人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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22 清廉樹祭1

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 帰ってから庭に出ると、やはり洗濯物の一部が生乾きになっていた。ロープは干す場所が足りなくなったらどこにでも張れるところが便利だけど、偏りやすいのが難点だな。

 張りが足りないのかなとグイグイ引っ張っていると、洗濯物の奥に人影が見えた。誰……やば、ラグーさんだ!!

「待て。そっちに入ったりしない。だから静かにしてくれ」

 思わず警戒して身じろぎしたが、前とは何だか気配というか雰囲気が違う。何だろう。反省したのかな。手招きをしている。洗濯物に阻まれないよう、退路を確認してからそろそろと近づいてみた。

「月末、清廉樹祭がある。お前は行くのか」

 清廉樹祭。マウラさんとネズミのおばちゃんたちに聞いていた。暦の上ではもう春なので、冬を乗り越えたお祝いと、冬の間に溜め込んだ悪いものを一掃するためのお祭りだ。

 清廉樹は空気を綺麗にする効果がある植物として有名で、その清廉樹に飾りを施して街のあちこちに置かれる中、屋台が出たり歌姫さんが来て、歌を披露してくれる。

「観光のお客様が来るので、行けたらって感じですかね…。ラグーさんは行くんですか?」
「行かないがここには来る。時間は取れるか。俺が歌うから聴いて欲しい」

「え!? 歌う!? ラグーさんが!?」
「今言ったばかりだろうが。俺が、お前に、歌うんだよ」

 自分と僕を指差しながら彼は言った。そう、このお祭りにはもう一つのイベントがある。

 街に来る歌姫さんが歌う曲は、地域の獣人なら大体歌える定番曲だそうだ。子供の頃から練習するその曲は、この日に披露するためのもの。意中の人の前に立ち、歌って、愛の告白をするのだ。

 歌い切ったあとに告白やプロポーズで締めるのが定番の流れである。お祭りの間は、聴かされる側も最後までしっかり聴くのがマナー。断られても相手を変えて何度も歌いに行く猛者もいるそうだ。

 それを。やるんですかあなたが。この極めてロマンチックなイベントを。僕に歌うってのもびっくりだけど、他の人に歌うって聞いてもびっくりだったと思う。だってそういうの、嫌がったり無視してそうなイメージしかなかったよ。

 でもやるぞと言われたら、ああやってみろと返すのがこのお祭りのマナーなのだ。よし。気合いを入れるぞ。

「上等です。その挑戦、お受けいたしましょう」
「決闘の申し込みじゃねえんだけど…」

 前に腕を捕まれたことは忘れていない。僕はなんだか燃えてきて、思わずニヤッと笑ってしまった。ラグーさんは突然目を泳がせ始めた。なんだよ、もう敗色濃厚じゃないですかラグーさん。

「…それ、もっと太いロープを使うといい。ハサミに太さが合ってない」 
「えっ」

「あと、干すと長いものと短いものを交互に配置するか、こうやってアーチ状になるよう干すといい」
「えっ、はい、交互か、アーチ状…」

 僕が洗濯物の方を見つめている間にラグーさんは去っていったようで、とりあえずお礼を言おうと振り返ったらもういなかった。

 突然歌うなんて言ってきたと思ったら家事のワンポイントアドバイスをしてきたり、彼のキャラが読めない。前にマウラさんが言っていた『養い親の爺さんの面倒を見る優しさはあるんだけどねえ』という一言。これは彼の優しさだったのだろうか。



 清廉祭の定番曲。歌詞の一部内容はこうだ。

 この広い世界の空の下 あなたと同じ時のもと
 そのえもいわれぬほど幸福な あなたの香りかぐわしき
 爪を立てぬと約束しよう この手はあなたを包むもの
 牙を立てぬと約束しよう 強さはあなたを守るもの

 あなたはいい匂いですね、お守りしますからお付き合いしてください、というところから歌は始まる。しかしここから徐々に『あなたの声を聴かせてほしい』など、懇願の意味合いが強い歌詞になっていく。黙って聴いてくれるのも嬉しいけど、できればハモってくれない? という意味だ。

 なぜなら、聴く側が早々にオッケーしたいときは歌に合わせてハモるのがこれまた定番の流れでマナーだからだ。人前で歌って告白するのもハードルが高いのに、ハモりを入れるとは難易度が上がり過ぎてやいないか。マウラさんにそう言ったら『ははは! そんな繊細な獣人はいないよお』と言っていた。

 一応メインのメロディーラインとハーモニーラインのどちらも暇ができたときに教えてくれていた。僕のか細くて聞こえにくい声も、『天使の歌声だねえ!』と褒めてくれた。大いに照れた。



 ──────



 この頃から庭に出ると、必ず誰かが待ち構えている日が増えた。というか毎日だ。

 清廉樹祭は行くのか。歌うから聴いてくれ。アードルフさんも来たし、サシャさんも来た。あと前に野花をくれたふわふわ耳の小さい子、奥さんと死別した元漁師のおじさん、お花屋さんの娘さん。お菓子屋さんの息子さん、大きい宿屋の息子さん。きりがない。

 気持ちは有り難いんだ。有り難い。前の僕じゃ考えられない。芸能人になった気分だよ。でもね、聴くのを断れないってどうなんだろう。…耐えられるか?

 にっこり笑ってありがとう、でもごめんなさいを何回も繰り返すところを想像したら辛くなってきた。だってみんな、何かしら贈り物を持ってきて僕にお願いするんだ。

 ただ世間話をするだけなら、敷地内で自由にできたし、僕に匂いをつけている張本人のオルフェくんも落ち着いていた。しかし清廉樹祭が近づくにつれて、雲行きがおかしくなってきた。


────────────────────
本当にこういうイベントがあるんです。扉や窓の前で歌って、出てきてくれたらOK。TVで見たお兄さんはお相手が出てきてくれなくて、二度歌って成功させておりました。

そのしつこさ嫌いじゃない、と思われたお嬢さんはお気に入り登録お願いしまーす!

© 2023 清田いい鳥
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