世界を喰らうは誰の夢

水雨杞憂

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海無し国の海の幸

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 二人が図書館を出たときにはすっかり日が落ちかけていた。夜に備えて街の人が街灯に火を灯している中、ジャックはアリスに連れられるがままに本に書かれていた料理店に足を運んでいた。
 そこは昼に食事を取ったところより数ランク高そうな店構えである。明るすぎない照明と一人の奏者が奏でるシンプルだが音階の広い楽器演奏がとても上品な雰囲気をかもし出している。
 内装を整えてあることだけはあって、接客もとても丁寧であった。二人は案内された席に腰を下ろす。そして、注文を入れ一息ついた。ジャックは、所持金を確認しつつ軽くため息をついたようだ。
  ふと、ジャックはアリスに顔を向けるとあることに気づいた。
「おい、目が……」
 周りにはあまり聞こえない程度の声で促す。最初に出会ったときのようにアリスの瞳が淡く発光していたのだ。
「あ、これか……。っと言ってもなそういう作りなのだ。自分の意思ではどうにもならん」
「…………。」
  ジャックはため息を漏らすと服のポケットから携帯用のランプを取り出し灯りを付けテーブルの上に置いた。
 すると、目の発光が収まったのか分からないが、とりあえずは目立たなくはなった。
「すまないな。だがこれのおかげで夜目が利くようになっているのだ」
「構わないさ」
 しばらくして、注文したものがテーブルに運ばれてくる。
 店員はどうやらアリスの瞳のことに気付くこともなくやり過ごせたようだった。
 運ばれてきた食事は、素材としては昼食にとったものと同じものだが一口サイズに小分けされていたりと見た目に大きな違いがあった。おしゃれな白いソースで色付けされた肉はある種の上品さもかもし出している。
 それを口に運ぶアリスは至福の表情を浮かべる。昼間のコッテリとした味も嫌いではなかったが、同じ肉とは思えないさっぱりとした味も捨てがたい。
 アリスは上機嫌に食事味わいつつの合間に話し出した。
「それとな……」
「?」
「貴様、ため息が多いようだがやめた方が良いぞ。何処かの国では『ため息の数だけ幸せが逃げる』とか、言い伝えがある……」
 食事を口に運んだフォークの先をくるくると回しながら得意顔で詳細を語っている。
 しばらくも語らないうちにその話を止めるようにジャックは呟いた。
「この国ではそんな話は無いから、関係ないこととだよ」
「別にこの国の話はしてない。物の考え方の話をしてるのだ。もっと、素直になった方がいいんじゃないか?  貴様の面倒見の良さは認めるが、その偏屈な性格治した方が良いぞ」
 アリスはガシガシと頭をかきながら言った。
「それはすまないと思っているよ。でもね、僕も君のことは嫌いじゃないが、その何でも知っているような口ぶりは好きになれないんだ」
 ジャックは子を諭すように優しく言う。だが、これは彼の優しさか出る口調では無いことはアリスには容易に感じとることができた。ただ、面倒事を避けて過ごすための手段なのであろう。
 その後、お互いに居心地の悪い沈黙する時間が続いていた。
    
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