上 下
14 / 68

14 酔った勢い

しおりを挟む
 やってしまった。あまりにも美味しくて、多分飲み過ぎてしまった。あとから聞いた話だが、基本的にお酒に強い人が多いので、飲んだら長湯をするべからずなどの常識がここにはないようだ。どれだけ強いんだ。飲んだ端からアルコール分解酵素が仕事してくれるんだな。

 立ち上がった瞬間膝を折ってドボーンと尻餅をついたらしく、大きな水音に驚いたオルフェくんが駆けつけたそうだ。風邪をひくからと拭いて、運んで、夜着を着せてくれた。もう介護である。年下に迷惑をかけてしまった。

「別にいいさ。ここまで弱いとは知らなかったから油断した。あと、しきりにごめんごめんと言ってたぞ。既に謝ってもらってるからもういい」
「うへぇ…ごめんね、あっ、また言っちゃった」

 グビグビと水を飲みひと心地ついたところで、海を見ながらオルフェくんがお風呂から上がるのを待った。大浴場に行けばいいのに、留守にしている間に何かあったら怖いからと、彼は断固として行かなかった。

 夜の海は、見えないはずの向こう岸に、あたかも街が存在するかのように見えた。チラチラと輝く植物の発光が、夜景のように見える。ないはずなのにある世界。

 僕は本当にここに存在しているんだろうか。現実は脳みそか何かが壊れて、電車から救急搬送されて、病室でチューブを繋がれて息だけしている状態なのではないだろうか。



 自分の勝手な妄想に捕らわれ、急に心細くなってきたとき、後ろから石鹸の香りと一緒に抱きしめられた。

「わ、どうしたの」
「なんか悲しそうにしてたから。そっちこそどうした」

 ずりずりと引き寄せられ、彼の胸に収められた。心音と高い体温。身体に響く声。大きい手、節がくっきりしている。爪の端の皮膚がちょっと切れているささくれ。これが僕の脳が作り上げたバーチャルリアリティだったら、芸術系の仕事に転職できるかもしれないな。

 ぱくっと首筋を食まれた。ぞわりとした感触が、首筋とは関係のない内股や横っ腹から立ち上がる。

「ん……オルフェくん、いつもいきなりだねえ」
「……ごめん」

 ──嘘だあ。全然ごめんって思ってない。だってさっきから、優しいけど好き勝手に動くこの手はなんだ。

「ふふ、悪い手ですねえ。いたずらばっかりして」
「……なんなんだその喋り方は。大人ぶって」

 いや僕大人、と言いかけたがのしかかられ口を塞がれた。自分の様子がいつもと違うのは、自分でもわかっている。なんだろう、開放感?

 いつもと違う場所で、誰も突然入ってこない部屋で。海が見えて視界が広い。遮るものがない。お酒が入っている。あれ、本当に美味しかった。この世のものとは思えなかった。そう、もしかしたらこの世はあの世の世界かもしれない。そう感じたことからの開放感だ。

 故郷はないがしがらみがない。仕事はあるがタイムカードがない。連絡は取れないが、出なきゃいけない電話もない。返信しないといけないメールもない。

「……カイ。かなり酔ってるな」
「酔ってないよお。もう醒めた。…ここに触ってくれない理由ってなに?」

「……触っていいのか。まだ候補だぞ」
「いいよお。見てみる? つまらないものですが」

 オルフェくんの耳がピコピコ動いている。動揺している。耳は逃げ腰なのに視線は僕の下半身を凝視している。僕はどうにも愉悦を感じてしまい、くすくすと笑いながら夜着の前の紐を解いた。

「……天使なんだか悪魔なんだか。おかしくなりそうだ」

 天使と悪魔の概念があるんだ、と思考が別方向へと飛んだ瞬間、強烈な性感が下半身を起点に全身へ広がった。

「あっ!! あ、あ、あっ、オルフェくん、それ汚いよっ」
「…………汚くない、気持ちいいか」

「うう──……っ、あ、気持ち、いいけど、いいけど、ダメっ……はっ、あっ!!」
「…………慎ましいな。食べやすい」

 まさか突然口でされるなんて思ってもみなかった。人にこうされることが今まで一度もなかった僕はすぐ頭が真っ白になり、あっという間にイッてしまった。

 あと、自分で言うのもなんですけど、普通だと思います。普通。大きくもないけど小さくもな……ハッ、まさかオルフェくんのって、そうかお馬さんだから!!

 息を切らしながらもやっと酔いが醒めてきて、なぜ強者である彼を煽ってしまったのかと途方に暮れていたが、また突然快感の海に頭から沈められて正気を失いかけた。
 いつの間にか全て脱がされている。そして脚を内側に持ち上げられ、何かぬるぬるとした太いものを股間に挟まれている。重量を感じるが、これって、アレですか。陰茎というより棍棒では。

「お、おるふぇくん、いれちゃうの? はいらないよ、はいらないよう」
「はっ……やめてくれ、その声…背徳感がすごい…」

 そのまま腰を打ちつけられ、視界が揺れた。陰茎の裏を硬いもので何度も擦られる快感がどんどん上り詰めてゆく。一番弱いところを犯され、肌を打ちつける音、クチュクチュと卑猥な音で耳まで犯される。しつこいくらいに続く快感に、恥ずかしいという思考を差し込む余地はまるでなかった。

「あっ、はっ…!! おるふぇくんっ…!!」

 またすぐに達してしまった。興奮し過ぎてクラクラする。酸素が足りない。喉もカラカラだ。水分も足りない。全力疾走した後のように喉が焼けている。お酒を飲んだあとにしていいことだっただろうか。

 僕を潰さないように身体を腕で支えつつ、オルフェくんが荒い息を吐いている。大丈夫かな。彼の方が沢山飲んでたけど。

「はあ…っ、俺、こんな小さい子に、どうしよう、なんてことを……!」

 ──突然の反省タイムである。

「ふっ…! ちょ、言い方…! 合法、適法だから」
「ああ──……でも、こんなちっちゃい子に俺は……!」

「もー、だからー」

 さっきの荒々しさは何だったんだというくらいにオルフェくんは耳をふらふらとさせ、顔を覆って反省していた。別人になった彼をひたすら宥める流れである。僕の方が何か悪いことをしたみたいな気持ちになってくるじゃないか。

 あっ、よく見たら尻尾がない。耳だけなんだ。神様は尻尾をつけたんじゃなかったっけ。

 ねえねえ尻尾はなんでなくなったの、と思いっきり話を逸らしながらバスルームまでオルフェくんを引っ張っていき、そのあとはすぐ眠った。眠っている彼はあどけない子供のような顔をしていて、うわあ、背徳感とか罪悪感ってこんな感じかあ、と今更になって彼に共感した。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

本編完結R18)メイドは王子に喰い尽くされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:3,522

二度目の人生ゆったりと⁇

BL / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:3,609

【完結】夏フェスは、恋の匂い。

N2O
BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:47

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:17,423pt お気に入り:10,476

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

BL / 完結 24h.ポイント:2,548pt お気に入り:2,147

あやかし百鬼夜行

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:381

処理中です...