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20 飛馬のアーリー号
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守衛地という響きから大きな警察署や小さな交番をイメージしていたが、実際はレトロモダンな白い壁と黒の格子窓が嵌まった、わりとゆったりした大きめの建物だった。裏に飛馬が控えているらしく、茶色い馬房のような建物が見えている。
中にいた衛兵さんにご挨拶をし、マウラさんから聞いた話をしてみたらご本人だという。これ幸いと彼は呼び出し用のベルを用意し、裏の建物へと連れて行ってくれた。
僕の予想は半分裏切られた。馬の身体に翼、というところまでは合っていた。しかし頭や尻尾はまるで鳥のようだった。
嘴が鋼色だ。鶏冠は深紅。睫毛の長い大きな瞳は真っ黒で、お馬さんと同じである。胴体や四脚は綿のようにふわふわな羽毛で覆われ、青みがかった濃い灰色。翼と尾羽は、胴体と同じ淡い灰色と白の羽根が混ざっている。
なんとも優美。絵になる魔獣だ。しばらくぼんやり見とれてしまった。
「アーリー号。アーちゃん。マウラさんとこの息子さんとお嬢さんが来てくれたよ。アーちゃーん!」
さっきから衛兵さんが一生懸命話しかけているのだが、アーリー号は僕の方しか向いていない。お馬さんは目の位置的に真正面が見にくいはずなのだが、五感で見ているのか真っ直ぐ嘴と目をこちらに向けている。あ、喋り始めた。
『ねえ聞いてー。うるさいんだよねこの人。ワタシが休みたいときでもさあ、ちょっと仕事が暇になるとアーちゃんアーちゃんってベタベタしてくるのがちょーウザイ。それに毛繕いとかそんなに要らないんだけど』
──めちゃくちゃ文句を言っている。
うんうん、それは嫌だったね、そうなんだ要らないんだねと話を聞いている僕を見る衛兵さんは、嘘だろ、何が起こっている、という顔をしている。それは僕にもわかんないよ。でもわかるんだよ。
『その毛繕いもさあー。力強すぎなんだよねー。羽毛禿げるっつーの。嘴で痒いところを教えてるのに全然気づかないしさー、なのにいっつも脚の毛繕いは忘れるし、ほんっと気が利かない』
「あのー……、毛繕いのときの力が強すぎるそうです。嘴で痒いところを指してるから察して欲しいと。あと脚の毛繕いは忘れないでと」
──衛兵さんはハッとした顔をしている。心当たりがあるんだな。
『あとさー、何かするときはまず声かけるのが常識だよねー。言ってから行動でしょ。声がけと行動が同時すぎるんだよね。イラッとする』
「あの、声がけを先に、行動は後にしろと……」
──衛兵さんの目が泳ぎ始めてしまった。可哀想だが伝えないことには始まらない。
『何回も言ってるんだよねー。アタシ人間語わかんないからムカついたときは翼でエイってやるんだけど、何度倒されても立ち向かってくるとこウザイ。総合評価で言うとウザイ』
「…………あの、翼で叩いたときは、しばらくほっといて欲しいと」
──衛兵さんの膝が折れた。まずこちらをそっとしておいた方が良さそうだ。
『そんなことよりさあ。ねえお坊ちゃん、あなたすっごく可愛いね。お名前はなんていうの? 彼氏とか彼女はいるの? 候補? 決まってないってことね! じゃあアタシと付き合ってよ。卵産めなくてもいいからさあ。アタシとイイコトしなーい?』
どうしよう。アーリー号に誘われてしまった。どうお断りしようか困惑していたら、『断って』と嫌そうな顔をしたオルフェくんが言った。そりゃ断るけどさ、何故この会話だけピンポイントでわかるのだ。
『アタシなんでもしてあげるよ?火山の 火口まで飛べっていうなら飛んで行くし、川を渡れっていうなら強風が来てても渡るよー?』
