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6 サシャさん
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「お疲れさまー! 元気ー? 今日は日差しがあったかいよね! お洗濯物よく乾くでしょ!」
庭に出ると猫耳のサシャさんが声をかけてきた。穴を開けてあるらしい緑色の帽子から出た猫耳は、よく見ると三毛だった。髪も黒髪の途中でオレンジ色になったりしている。柵にもたれかかってアイスらしきものを食べてるけど、寒い時期なのに元気だな。
「ちょっとおいで! こっちこっち! これ一緒に食べない? ほらー溶けちゃうから早く!」
そう急かされ、慌てて駆け寄った。サシャさんが黒いバッグを開けると、中から暖かい空気がふわんと顔に当たった。ヒーターらしきものはないのに、どうなってるんだろう。
「あったかいでしょ? 寒い時期の必需品。保温魔道具だよーん。はいこれ君の分ね、召し上がれー!」
「あ、え、いただきます……ん!? あったかい!」
形はどう見ても棒つきのアイスクリームなのだ。なのにカップのホットミルクを固形にしたような口当たりと温かさ。甘味が強くてコクがある。謎の食べ物に脳が混乱するが、とても美味しい。
「初めて食べた? 実はおれも初めて! 昨日機関車乗って買ってきたの! 美味しい?」
「凄く美味しいです。あっ、これ高いんじゃないですか? おいくらです?」
「いらないいらない! あ、そうだ、じゃあ代金の代わりにー、お名前聞いていい? どこから来たの? ずっとここで働く予定?」
また矢継ぎ早な質問タイムである。どこから来た、というのは答えにくいので遠いところから、とボカすと彼は『へー、そうなんだー』とあっさり流してくれた。
「ここに来てからまだ一ヶ月経ってないよね? じゃあまだ行ってないとこ沢山あるでしょ。ねえねえ、今日おれと夕飯食べに行かない? 女の子一人で外出るのは危ないから、おれが護衛役やるからさ! ね!」
「えっと…、一人で外に出ちゃいけないのは知ってるんですけど、オルフェくんを護衛にって言われてるんで、彼に許可をとらないと…」
「えー? うーん、そっかあ、じゃあお休みの日っていつ?」
「うちの定休日です。なので、明後日ですけど…」
「じゃあその日にさあ、昼食食べたらこっそりここに来てよ! 内緒でお茶しに行こー! そんで夕飯までには戻ればいいじゃん。カイちゃん全然外出てないでしょ? たまには息抜きしないと疲れちゃうよ! ね!」
「あ、あの、お世話になってる身なんで、あまり勝手なことは出来ないというかしたくなくて、ごめんなさい」
「カイちゃんいい子だねえ! 内緒にするのが辛いんだね。いつも真面目に仕事してるもんね、まだ小さいのに偉いよね! ねえ、ここではいくら貰ってるの? うち手紙の仕分け作業する人募集してるんだけどさ、うちでも住み込みで働けるよ。真面目な人がいいんだよねー。カイちゃんならぴったりだよ! ここで貰ってるお給料から更に上乗せするからさ、うち来ない?」
褒め言葉の連続から、流れるようにスカウト話に切り替えられた。凄い。口が達者。サシャさんこそ営業マンに転職したほうがいいんじゃないだろうか。
「ここにはお給料のためにいるわけじゃなくて、拾ってくださったので…、あの、僕、迷子なんですよね。帰り道がわからなくなっちゃって」
「そうなの? じゃあおれ一緒に探してあげるよ。だったらここから堂々と出して貰えるでしょ?」
「…オルフェくんについてきて貰って、探しはしたんですよね。でも、ダメでした」
「ずっと働く予定って言ってたのはそういうことかー。うーん……あのさ、カイちゃん、オルフェのこと好き?」
「えっ」
ドキッとした。好きか嫌いかと問われると、断然好きだ。嫌いな要素がない。しかしそれが恋愛か親愛かと問われると、悩んでしまう。かっこいいから、優しいから、距離が近いから、…ああいうことをされると変な気分になるからといって、恋愛です、とはなんだかはっきり言えない。
「まだわかんない感じ? あいつモテるからなー。ちょっといいなーって思っちゃうだろうね。わかるよー。でもさー、おれもカイちゃんのこといいなーって思ってるからね。それちゃんと覚えておいてね!」
「え、は、はい……」
「最初見かけたときからすっげー可愛いーって思ってたよ! また話そうね! バイバーイ!」
サシャさんは大きな目をいたずらっぽくニッと細めて笑い、最初会ったときと同じようにガラララと荷車を曳いて行ってしまった。食べかけの謎のアイスクリームじゃないものが、まだほかほかと湯気を出している。そういえばこれは溶けるものだって言ってたな、と慌てて食べながらしばらく考えた。
陽気な人だったなあ。僕は未だに油断すると故郷のことを思い出しちゃって、もう帰れない実感に押しつぶされそうになっちゃうけど、ああいう人と話してるとそのこと自体を忘れちゃうなあ。
陽気キャラ…陽キャ…いいなあ。僕なんて…と、また考えても仕方ないことを考え出してしまった。仕事だ。仕事をしよう。仕事は全てを忘れさせてくれる。
