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7 カイくんの噂
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「母さん、カイの噂がもう広がってる」
「おやまあ。目聡い奴らだねえ。ちょっと庭に出てただけでもう見つかったのかい」
「外に出るたび聞かれるんだよ。あの子は誰だ、どこから来たんだ、どこに住んでるんだとか。近所の爺さん婆さんならまだいいよ。アードルフとサシャまで!」
「あんた、しっかり匂いつけとかないとダメだよ。まだ籍は入れてないんだからさ。ちょっとでも隙を見せれば取られちまうよ」
──下に降り辛くなってしまった。
盗み聞きするつもりは全くなかったが、自分の名前が聞こえてつい聞き耳を立ててしまった。匂い、匂いかあ。あんなにベロベロ舐めまわされて、これ以上どうすればいいんだろう。僕は何かわかりやすい匂いでも発しているんだろうか。人間にも体臭って普通にあるからな。
オルフェくんが階段を上がってきたので、行き場を失ってしまった。僕はどんな匂いがするのか聞いてみようと思ったら、突然腕を掴まれ部屋に連れ戻された。有無をいわさない感じでびっくりしたが、手の力は優しかった。
「あの、オルフェくん、…どうしたの」
「…どうしても嫌だったら言ってくれ」
あの、このまま行くと、ベッドなんですけど。……えっ、まさか、そういうことになるの? えっ? 嘘でしょ? 突然過ぎない!? 今、真っ昼間ですが!!
「お、オルフェくん、こういうのはね、好きな女の子と」
「……今は何もしない。じっとしてるだけでいいから。匂いをつけるだけだ。怖くない」
シャツの釦が外されていくのを呆然と見つめながら、『匂いをつける』行為とは、と必死で考えた。
実家で飼ってた猫のミケランジェロ。いつも帰ると飛び出してきて、ずっとスリスリと身体をくっつけ、僕に匂いをつけていた。それが終わると鼻を顔にくっつけてくる仕草も止まらなくて、『パパが拾ってきたのに』ってお父さんが拗ねてたっけ。
同じく飼ってた犬のモモタロス。帰ってくれば大喜びして、散歩に行くたびにも大喜びして、しょっちゅうお腹を見せて撫でろ撫でろと要求されてたっけ。やっぱり『家長に一番懐くはずなのに』と、お父さんが嫉妬していた。
小学生のときはインコのカラス天狗もいた。インコなのにカラス天狗。お母さんのネーミングセンスは独特だ。放鳥するたびにわざわざ鉛筆を持ってる方の手に飛んできて、求愛ダンスと吐き戻しをプレゼントしてくれてたっけ。
動物園に遊びに行けば、毎回必ず動物が寄ってくるからベストショットがよく撮れるとお母さんが喜んでいた。イルカのふれあい体験ではみんななんとなくこっちに来ちゃって、他の人が残念そうにしてて、ちょっと気まずかったっけ。
そう、僕は動物だけにはモテた。人間にはモテるどころか存在をスルーされて、同級生とも友達と言っていいのかわからないほど薄い関係しか築けなかったが、両親と動物だけは僕を愛してくれた。
匂いがどうだとか、指摘されたことは一度もない。でも今考えたら、何か発しているんじゃないだろうか。動物は鼻がいいからな。でもそれがいい匂いとは限らないぞ。焼き肉の匂いかもしれない。焼き魚の匂いかも。
多分僕は、現実逃避をしていた。だって大きな男の子が、僕に覆い被さって、怖い目で僕の身体を凝視している。目が据わっていると言えばいいのだろうか、ギラギラと光っている。部屋に連れ戻されたときから、息が荒くなっている気がしていた。距離が近いからそう感じるだけだろうか。
「ひいっ……くすぐったいっ」
「…………大丈夫だから」
べろん、と大きな舌で首を舐められた。思わず首を竦めると、浮き上がった鎖骨を舌でなぞられた。そのまま胸、お腹へと、少しずつ下がってゆく。
裏返されてシャツを剥がされ、背中の中心を下から首筋まで、なぞるみたいに舐められた。ゾクゾクとした感覚が背中を駆け上がる。あっ、首を咬まれた、と思ったら唇で食まれているようでゾワゾワが強くなり、反射的に首が上に反ってしまう。
後ろから胸に手を回され、胸の突起を弄られた。一瞬くすぐったくて身じろぎしたが、耳を舐められた途端急に、以前感じた変な感覚がふつふつと湧いてきた。
身動きができなくなるような、頭に霞がかかるような、あの感覚だった。
「ふっ……、んっ、あっ、オルフェくん、ちょっと…もういいんじゃ、ないかな、んっ…!」
「……………………」
無言の否定のあと、さっきより強く腕を掴まれ仰向けに戻される。次は何だと思ったら、勢いよく唇に噛みつかれてドキンと心臓が鳴った。キスだ。キスされている。口の中に何かを突っ込まれている。
これは舌だ、どうして、何でこんなこと。自分の舌を扱くように舐られ、確認するように歯列を舐められ、口蓋をザラザラと撫でられた途端に変な感じが一気に強まり、腰がビクンと跳ねた。
キスが始まって何十分と経った気がした。やっと終わったのかと呆然としていたら、カチャカチャという音が下から聞こえた。
ベルトを外されている。気づいた途端、身体が硬直してしまった。これからどうなる。想像がつかない。きっと痛いのだろう。辛いのだろう。耐えられるか。
オルフェくんは自身がやったこととはいえ、今後気まずくなってしまうんじゃないか。この家に、お店に居られなくなったらどうしよう。止めたほうがいいんじゃないか。でも。
拒絶すると、彼は傷つくんじゃないだろうか。
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© 2023 清田いい鳥
「おやまあ。目聡い奴らだねえ。ちょっと庭に出てただけでもう見つかったのかい」
「外に出るたび聞かれるんだよ。あの子は誰だ、どこから来たんだ、どこに住んでるんだとか。近所の爺さん婆さんならまだいいよ。アードルフとサシャまで!」
「あんた、しっかり匂いつけとかないとダメだよ。まだ籍は入れてないんだからさ。ちょっとでも隙を見せれば取られちまうよ」
──下に降り辛くなってしまった。
盗み聞きするつもりは全くなかったが、自分の名前が聞こえてつい聞き耳を立ててしまった。匂い、匂いかあ。あんなにベロベロ舐めまわされて、これ以上どうすればいいんだろう。僕は何かわかりやすい匂いでも発しているんだろうか。人間にも体臭って普通にあるからな。
オルフェくんが階段を上がってきたので、行き場を失ってしまった。僕はどんな匂いがするのか聞いてみようと思ったら、突然腕を掴まれ部屋に連れ戻された。有無をいわさない感じでびっくりしたが、手の力は優しかった。
「あの、オルフェくん、…どうしたの」
「…どうしても嫌だったら言ってくれ」
あの、このまま行くと、ベッドなんですけど。……えっ、まさか、そういうことになるの? えっ? 嘘でしょ? 突然過ぎない!? 今、真っ昼間ですが!!
