世界を喰らうは誰の夢

水雨杞憂

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海無し国の海の幸

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 青年は闇に紛れ、対象を観察する。
 森林で火を囲んでいるのは四人の人影だった。
 ギザギザした刃の大剣を携えた大柄の男性、弓とショートソードを横に置いている男性。あとは、小太りな男とその男より二回りほど若そうな男だ。
 戦力としては明らかに前者二人、後者二人は非戦闘要員だろう。
 四人は目前の旅の成功を祝してか、毎日の定例なのか分からないが酒盛を行っている。
  その横にはドーム型に布を張った大きい荷馬車が1つ。シルエットからは中身を察することは出来ないが、青年には中身のおおよその検討は着いていた。それは、青年が超能力だとか魔法に長けてるだとかそういう理由ではなく単純にそれが青年の仕事なのだ。
 青年の仕事は自国に適切ではない物を持ち込まれるのを阻止する。つまり、あれの中身は「密輸品」だ。

  青年は近づき、彼らの身なりから依頼のターゲットであることを確認すると拾った石を彼らを挟んだ対面の木に向かって投げた。
 石は枝をへし折り乾いた音を立てる。

「おい!」

 大男が声を荒げる。手練れの傭兵なのか流石はプロ、酒を飲んでようが直ぐ様臨戦態勢に入るように大剣に手をかける。そして、相棒の男にアイコンタクトを送ろうとした。
 弓使いの男も奇襲に備えてショートソードを取るも既に首など無い。
 茂みより飛び出した青年に背後から短剣によって首を切り落とされていた。

「△◯※=%k@_#!」

 大男は長年の相棒の名前を呼んだのか、哀しみか激昂とが入り交じった怒号を響かせる。青年はひよることなく残りの二人には目もくれず、大男に目掛けて姿勢を低く踏み込む。
 大男は走り込む青年に座標を合わせ剣を降りそうとするも額の激痛に顔を歪めた。青年の左手から鉄片が弾き出されたのだ。
 予備動作無く放たれた鉄片は男の額に突き立っている。
 更に追撃するように弾き出されたもう一枚鉄片は鼻を縦に割った。
 それだけでは終わらない。青年は怯んだ男に飛び掛かるように地面を蹴り、短剣を太い首にあてがう。
 その短剣は異様で半月の様な形状をしていた、その弧の部分が首に掛かると短剣は熱を帯びうっすら赤黒く発光している。
 そして、大男の首を通過した。
 その様は、切ると言うより裂いたと言うのに等しい。
 
 青年の持つ剣は魔剣だ。「首を切る」という目的のみとして作られている。それ以外の用法は無く、トマトも切れぬほどなまくらである。

「ひぃぇへへぇ、頼む!俺は戦えないんだぁ!見逃してくれぇ」

 若い男が気の抜けそうな叫び声を上げ、武器のつもりなのか食事に使っていた器具を投げ棄て懇願する。
「済まない、これが僕の仕事なんだ」
 この場に不釣り合いの落ち着いた声を発した青年は慣れた手つきで男の首に短剣を押し付けると、あっさり引き切ってしまった。
 青年はその姿勢のまま残された一人に視線を送る。
「お前はだれだ?」
「ただのしがない警備員だよ」
 小太りの男は腹を括っているのかゆっくり青年に伺った。
「なぜ、こんなことを?」
「あなた方が、僕の国に害の有るものを持ち込もうとした。ただそれだけさ」
「そうだったな。だから、こうやってこっそり運んでたんだ」
「…………」
「だがな、これが私の夢だ! 非情な君には分からんだろうがな!」
 言葉が終わるのと同時に小太りな男の首は切り落とされた。
「僕にだって夢はあるし、こう見えてもこの国と人が好きだ。だから、こうやって戦ってる」
 青年は遺骸に向かってそう答えた。





 後の、青年の仕事は簡単なものだ。馬車の馬を逃がし、荷物を燃やした。量が量だけに完全に燃えきるまで時間がかかりそうである。
 青年はその間に近くにあった泉で短剣を洗い流すことにした。
 彼らがここでキャンプを張った理由も含まれていただろう泉は月を映し静かに揺らめいていた。
 刃が肉に直接触れてはいないとはいえ、返り血はべっとり着いている。青年は水を片手で掬い、布では拭いきれなかった箇所に垂らした。
 
 何気なく辺りを見回すと青年はハッとし剣を拭おうとするのをやめ、短剣を構えた。
 木の根にもたれる人影を発見したのだ。
 その人影はまるで闇に紛れるようにひっそりと気配を消している。
 青年は微かな月光を頼りに目を必死に凝らした。
 それは意外、その姿は小さく、泉に映る月の色をそのまま取ったような銀髪の少女だった。
 肩にかからないかの長の若干癖がかった髪、後ろも邪魔にならないように結い上げてある。
 その少女は気配を消しているのではなく、ただ静かに睡眠を取っていた。
「もう一人、同行者がいたのか」
 青年は、ぼやくと静かに少女に近づく。もちろん、短刀は構えたままである。
 少女の前に立った青年は彼女を見下ろす。呼吸をしていないのではないからと言うほど静かに瞳を閉じていた。
「これも仕事……か」
 青年は目を細め、少女首の横に短刀をかざした。そして「首を狩る」と意思を込めた。
 
 その時だ、グッと剣が重くなった。
 なんと、少女が短剣を握り込んだのだ。それも、とてつもない怪力で。
 
「なっ!」 
「ふむ……。奇妙な物を持っているな」

 少女はそのまま短剣を無理やり自分の前にずらすとその瞳を開ける。 
 短剣を観察するその瞳は赤黒く、仄かに発光している。
「多少は切れてしまうことも覚悟していたが、そのような代物でも無いらしい」
「君は魔人か?」
「私はその呼び名をあまり気に入ってはいないが、多数主義で考えるならそうだろうな」
 少女は軽い溜息混じりにつぶやく。
「さて、私の同行者の気配が無いがこれはどういう用件だ?」 
「殺した」
「そうか。で、どうする?私も殺すのであろう?」
 少女は青年の目を直視しながら言った。その瞳は瞳孔が限りなく開いておりギラギラと青年の内心を探ろうとしてくる。
「いや、止めておこう。第一に僕は君に勝てる気がしないし、昔に魔人に恩があるんだよ」
「懸命だな。剣を引くがいい」
 彼女がそう言って短剣から手を離すと青年は少々驚いた表情を浮かべる。
「君こそ、僕を殺すと思っていた」
「まぁ、希望とあれば逆上するのも悪くは無いがな。彼らとは旅路で会って、そこの国まで運んでもらう予定だっただけだ。日も浅い。恩はあれど、情はまだ無いんだよ」
「随分、薄情なんだな」
「死者のために殺めて何になる?私は利己的なのだ」
 少女はそう言って立ち上がると青年の横を抜け泉に近寄った。そして、片手で水を掬い口に運ぶ。 
「貴様の名は?仮でも構わん」
「僕はジャック」
「ジャックか、行動に反して随分凡庸な名だな。まぁ、いい。私はアリス。ここから遠く離れた魔の国の使者をやっている」
 そして、再び水を口に運びながら続けた。
「ここを訪れた理由もそれだ。それに、貴様には償いをしてもらう。私の足を無くした罪滅ぼしだ」
「それは断れないのか?」
「言っただろ?」
 少女は振り向いた顔に獰猛な笑みを浮かべなが言った。

「私はな、利己的なんだ」

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