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© 2023 清田いい鳥
庭に出ると猫耳のサシャさんが声をかけてきた。穴を開けてあるらしい緑色の帽子から出た猫耳は、よく見ると三毛だった。髪も黒髪の途中でオレンジ色になったりしている。柵にもたれかかってアイスらしきものを食べてるけど、寒い時期なのに元気だな。
「ちょっとおいで! こっちこっち! これ一緒に食べない? ほらー溶けちゃうから早く!」
そう急かされ、慌てて駆け寄った。サシャさんが黒いバッグを開けると、中から暖かい空気がふわんと顔に当たった。ヒーターらしきものはないのに、どうなってるんだろう。
「あったかいでしょ? 寒い時期の必需品。保温魔道具だよーん。はいこれ君の分ね、召し上がれー!」
「あ、え、いただきます……ん!? あったかい!」
形はどう見ても棒つきのアイスクリームなのだ。なのにカップのホットミルクを固形にしたような口当たりと温かさ。甘味が強くてコクがある。謎の食べ物に脳が混乱するが、とても美味しい。
「初めて食べた? 実はおれも初めて! 昨日機関車乗って買ってきたの! 美味しい?」
「凄く美味しいです。あっ、これ高いんじゃないですか? おいくらです?」
「いらないいらない! あ、そうだ、じゃあ代金の代わりにー、お名前聞いていい? どこから来たの? ずっとここで働く予定?」
また矢継ぎ早な質問タイムである。どこから来た、というのは答えにくいので遠いところから、とボカすと彼は『へー、そうなんだー』とあっさり流してくれた。
「ここに来てからまだ一ヶ月経ってないよね? じゃあまだ行ってないとこ沢山あるでしょ。ねえねえ、今日おれと夕飯食べに行かない? 女の子一人で外出るのは危ないから、おれが護衛役やるからさ! ね!」
「えっと…、一人で外に出ちゃいけないのは知ってるんですけど、オルフェくんを護衛にって言われてるんで、彼に許可をとらないと…」
「えー? うーん、そっかあ、じゃあお休みの日っていつ?」
「うちの定休日です。なので、明後日ですけど…」
「じゃあその日にさあ、昼食食べたらこっそりここに来てよ! 内緒でお茶しに行こー! そんで夕飯までには戻ればいいじゃん。カイちゃん全然外出てないでしょ? たまには息抜きしないと疲れちゃうよ! ね!」
「あ、あの、お世話になってる身なんで、あまり勝手なことは出来ないというかしたくなくて、ごめんなさい」
「カイちゃんいい子だねえ! 内緒にするのが辛いんだね。いつも真面目に仕事してるもんね、まだ小さいのに偉いよね! ねえ、ここではいくら貰ってるの? うち手紙の仕分け作業する人募集してるんだけどさ、うちでも住み込みで働けるよ。真面目な人がいいんだよねー。カイちゃんならぴったりだよ! ここで貰ってるお給料から更に上乗せするからさ、うち来ない?」
褒め言葉の連続から、流れるようにスカウト話に切り替えられた。凄い。口が達者。サシャさんこそ営業マンに転職したほうがいいんじゃないだろうか。
「ここにはお給料のためにいるわけじゃなくて、拾ってくださったので…、あの、僕、迷子なんですよね。帰り道がわからなくなっちゃって」
「そうなの? じゃあおれ一緒に探してあげるよ。だったらここから堂々と出して貰えるでしょ?」
「…オルフェくんについてきて貰って、探しはしたんですよね。でも、ダメでした」
「ずっと働く予定って言ってたのはそういうことかー。うーん……あのさ、カイちゃん、オルフェのこと好き?」
「えっ」
ドキッとした。好きか嫌いかと問われると、断然好きだ。嫌いな要素がない。しかしそれが恋愛か親愛かと問われると、悩んでしまう。かっこいいから、優しいから、距離が近いから、…ああいうことをされると変な気分になるからといって、恋愛です、とはなんだかはっきり言えない。
「まだわかんない感じ? あいつモテるからなー。ちょっといいなーって思っちゃうだろうね。わかるよー。でもさー、おれもカイちゃんのこといいなーって思ってるからね。それちゃんと覚えておいてね!」
「え、は、はい……」
「最初見かけたときからすっげー可愛いーって思ってたよ! また話そうね! バイバーイ!」
サシャさんは大きな目をいたずらっぽくニッと細めて笑い、最初会ったときと同じようにガラララと荷車を曳いて行ってしまった。食べかけの謎のアイスクリームじゃないものが、まだほかほかと湯気を出している。そういえばこれは溶けるものだって言ってたな、と慌てて食べながらしばらく考えた。
陽気な人だったなあ。僕は未だに油断すると故郷のことを思い出しちゃって、もう帰れない実感に押しつぶされそうになっちゃうけど、ああいう人と話してるとそのこと自体を忘れちゃうなあ。
陽気キャラ…陽キャ…いいなあ。僕なんて…と、また考えても仕方ないことを考え出してしまった。仕事だ。仕事をしよう。仕事は全てを忘れさせてくれる。
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