「お、オルフェくん、こういうのはね、好きな女の子と」
「……今は何もしない。じっとしてるだけでいいから。匂いをつけるだけだ。怖くない」
シャツの釦が外されていくのを呆然と見つめながら、『匂いをつける』行為とは、と必死で考えた。
実家で飼ってた猫のミケランジェロ。いつも帰ると飛び出してきて、ずっとスリスリと身体をくっつけ、僕に匂いをつけていた。それが終わると鼻を顔にくっつけてくる仕草も止まらなくて、『パパが拾ってきたのに』ってお父さんが拗ねてたっけ。
同じく飼ってた犬のモモタロス。帰ってくれば大喜びして、散歩に行くたびにも大喜びして、しょっちゅうお腹を見せて撫でろ撫でろと要求されてたっけ。やっぱり『家長に一番懐くはずなのに』と、お父さんが嫉妬していた。
小学生のときはインコのカラス天狗もいた。インコなのにカラス天狗。お母さんのネーミングセンスは独特だ。放鳥するたびにわざわざ鉛筆を持ってる方の手に飛んできて、求愛ダンスと吐き戻しをプレゼントしてくれてたっけ。
動物園に遊びに行けば、毎回必ず動物が寄ってくるからベストショットがよく撮れるとお母さんが喜んでいた。イルカのふれあい体験ではみんななんとなくこっちに来ちゃって、他の人が残念そうにしてて、ちょっと気まずかったっけ。
そう、僕は動物だけにはモテた。人間にはモテるどころか存在をスルーされて、同級生とも友達と言っていいのかわからないほど薄い関係しか築けなかったが、両親と動物だけは僕を愛してくれた。
匂いがどうだとか、指摘されたことは一度もない。でも今考えたら、何か発しているんじゃないだろうか。動物は鼻がいいからな。でもそれがいい匂いとは限らないぞ。焼き肉の匂いかもしれない。焼き魚の匂いかも。
多分僕は、現実逃避をしていた。だって大きな男の子が、僕に覆い被さって、怖い目で僕の身体を凝視している。目が据わっていると言えばいいのだろうか、ギラギラと光っている。部屋に連れ戻されたときから、息が荒くなっている気がしていた。距離が近いからそう感じるだけだろうか。
「ひいっ……くすぐったいっ」
「…………大丈夫だから」
べろん、と大きな舌で首を舐められた。思わず首を竦めると、浮き上がった鎖骨を舌でなぞられた。そのまま胸、お腹へと、少しずつ下がってゆく。
裏返されてシャツを剥がされ、背中の中心を下から首筋まで、なぞるみたいに舐められた。ゾクゾクとした感覚が背中を駆け上がる。あっ、首を咬まれた、と思ったら唇で食まれているようでゾワゾワが強くなり、反射的に首が上に反ってしまう。
後ろから胸に手を回され、胸の突起を弄られた。一瞬くすぐったくて身じろぎしたが、耳を舐められた途端急に、以前感じた変な感覚がふつふつと湧いてきた。
身動きができなくなるような、頭に霞がかかるような、あの感覚だった。
「ふっ……、んっ、あっ、オルフェくん、ちょっと…もういいんじゃ、ないかな、んっ…!」
「……………………」
無言の否定のあと、さっきより強く腕を掴まれ仰向けに戻される。次は何だと思ったら、勢いよく唇に噛みつかれてドキンと心臓が鳴った。キスだ。キスされている。口の中に何かを突っ込まれている。
これは舌だ、どうして、何でこんなこと。自分の舌を扱くように舐られ、確認するように歯列を舐められ、口蓋をザラザラと撫でられた途端に変な感じが一気に強まり、腰がビクンと跳ねた。
キスが始まって何十分と経った気がした。やっと終わったのかと呆然としていたら、カチャカチャという音が下から聞こえた。
ベルトを外されている。気づいた途端、身体が硬直してしまった。これからどうなる。想像がつかない。きっと痛いのだろう。辛いのだろう。耐えられるか。
オルフェくんは自身がやったこととはいえ、今後気まずくなってしまうんじゃないか。この家に、お店に居られなくなったらどうしよう。止めたほうがいいんじゃないか。でも。
拒絶すると、彼は傷つくんじゃないだろうか。
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© 2023 清田いい鳥
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