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愛してるって言ってるじゃん。
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「愛してるって、言ってるじゃん」
そう言うと、俺のベッドでゴロゴロする田辺は拗ねた。
「愛してるが軽いんだよ。毎日言われちゃ、大事に思えなくなる。」
衣類の散らかった部屋。俺は拾い上げてそれらを身につけ始める。田辺にも着るように伝えるが、適当な返事をして布団にくるまってしまった。エアコンで室内と温めるとは言え、季節はもう秋。寒くなっている。
風邪を引いても本人の責任だしな…と口を出したい気持ちをグッと抑え、リュックから課題と教科書を取り出し机へ向かう。しばらくすると、田辺も服を着て、スマホゲームを始めた。
「課題大丈夫?」
「さっきよっちゃん待ってる時に終わらせたから大丈夫!」
にこやかに笑った。放課後、用事があった俺を待っていてくれたのだ、と思うと顔が綻んだような。そんな気がした。
俺は真面目な割に要領が悪い。田辺が終わらせた時間より大幅にオーバーしても半分程度しか終わらなかった。
「よっちゃん数学苦手だもんねー、しゃーなししゃーなし!教えてあげる」
「ありがと…」
「お礼が言えるよっちゃん好き!」
こういう田辺が好きで、なんとなく嫌いだ。
夕飯は自宅に積み重ねてあるカップラーメンで済ませた。足りない分は残り物の白米を追加。カップ麺の汁に白米はいいなぁ!って田辺は笑っていた。
午後7時ごろ、田辺は帰路についた。毎度毎度「よっちゃん大好きだよー、また明日ね!」と言う。小っ恥ずかしいっていったらありゃしない。俺は「ありがと、また明日」と返す。
…疎ましいほど好意を伝えてくれる田辺もいなくなったら悲しいものだ。田辺のお陰で終わった課題をリュックに仕舞い、机からきらりと光るピンク色の剃刀を取り出し、横になって見つめた。
今日は田辺にたくさん好きを伝えて貰った。昨日も、一昨日も。頭がゆっくり回って締まって行く感覚がする。じわり、じわりと。
田辺の事を思い浮かべても、この痛みには変わりない。肌の感覚を思い出しながら、冷たい刃を腕に押しつけ、横へ引っぱる
「ーっ!」
想定したよりも力んでしまったみたいで、慣れた類の痛みとはいえジリジリとした痛みには思わず歯軋りをした。気のせいかも知れないけれど、痛みに対応した体は空気が抜けるように眠くなる。
(また田辺は何も言わないんだろうなぁ…)
耳をつんざく声。感情が昂っているせいか言葉がうまく聞き取れない。悲鳴も怒号も飛び交う、恒例の両親の喧嘩だ。この怒号を聞くと、何もできない自分の不甲斐なさ、生まれてこなければお互いの幸せを歩めたかも知れないのにという感情がコップから溢れ出す。もう一眠りできたら、明日になっていてほしい。歯を噛み締めているうちは無理なことは理解している。
田辺に初めて傷を見せたのは、致す前。シャツの裾が血液で汚れていた日のことだ。
「よっちゃん、これなぁに?」
休み時間。制服のシャツに汚れがべっとりついているなんて、大丈夫なのだろうかとか、純粋に知りたかったのだろう。
「血…、」
「…止まった?」
普段から聞いている浮いた声が地に足ついた。
「汚れてるってことは止まってない、かも」
「もし止まってなかったら保健室いこ」
「こんなことで…」
「いいから」
半ば強引に保健室で世話になることになった。養護教諭からも大袈裟な反応をされることはなかった。淡々とした作業に、次はないと宣告されている気がして心が痛んだ。
それから田辺と肌を見せて触れ合う事があっても、傷が増えても言及されることはなかった。ただただ、二人でいる時は愛してると繰り返すくらい。
感情と言葉の重さが比例しないような、そんな姿がなんとなく嫌いなのかも知れない。
翌日はテスト期間に入るため、早めに俺の家で駄弁ることとした。今日は生物、現代文、数学を勉強する。
「よっちゃん、現代文教えてー」
「いいよ、その代わり数学教えて」
「お安い御用だよー!!」
課題、テスト対策。感情が勉強だけに打ち込まれるのも良いもので、昨晩の痛みも忘れられる気がした。はずだった。
「…よっちゃん。」
「なに?」
「昨日もなんかあった?」
何もないよ、というと田辺は笑う。
「なんもないよ」
「嘘は嫌いだよ」
冷ややかな声。反射的に田辺の方を見るとまっすぐに俺を見つめていた。
「なんか今日変だったもん。月曜日もダメだったでしょ、よっちゃん検定準一級だからさ、よっちゃんの顔色で全部わかるんだ。でもね、まだよっちゃん自身の声を引き出せないから一級にはまだ合格できないの」
「……」
「姑息な手かも知れないけど、知りたい。おしえて、よっちゃん」
じんわり涙腺が刺激される。目が痛い。歯を食いしばって、出た言葉は涙が混じっていた。
「昨日は親が喧嘩しててさ、自分なんか生まれてこなきゃお互い簡単に手放せただろうにって思っちゃうんだ。何もできないくせにって言われたことも思いだしちゃった、で、切っちゃった」
気づけばぽろぽろ涙が出ていた。視界が歪んで、田辺が今どんな表情をしているのかもわからない。