「そんな無茶はさせられないよ。アーリーさんのお仕事は悪い人を捕まえたり、困った人を助けることでしょ? 今まで通り仕事のときは頑張ってお勤めして欲しい。できる?」
『うーん……、カイが言うなら頑張るよー。こいつがムカつくのは変わりないけどさあ。仕事だもんね。お仕事頑張る魔獣は好き?』
「うん、好きだよ」
『ふふふ、じゃあ頑張る。こいつはムカつくけど』
ムカつくんだ。よっぽど腹に据えかねてるんだな。僕を見る目と衛兵さんを見る目に温度差がある気がする。あと好きだよって言った瞬間、馬耳の人の気配が怖くなったんだけど。あなたが思うような会話じゃないです。どうどう。
『頑張るからなでなでしてー』と言うアーリー号を撫でたらゴロンと横になり、『お腹もー』と更に催促された。このくらいかな、と撫でたらうっとりした顔をしてくれたのは良かったが、ちょっと復活した衛兵さんに血走った目で見られた。いやそんな…嫉妬されましても。
『ちょっと乗ってみないー?』と言われたので衛兵さんに伝えたら、『いいっスよ……ちょっとなら……』と拗ねた口調でぼそりと言いつつ鞍の準備をしてくれた。……なんか色々すみません。
ああしろこうしろとアーリー号が教えてくれるからその通りにしていたら、見ていた衛兵さんとオルフェくんが上手だ、初めてとは思えないと誉めてくれた。当の魔獣の直伝ですから。ついでにアーリー号はこういうのは良くない、とダメな例も教えてくれた。勉強になった。
協力関係で、こうやってコミュニケーションが取れるのって凄くいいなあ。犬や猫の気持ちがわかる機械ってのがあったけど、魔獣専用のマジュリンガルみたいなのがあったらみんな助かるんじゃないかなあ。
ん? もしかして、こういう喋れない魔獣とのコミュニケーションに困ってる人って、沢山いたりする?
僕は組織の中にいたい方だ。自分で起業するようなタイプでは絶対ない。でも、この謎の能力がめったにないものなら、仕事におけるブルーオーシャン。未開の地。
故郷で低賃金の仕事にしがみついていた僕でも、ここでは稼げるかもしれない。
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© 2023 清田いい鳥
中にいた衛兵さんにご挨拶をし、マウラさんから聞いた話をしてみたらご本人だという。これ幸いと彼は呼び出し用のベルを用意し、裏の建物へと連れて行ってくれた。
僕の予想は半分裏切られた。馬の身体に翼、というところまでは合っていた。しかし頭や尻尾はまるで鳥のようだった。
嘴が鋼色だ。鶏冠は深紅。睫毛の長い大きな瞳は真っ黒で、お馬さんと同じである。胴体や四脚は綿のようにふわふわな羽毛で覆われ、青みがかった濃い灰色。翼と尾羽は、胴体と同じ淡い灰色と白の羽根が混ざっている。
なんとも優美。絵になる魔獣だ。しばらくぼんやり見とれてしまった。
「アーリー号。アーちゃん。マウラさんとこの息子さんとお嬢さんが来てくれたよ。アーちゃーん!」
さっきから衛兵さんが一生懸命話しかけているのだが、アーリー号は僕の方しか向いていない。お馬さんは目の位置的に真正面が見にくいはずなのだが、五感で見ているのか真っ直ぐ嘴と目をこちらに向けている。あ、喋り始めた。
『ねえ聞いてー。うるさいんだよねこの人。ワタシが休みたいときでもさあ、ちょっと仕事が暇になるとアーちゃんアーちゃんってベタベタしてくるのがちょーウザイ。それに毛繕いとかそんなに要らないんだけど』
──めちゃくちゃ文句を言っている。
うんうん、それは嫌だったね、そうなんだ要らないんだねと話を聞いている僕を見る衛兵さんは、嘘だろ、何が起こっている、という顔をしている。それは僕にもわかんないよ。でもわかるんだよ。
『その毛繕いもさあー。力強すぎなんだよねー。羽毛禿げるっつーの。嘴で痒いところを教えてるのに全然気づかないしさー、なのにいっつも脚の毛繕いは忘れるし、ほんっと気が利かない』
