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海無し国の海の幸
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ジャックはひどい頭痛と物音で目が覚めた。
窓から差し込む光はまだ乏しく完全には日は顔を出してはいないようだ。
「とりあえず水が欲しい」が、とりあえず動かない頭によぎった最初の思考であった。
ジャックはおぼつかない足取りで洗面所に向かう。
「!?」
体調不良と言えど進行方向からの気配にジャックは身構える。条件反射で肌身離さず持っている短剣も構えていた。
向こうもこちらに気づいたのか殺気が漂う。しかし、すぐに緩和した。
「起こしてしまったか。一応気遣って静かにしていたつもりなのだがな。浴場を借りたぞ」
洗面所から髪を拭いながら出てきたのは昨日出会ったアリスだった。昨日のように古ぼけたローブは纏っておらず手袋意外は少女に似つかわしいワンピース姿をしている。ただ、普通の少女との相違点は土汚れや擦り切れでおしゃれとは言いがたい物ではあった。
「個人浴場なんて贅沢なことだ」
「なっ、なんで君がっ!」
「この国では一文無しだからな、私は。貴様が私の荷を燃やしてしまったのだろ? ん……。ああ、心配するな貴様が想像していることなどない。あったら貴様は死んでいるからな」
「何十年ぶりの大失敗だよ。そんなに僕は飲んでたのかい?」
ジャックは額を抑えつつ言う。
「いや、たかだか五杯程度でグロッキーになってたぞ。酒乱よりはましだがな。かろうじて応答は可能だったから私が背負ってきた」
「もう、それ以上聞きたくないよ」
うっすら蒸気を漂わせるアリスの横をすり抜けジャックは水が湧き出ている洗面台に顔を突っ込み水を胃に流し込む。
しかし、すぐに症状が緩和するわけもなくしばらく時間が必要そうであった。
「ふむ、辛そうだな。だが時間が解決してくれよう。もう暫く休むといい」
「そうさせてもらうよ」
「そうだ、もうひとつ伝えておくことがある」
「なんだい?」
「私は日が上らぬうちに行くぞ。世話になったな。本当は勝手に行くつもりではあったがついでと言うやつだ」
「そうかい。ありがとう、僕も少しは楽しかったよ」
既に視界から外れているアリスと会話をかわす。ローブを纏う音も聞こえてきた。
「ああ、それとな……」
昨日のようにローブを被った状態で再びアリスは洗面所に顔を出した。
「貴様はこの国が好きか?」
「何を言い出すかと思えば。何度も言っている通り好きだよ」
「そうか……。では私は行くぞ、今日一日ゆっくり休むといい」
アリスはそう言い残すとスッと音も立てずに居なくなってしまった。
もともと、彼女など居なかったのではないかとそんな錯覚に陥るほど空気は静まりかえっていた。
残るのは彼女が使用したシャワーの湿っぽさだけである。
ジャックはもう一度水を含みため息を着くと彼女の助言通りもう一度寝た。
窓から差し込む光はまだ乏しく完全には日は顔を出してはいないようだ。
「とりあえず水が欲しい」が、とりあえず動かない頭によぎった最初の思考であった。
ジャックはおぼつかない足取りで洗面所に向かう。
「!?」
体調不良と言えど進行方向からの気配にジャックは身構える。条件反射で肌身離さず持っている短剣も構えていた。
向こうもこちらに気づいたのか殺気が漂う。しかし、すぐに緩和した。
「起こしてしまったか。一応気遣って静かにしていたつもりなのだがな。浴場を借りたぞ」
洗面所から髪を拭いながら出てきたのは昨日出会ったアリスだった。昨日のように古ぼけたローブは纏っておらず手袋意外は少女に似つかわしいワンピース姿をしている。ただ、普通の少女との相違点は土汚れや擦り切れでおしゃれとは言いがたい物ではあった。
「個人浴場なんて贅沢なことだ」
「なっ、なんで君がっ!」
「この国では一文無しだからな、私は。貴様が私の荷を燃やしてしまったのだろ? ん……。ああ、心配するな貴様が想像していることなどない。あったら貴様は死んでいるからな」
「何十年ぶりの大失敗だよ。そんなに僕は飲んでたのかい?」
ジャックは額を抑えつつ言う。
「いや、たかだか五杯程度でグロッキーになってたぞ。酒乱よりはましだがな。かろうじて応答は可能だったから私が背負ってきた」
「もう、それ以上聞きたくないよ」
うっすら蒸気を漂わせるアリスの横をすり抜けジャックは水が湧き出ている洗面台に顔を突っ込み水を胃に流し込む。
しかし、すぐに症状が緩和するわけもなくしばらく時間が必要そうであった。
「ふむ、辛そうだな。だが時間が解決してくれよう。もう暫く休むといい」
「そうさせてもらうよ」
「そうだ、もうひとつ伝えておくことがある」
「なんだい?」
「私は日が上らぬうちに行くぞ。世話になったな。本当は勝手に行くつもりではあったがついでと言うやつだ」
「そうかい。ありがとう、僕も少しは楽しかったよ」
既に視界から外れているアリスと会話をかわす。ローブを纏う音も聞こえてきた。
「ああ、それとな……」
昨日のようにローブを被った状態で再びアリスは洗面所に顔を出した。
「貴様はこの国が好きか?」
「何を言い出すかと思えば。何度も言っている通り好きだよ」
「そうか……。では私は行くぞ、今日一日ゆっくり休むといい」
アリスはそう言い残すとスッと音も立てずに居なくなってしまった。
もともと、彼女など居なかったのではないかとそんな錯覚に陥るほど空気は静まりかえっていた。
残るのは彼女が使用したシャワーの湿っぽさだけである。
ジャックはもう一度水を含みため息を着くと彼女の助言通りもう一度寝た。
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