「……伝わってなかったのかなぁ、よっちゃん。愛してるよ」
「わかってるよ…」
田辺はゆっくり俺を抱きしめた。
そう言うと、俺のベッドでゴロゴロする田辺は拗ねた。
「愛してるが軽いんだよ。毎日言われちゃ、大事に思えなくなる。」
衣類の散らかった部屋。俺は拾い上げてそれらを身につけ始める。田辺にも着るように伝えるが、適当な返事をして布団にくるまってしまった。エアコンで室内と温めるとは言え、季節はもう秋。寒くなっている。
風邪を引いても本人の責任だしな…と口を出したい気持ちをグッと抑え、リュックから課題と教科書を取り出し机へ向かう。しばらくすると、田辺も服を着て、スマホゲームを始めた。
「課題大丈夫?」
「さっきよっちゃん待ってる時に終わらせたから大丈夫!」
にこやかに笑った。放課後、用事があった俺を待っていてくれたのだ、と思うと顔が綻んだような。そんな気がした。
俺は真面目な割に要領が悪い。田辺が終わらせた時間より大幅にオーバーしても半分程度しか終わらなかった。
「よっちゃん数学苦手だもんねー、しゃーなししゃーなし!教えてあげる」
「ありがと…」
「お礼が言えるよっちゃん好き!」
こういう田辺が好きで、なんとなく嫌いだ。
夕飯は自宅に積み重ねてあるカップラーメンで済ませた。足りない分は残り物の白米を追加。カップ麺の汁に白米はいいなぁ!って田辺は笑っていた。
午後7時ごろ、田辺は帰路についた。毎度毎度「よっちゃん大好きだよー、また明日ね!」と言う。小っ恥ずかしいっていったらありゃしない。俺は「ありがと、また明日」と返す。
…疎ましいほど好意を伝えてくれる田辺もいなくなったら悲しいものだ。田辺のお陰で終わった課題をリュックに仕舞い、机からきらりと光るピンク色の剃刀を取り出し、横になって見つめた。
今日は田辺にたくさん好きを伝えて貰った。昨日も、一昨日も。頭がゆっくり回って締まって行く感覚がする。じわり、じわりと。
田辺の事を思い浮かべても、この痛みには変わりない。肌の感覚を思い出しながら、冷たい刃を腕に押しつけ、横へ引っぱる
「ーっ!」
想定したよりも力んでしまったみたいで、慣れた類の痛みとはいえジリジリとした痛みには思わず歯軋りをした。気のせいかも知れないけれど、痛みに対応した体は空気が抜けるように眠くなる。
(また田辺は何も言わないんだろうなぁ…)
耳をつんざく声。感情が昂っているせいか言葉がうまく聞き取れない。悲鳴も怒号も飛び交う、恒例の両親の喧嘩だ。この怒号を聞くと、何もできない自分の不甲斐なさ、生まれてこなければお互いの幸せを歩めたかも知れないのにという感情がコップから溢れ出す。もう一眠りできたら、明日になっていてほしい。歯を噛み締めているうちは無理なことは理解している。
田辺に初めて傷を見せたのは、致す前。シャツの裾が血液で汚れていた日のことだ。
「よっちゃん、これなぁに?」
休み時間。制服のシャツに汚れがべっとりついているなんて、大丈夫なのだろうかとか、純粋に知りたかったのだろう。
「血…、」
「…止まった?」
普段から聞いている浮いた声が地に足ついた。
「汚れてるってことは止まってない、かも」
「もし止まってなかったら保健室いこ」
「こんなことで…」
「いいから」
半ば強引に保健室で世話になることになった。養護教諭からも大袈裟な反応をされることはなかった。淡々とした作業に、次はないと宣告されている気がして心が痛んだ。
それから田辺と肌を見せて触れ合う事があっても、傷が増えても言及されることはなかった。ただただ、二人でいる時は愛してると繰り返すくらい。
感情と言葉の重さが比例しないような、そんな姿がなんとなく嫌いなのかも知れない。
翌日はテスト期間に入るため、早めに俺の家で駄弁ることとした。今日は生物、現代文、数学を勉強する。
「よっちゃん、現代文教えてー」
「いいよ、その代わり数学教えて」
「お安い御用だよー!!」
課題、テスト対策。感情が勉強だけに打ち込まれるのも良いもので、昨晩の痛みも忘れられる気がした。はずだった。
「…よっちゃん。」
「なに?」
「昨日もなんかあった?」
何もないよ、というと田辺は笑う。
「なんもないよ」
「嘘は嫌いだよ」
冷ややかな声。反射的に田辺の方を見るとまっすぐに俺を見つめていた。
「なんか今日変だったもん。月曜日もダメだったでしょ、よっちゃん検定準一級だからさ、よっちゃんの顔色で全部わかるんだ。でもね、まだよっちゃん自身の声を引き出せないから一級にはまだ合格できないの」
「……」
「姑息な手かも知れないけど、知りたい。おしえて、よっちゃん」
じんわり涙腺が刺激される。目が痛い。歯を食いしばって、出た言葉は涙が混じっていた。
「昨日は親が喧嘩しててさ、自分なんか生まれてこなきゃお互い簡単に手放せただろうにって思っちゃうんだ。何もできないくせにって言われたことも思いだしちゃった、で、切っちゃった」
気づけばぽろぽろ涙が出ていた。視界が歪んで、田辺が今どんな表情をしているのかもわからない。
「……伝わってなかったのかなぁ、よっちゃん。愛してるよ」
「わかってるよ…」
田辺はゆっくり俺を抱きしめた。
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