「あのー……、毛繕いのときの力が強すぎるそうです。嘴で痒いところを指してるから察して欲しいと。あと脚の毛繕いは忘れないでと」
──衛兵さんはハッとした顔をしている。心当たりがあるんだな。
『あとさー、何かするときはまず声かけるのが常識だよねー。言ってから行動でしょ。声がけと行動が同時すぎるんだよね。イラッとする』
「あの、声がけを先に、行動は後にしろと……」
──衛兵さんの目が泳ぎ始めてしまった。可哀想だが伝えないことには始まらない。
『何回も言ってるんだよねー。アタシ人間語わかんないからムカついたときは翼でエイってやるんだけど、何度倒されても立ち向かってくるとこウザイ。総合評価で言うとウザイ』
「…………あの、翼で叩いたときは、しばらくほっといて欲しいと」
──衛兵さんの膝が折れた。まずこちらをそっとしておいた方が良さそうだ。
『そんなことよりさあ。ねえお坊ちゃん、あなたすっごく可愛いね。お名前はなんていうの? 彼氏とか彼女はいるの? 候補? 決まってないってことね! じゃあアタシと付き合ってよ。卵産めなくてもいいからさあ。アタシとイイコトしなーい?』
どうしよう。アーリー号に誘われてしまった。どうお断りしようか困惑していたら、『断って』と嫌そうな顔をしたオルフェくんが言った。そりゃ断るけどさ、何故この会話だけピンポイントでわかるのだ。
『アタシなんでもしてあげるよ?火山の 火口まで飛べっていうなら飛んで行くし、川を渡れっていうなら強風が来てても渡るよー?』
「そんな無茶はさせられないよ。アーリーさんのお仕事は悪い人を捕まえたり、困った人を助けることでしょ? 今まで通り仕事のときは頑張ってお勤めして欲しい。できる?」
『うーん……、カイが言うなら頑張るよー。こいつがムカつくのは変わりないけどさあ。仕事だもんね。お仕事頑張る魔獣は好き?』
「うん、好きだよ」
『ふふふ、じゃあ頑張る。こいつはムカつくけど』
ムカつくんだ。よっぽど腹に据えかねてるんだな。僕を見る目と衛兵さんを見る目に温度差がある気がする。あと好きだよって言った瞬間、馬耳の人の気配が怖くなったんだけど。あなたが思うような会話じゃないです。どうどう。
『頑張るからなでなでしてー』と言うアーリー号を撫でたらゴロンと横になり、『お腹もー』と更に催促された。このくらいかな、と撫でたらうっとりした顔をしてくれたのは良かったが、ちょっと復活した衛兵さんに血走った目で見られた。いやそんな…嫉妬されましても。
『ちょっと乗ってみないー?』と言われたので衛兵さんに伝えたら、『いいっスよ……ちょっとなら……』と拗ねた口調でぼそりと言いつつ鞍の準備をしてくれた。……なんか色々すみません。
ああしろこうしろとアーリー号が教えてくれるからその通りにしていたら、見ていた衛兵さんとオルフェくんが上手だ、初めてとは思えないと誉めてくれた。当の魔獣の直伝ですから。ついでにアーリー号はこういうのは良くない、とダメな例も教えてくれた。勉強になった。
協力関係で、こうやってコミュニケーションが取れるのって凄くいいなあ。犬や猫の気持ちがわかる機械ってのがあったけど、魔獣専用のマジュリンガルみたいなのがあったらみんな助かるんじゃないかなあ。
ん? もしかして、こういう喋れない魔獣とのコミュニケーションに困ってる人って、沢山いたりする?
僕は組織の中にいたい方だ。自分で起業するようなタイプでは絶対ない。でも、この謎の能力がめったにないものなら、仕事におけるブルーオーシャン。未開の地。
故郷で低賃金の仕事にしがみついていた僕でも、ここでは稼げるかもしれない。
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