥール、僕達の弟」

「小さな星ね、良いじゃん
 エストゥール、俺はシュリ兄様だ。」

「マロ程じゃないけど、エストゥールも可愛いな。
 フロウ兄様だ。」
 






 
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