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23 清廉樹祭2
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アードルフさんからは高そうな耳飾りを頂いてしまった。指紋をつけるのが怖すぎてタンスの肥やしになっている。サシャさんからは前に貰った暖かいアイスクリームという謎お菓子全種。消えものは有り難いと思ったが、みんなで飽きるほど食べてもまだあった。ふわふわ耳のお子さんからは綺麗な花の鉢植えを。前よりグレードアップしてて本気を感じる。親御さんの持ち出しだよね…? 温アイスをお裾分けした。
元漁師のおじさんは指輪をくれたけど、アードルフさんの贈り物の件で学んだ僕はその場で開封して中身を確認し、本当に困ってお返ししてしまった。お花屋さんの娘さんは明らかに高価な薔薇の花束。なんとかエリザベートってやつ。マウラさんに価格を聞いたら目玉が飛び出た。
あとはお財布とか、時計とか。ぬいぐるみを貰ったときはオルフェくんが刃物を持ち出したので、慌ててわけを聞くと『魔道具が入っているかもしれない。音を集めて遠くでも聞けるようにするやつ』と言われて戦慄し、とりあえずみんなで触って確認後、現在お店に鎮座している。ちょっとヨレヨレになった。
本当の芸能人ってどうしてるんだろう。毎月こうなんじゃないだろうか。寄付できないものは棄てたりするのかな。手作りチョコレートなんかは何が入ってるかわからないから、安全のために破棄するらしいけど。
──────
「…あんたがカイくんに匂いをつけてるから、みんな絶対柵から内に入ってこないじゃないか。焦んなくて大丈夫だよお。それに庭にまで出られなくなったら日に当たれなくなっちまう。仕方ないよお、人気者は」
「でも母さん、いつか俺より強い奴に拐かされやしないか心配なんだ。だから無理やりにでも籍を入れた方がいいんじゃねえかって」
「ここいらにあんたより強い奴はいないけどねえ。暴れ馬の名は伊達じゃない。だが確かに、遠くから噂を聞きつけてきた知らない奴が来たら厄介だ。結婚の話はひとまずあたしが交渉しよう」
「頼む。今後カイが庭に出るときは俺がついてくことにする」
──また下に降りづらい会話を聞いてしまった。
明日が清廉樹祭の当日だ。マウラさんが『気合いを入れていくよ!!』と張り切っていたが、僕も覚悟を決めた。一日署長ならぬ一日芸能人だ。にっこり微笑み、ありがとうとごめんなさいをしっかり言う。
僕は今、自分で自分の身を守れない。かといって自立する前に婚姻で守ってもらうのは、やはり違うと思うのだ。僕はきっと頭が固い。求められるうちが華かもしれない。でも、しっかりお断りして、次に進みたいのだ。それができたら真剣に考えたいとマウラさんにはお伝えした。
護身の方法自体は休みの日にオルフェくんに付き合ってもらい、自分で調べた。ベテルギウス図書館で魔道具に関する本を読みあさったのだ。収納魔道具が持ち主の思考や感情を読んでいるのでは、という考えは正解だった。それと同じように、危ないと思ったときに触れると発動させられる魔道具の存在を知った。
オルフェくんが『これはいくつか手に入れられるかもしれない。国の補助が下りそうだ』と言った。そこで僕はマウラさんにお願いして、どうしても返させてくれなかったお給料を無理やりお返しし、取り寄せて貰っている。衣食住を提供していただいているのだ。これ以上は望まない。
お祭りが終わったら魔道具を装備して、仕事を探しに行く。オルフェくんは護衛役をやると言ってくれているが、僕の提供できる仕事はおそらく出張が必要になる部類のことだ。いつまでも頼っていられない。
これから僕が頑張るのは、一日芸能人だけじゃない。僕自身に力をつけるための、所謂、就職活動だ。
──────
「マウラさん、あの…これ本当に大丈夫なやつですか…」
「過去一番可愛いね。間違いない。なあオルフェ、あんたの嫁さん可愛いだろ!」
「……うん、最高すぎて心配になってきた」
鏡の前には一応成人したはずの男が、ドレスめいたものを着ている。…正気か?
