人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

文字の大きさ
7 / 68

7 カイくんの噂

しおりを挟む
「母さん、カイの噂がもう広がってる」
「おやまあ。目聡い奴らだねえ。ちょっと庭に出てただけでもう見つかったのかい」

「外に出るたび聞かれるんだよ。あの子は誰だ、どこから来たんだ、どこに住んでるんだとか。近所の爺さん婆さんならまだいいよ。アードルフとサシャまで!」
「あんた、しっかり匂いつけとかないとダメだよ。まだ籍は入れてないんだからさ。ちょっとでも隙を見せれば取られちまうよ」



 ──下に降り辛くなってしまった。

 盗み聞きするつもりは全くなかったが、自分の名前が聞こえてつい聞き耳を立ててしまった。匂い、匂いかあ。あんなにベロベロ舐めまわされて、これ以上どうすればいいんだろう。僕は何かわかりやすい匂いでも発しているんだろうか。人間にも体臭って普通にあるからな。

 オルフェくんが階段を上がってきたので、行き場を失ってしまった。僕はどんな匂いがするのか聞いてみようと思ったら、突然腕を掴まれ部屋に連れ戻された。有無をいわさない感じでびっくりしたが、手の力は優しかった。

「あの、オルフェくん、…どうしたの」
「…どうしても嫌だったら言ってくれ」

 あの、このまま行くと、ベッドなんですけど。……えっ、まさか、そういうことになるの? えっ? 嘘でしょ? 突然過ぎない!? 今、真っ昼間ですが!!

「お、オルフェくん、こういうのはね、好きな女の子と」
「……今は何もしない。じっとしてるだけでいいから。匂いをつけるだけだ。怖くない」

 シャツの釦が外されていくのを呆然と見つめながら、『匂いをつける』行為とは、と必死で考えた。



 実家で飼ってた猫のミケランジェロ。いつも帰ると飛び出してきて、ずっとスリスリと身体をくっつけ、僕に匂いをつけていた。それが終わると鼻を顔にくっつけてくる仕草も止まらなくて、『パパが拾ってきたのに』ってお父さんが拗ねてたっけ。

 同じく飼ってた犬のモモタロス。帰ってくれば大喜びして、散歩に行くたびにも大喜びして、しょっちゅうお腹を見せて撫でろ撫でろと要求されてたっけ。やっぱり『家長に一番懐くはずなのに』と、お父さんが嫉妬していた。

 小学生のときはインコのカラス天狗もいた。インコなのにカラス天狗。お母さんのネーミングセンスは独特だ。放鳥するたびにわざわざ鉛筆を持ってる方の手に飛んできて、求愛ダンスと吐き戻しをプレゼントしてくれてたっけ。

 動物園に遊びに行けば、毎回必ず動物が寄ってくるからベストショットがよく撮れるとお母さんが喜んでいた。イルカのふれあい体験ではみんななんとなくこっちに来ちゃって、他の人が残念そうにしてて、ちょっと気まずかったっけ。

 そう、僕は動物だけにはモテた。人間にはモテるどころか存在をスルーされて、同級生とも友達と言っていいのかわからないほど薄い関係しか築けなかったが、両親と動物だけは僕を愛してくれた。

 匂いがどうだとか、指摘されたことは一度もない。でも今考えたら、何か発しているんじゃないだろうか。動物は鼻がいいからな。でもそれがいい匂いとは限らないぞ。焼き肉の匂いかもしれない。焼き魚の匂いかも。



 多分僕は、現実逃避をしていた。だって大きな男の子が、僕に覆い被さって、怖い目で僕の身体を凝視している。目が据わっていると言えばいいのだろうか、ギラギラと光っている。部屋に連れ戻されたときから、息が荒くなっている気がしていた。距離が近いからそう感じるだけだろうか。

「ひいっ……くすぐったいっ」
「…………大丈夫だから」

 べろん、と大きな舌で首を舐められた。思わず首を竦めると、浮き上がった鎖骨を舌でなぞられた。そのまま胸、お腹へと、少しずつ下がってゆく。

 裏返されてシャツを剥がされ、背中の中心を下から首筋まで、なぞるみたいに舐められた。ゾクゾクとした感覚が背中を駆け上がる。あっ、首を咬まれた、と思ったら唇で食まれているようでゾワゾワが強くなり、反射的に首が上に反ってしまう。

 後ろから胸に手を回され、胸の突起を弄られた。一瞬くすぐったくて身じろぎしたが、耳を舐められた途端急に、以前感じた変な感覚がふつふつと湧いてきた。

 身動きができなくなるような、頭に霞がかかるような、あの感覚だった。



「ふっ……、んっ、あっ、オルフェくん、ちょっと…もういいんじゃ、ないかな、んっ…!」
「……………………」

 無言の否定のあと、さっきより強く腕を掴まれ仰向けに戻される。次は何だと思ったら、勢いよく唇に噛みつかれてドキンと心臓が鳴った。キスだ。キスされている。口の中に何かを突っ込まれている。

 これは舌だ、どうして、何でこんなこと。自分の舌を扱くように舐られ、確認するように歯列を舐められ、口蓋をザラザラと撫でられた途端に変な感じが一気に強まり、腰がビクンと跳ねた。



 キスが始まって何十分と経った気がした。やっと終わったのかと呆然としていたら、カチャカチャという音が下から聞こえた。

 ベルトを外されている。気づいた途端、身体が硬直してしまった。これからどうなる。想像がつかない。きっと痛いのだろう。辛いのだろう。耐えられるか。

 オルフェくんは自身がやったこととはいえ、今後気まずくなってしまうんじゃないか。この家に、お店に居られなくなったらどうしよう。止めたほうがいいんじゃないか。でも。

 拒絶すると、彼は傷つくんじゃないだろうか。



────────────────────
© 2023 清田いい鳥

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...