アンダーのワンピースはごくシンプルなブルーグレー。その上に重ねるようにして、何て言えばいいんだこれ、なんか半透明の薄手の生地が何カ所もドレープを寄せて重なっている。そこにお花の刺繍がたっぷり施されている。赤、ピンク、白と茎や葉の緑。どこから見ても可愛くて意匠が凝っている。生花を纏ったようなワンピースドレスだ。
ヘッドドレスも馬鹿みたいに、いや馬鹿って言っちゃいけないんだけど、アホみたいに凝っていた。ブルーグレーのドレスの生地に合わせた色の、ほとんどお花のブーケである。
極めつけは、なんとオルフェくん以外にも護衛がつく。以前お邪魔した守衛地の衛兵さんと、アーリー号が来てくれるのだ。いやいやそこまで!? と思ったが、マテウスさんが『人が集まるようならどうせ呼ぶことになるから、お願いするだけしてみよう』と守衛地に連絡を入れてしまい、なんと了承してくれたのだ。
『混雑しそうなところに衛兵は行くし、元々応援が来るから人員は問題ないし、大丈夫そうなら移動するからいいよ!』と以前のショックを乗り越え元気が出たらしい衛兵さんが数日前、挨拶に来てくれた。
「なんかもう、オールスターすぎて結婚式みたい」
「…誰とするんだよ。他の奴と結婚なんてさせないからな。ずっとこの家に居てもらうから!」
色々ありすぎたし、今後やることも情報量も多過ぎる。ぼんやりした頭でこう呟いたら、オルフェくんに両肩を持たれてガクガク揺すられ言い聞かされた。娘を嫁に出したくないお父さんみたいだ。
「…なんかお父さんみたい…」
「違う! 絶対違う! 男として見てくれお願いだから!!」
「…じゃあお兄ちゃん…」
「お兄……ちょっといい…? いやいや、…でも…いやダメだ! ダメだって俺!」
──僕は今、何も聞かなかった。何も見なかったぞ。
────────────────────
© 2023 清田いい鳥
元漁師のおじさんは指輪をくれたけど、アードルフさんの贈り物の件で学んだ僕はその場で開封して中身を確認し、本当に困ってお返ししてしまった。お花屋さんの娘さんは明らかに高価な薔薇の花束。なんとかエリザベートってやつ。マウラさんに価格を聞いたら目玉が飛び出た。
あとはお財布とか、時計とか。ぬいぐるみを貰ったときはオルフェくんが刃物を持ち出したので、慌ててわけを聞くと『魔道具が入っているかもしれない。音を集めて遠くでも聞けるようにするやつ』と言われて戦慄し、とりあえずみんなで触って確認後、現在お店に鎮座している。ちょっとヨレヨレになった。
本当の芸能人ってどうしてるんだろう。毎月こうなんじゃないだろうか。寄付できないものは棄てたりするのかな。手作りチョコレートなんかは何が入ってるかわからないから、安全のために破棄するらしいけど。
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「…あんたがカイくんに匂いをつけてるから、みんな絶対柵から内に入ってこないじゃないか。焦んなくて大丈夫だよお。それに庭にまで出られなくなったら日に当たれなくなっちまう。仕方ないよお、人気者は」
「でも母さん、いつか俺より強い奴に拐かされやしないか心配なんだ。だから無理やりにでも籍を入れた方がいいんじゃねえかって」
「ここいらにあんたより強い奴はいないけどねえ。暴れ馬の名は伊達じゃない。だが確かに、遠くから噂を聞きつけてきた知らない奴が来たら厄介だ。結婚の話はひとまずあたしが交渉しよう」
「頼む。今後カイが庭に出るときは俺がついてくことにする」
──また下に降りづらい会話を聞いてしまった。
明日が清廉樹祭の当日だ。マウラさんが『気合いを入れていくよ!!』と張り切っていたが、僕も覚悟を決めた。一日署長ならぬ一日芸能人だ。にっこり微笑み、ありがとうとごめんなさいをしっかり言う。
僕は今、自分で自分の身を守れない。かといって自立する前に婚姻で守ってもらうのは、やはり違うと思うのだ。僕はきっと頭が固い。求められるうちが華かもしれない。でも、しっかりお断りして、次に進みたいのだ。それができたら真剣に考えたいとマウラさんにはお伝えした。
護身の方法自体は休みの日にオルフェくんに付き合ってもらい、自分で調べた。ベテルギウス図書館で魔道具に関する本を読みあさったのだ。収納魔道具が持ち主の思考や感情を読んでいるのでは、という考えは正解だった。それと同じように、危ないと思ったときに触れると発動させられる魔道具の存在を知った。
オルフェくんが『これはいくつか手に入れられるかもしれない。国の補助が下りそうだ』と言った。そこで僕はマウラさんにお願いして、どうしても返させてくれなかったお給料を無理やりお返しし、取り寄せて貰っている。衣食住を提供していただいているのだ。これ以上は望まない。
お祭りが終わったら魔道具を装備して、仕事を探しに行く。オルフェくんは護衛役をやると言ってくれているが、僕の提供できる仕事はおそらく出張が必要になる部類のことだ。いつまでも頼っていられない。
これから僕が頑張るのは、一日芸能人だけじゃない。僕自身に力をつけるための、所謂、就職活動だ。
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「マウラさん、あの…これ本当に大丈夫なやつですか…」
「過去一番可愛いね。間違いない。なあオルフェ、あんたの嫁さん可愛いだろ!」
「……うん、最高すぎて心配になってきた」
鏡の前には一応成人したはずの男が、ドレスめいたものを着ている。…正気か?
アンダーのワンピースはごくシンプルなブルーグレー。その上に重ねるようにして、何て言えばいいんだこれ、なんか半透明の薄手の生地が何カ所もドレープを寄せて重なっている。そこにお花の刺繍がたっぷり施されている。赤、ピンク、白と茎や葉の緑。どこから見ても可愛くて意匠が凝っている。生花を纏ったようなワンピースドレスだ。
ヘッドドレスも馬鹿みたいに、いや馬鹿って言っちゃいけないんだけど、アホみたいに凝っていた。ブルーグレーのドレスの生地に合わせた色の、ほとんどお花のブーケである。
極めつけは、なんとオルフェくん以外にも護衛がつく。以前お邪魔した守衛地の衛兵さんと、アーリー号が来てくれるのだ。いやいやそこまで!? と思ったが、マテウスさんが『人が集まるようならどうせ呼ぶことになるから、お願いするだけしてみよう』と守衛地に連絡を入れてしまい、なんと了承してくれたのだ。
『混雑しそうなところに衛兵は行くし、元々応援が来るから人員は問題ないし、大丈夫そうなら移動するからいいよ!』と以前のショックを乗り越え元気が出たらしい衛兵さんが数日前、挨拶に来てくれた。
「なんかもう、オールスターすぎて結婚式みたい」
「…誰とするんだよ。他の奴と結婚なんてさせないからな。ずっとこの家に居てもらうから!」
色々ありすぎたし、今後やることも情報量も多過ぎる。ぼんやりした頭でこう呟いたら、オルフェくんに両肩を持たれてガクガク揺すられ言い聞かされた。娘を嫁に出したくないお父さんみたいだ。
「…なんかお父さんみたい…」
「違う! 絶対違う! 男として見てくれお願いだから!!」
「…じゃあお兄ちゃん…」
「お兄……ちょっといい…? いやいや、…でも…いやダメだ! ダメだって俺!」
──僕は今、何も聞かなかった。何も見なかったぞ。
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© 2023 清田いい鳥
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