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30 王子様の社長面接2
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「そう、本来なら直接会ったりはしない。私はこれでも忙しくてね。のんびりお茶する暇もあまりなかったりする」
「そうなんですね。でも古代魔力? というものはそれほど珍しいものなのでしょうか」
「古代魔力は魔道具に流しても、モノによって壊れたり発動しなかったりするからちょっと不便というくらいかな。それより魔獣と話せるって本当?」
「あ、そちらですか、はい。みんな元気に話しかけてきます」
これまでどのような魔獣とどんな話をしたのか、ベテルギウスの治療魔術師さんと同じことを聞かれたので同じように話した。一回話した内容なので自分でも話し方が洗練されてきたなと感じる。この話は僕の十八番になりそうだ。
「ふふ…っ! ウザイ…!!」
魔術師さんと同じところでツボに入った王子様は、しばらく顔を覆って笑いをかみ殺していた。横でオルフェくんも震えながら静かに笑っている。君は一度聞いたじゃないか。この固めのクッキーみたいなやつ、ピンクの粒々がシャリシャリして美味しいな。お茶とよく合う。
笑いすぎて最早泣いている王子様は、ハンカチを取り出し涙を拭きながら言った。
「ああ面白かった。うちの直営である魔獣調教の厩はね、数カ所ある。君はどこがいい?」
「ベテルギウスの厩がいいんですが、あの、調べたところによると…」
僕は数日前、図書館で調教師と厩の仕事について調べた。調教師は基本的に住み込みでの仕事になるのだ。人と魔獣のコミュニケーション代行、通訳の仕事をなんとなくで想定していた僕は、通えないのはちょっと、と迷いはじめてしまったのだ。
「いや、大丈夫。君は特別枠になる。全国の厩を回って、飛馬の相談役になること。人と魔獣の通訳の仕事だよ。ひと月、王都の厩で調教師の仕事を一通り覚えてもらい、仕事の足になる飛馬を選んで持って行ってもらおう。連絡専用の通信魔道具も支給するよ。どう?」
やはり面接のようだ。王子様が直々に労働条件なんかを提示してくるとは。…いや、多分、直々にお願いすることによって断られないようにしている気がする。あと好奇心。彼の紫色の瞳は、さっきからやけにキラキラとした輝きを増しているもんな。せっかく来たんだ。お受けしようかと思っていると、黙っていたオルフェくんが呟くように言葉を零した。
「え……? 飛馬を?」
「そうだよ。なかなかいい条件だろう?」
お馬さんが高価なのは僕でもわかる。でも王子様の言い方は、今度産まれる子猫ちゃん一匹どう? くらいの軽いものだったので、気がつかなかった。飛馬の本体価格。
「えっ!? 高あ!! い、い、頂けません!!」
「支給だよ支給。まあでも飛馬が懐いてここに帰りたがらなくなっちゃうかもしれないけどね。そしたらあげるからさ、試しにこの仕事やってみなよ。ねっ」
あげるからさ、じゃないよ王子様。国家予算を扱う側からしたら端金かもしれないけど。僕みたいな小市民は心臓が保たないよ。まだドキドキ鳴っている胸を押さえていると、王子様はトドメを刺すように労働条件を文章に起こした紙を出してきた。契約書である。
「基本給、依頼達成手当て、魔獣食事手当て、時間外対応手当て、別途厩舎補修費用は都度申請…」
「一度出張したら基本的に二日は休みになる。しかし急を要する事態も想定して、緊急招集があったときのために時間外手当てがつく。今まで通訳できる人なんていなかったから、本音を言うとこれは急遽作ったものなんだ。安すぎるかな? 正直に言ってもらって構わないよ」
「いえ…その……」
「僭越ながら、私の意見を申し上げても宜しいでしょうか」
──オルフェくんが口を挟んだ。そんな話し方できるんだ。ちょっとびっくり。
「勿論。どうぞ」
「労働契約は、彼が仕事を一通り学んでからでも良いでしょうか。どこまで通用するものなのか、本人もまだわからないことが多くあるそうなので。彼がベテルギウスに来たのも、そもそも数ヶ月前のことでして」
「…そうだね。そうしようか。カイくんはそれでいいかい?」
「あ、はい、そうします。そうさせてください」
「ではこれからうちの調教師と会ってもらおう。オルフェウスくん、せっかくウチに来たんだからカイくんとゆっくり滞在していきなよ」
「いえ、彼の仕事の邪魔になるといけないので…」
──僕はそのとき、酷く情けない顔をしていた自覚はある。しっかりある。置いていかないで、と思った記憶が確かにある。
「…すみません、しばらくお世話になります」
「そうしなよ。カイくんも心細いでしょう。帰らないとならないときは従者に伝えてね」
私は退出するから、しばらくゆっくりお茶を楽しんでね、と言って王子様は去って行った。つかの間の静寂である。手元には労働契約書。
「来て数ヶ月でいきなり高給職。やるじゃないか、カイ」
「…でも、通用するかはわからないよ。うわあ、どうしよう、不安しかない」
大丈夫、とオルフェくんは抱きしめてくれた。思いっきりしがみつく僕に、彼は笑いながら大丈夫だと何度も言ってくれた。もしダメでもうちがあるから、と。
挫けても、耐えきれなくなっても、帰る場所がある。帰って来いと言ってくれる人がいる。贅沢なことだ。その分、頑張らねば。故郷の実家と両親、動物たち。故郷になった錐鞘亭と、マウラさんたち。それを交互に思い出して、またメソメソしてしまった。
今きっと、オルフェくんの耳がピコピコ動いているだろう。ちょっと待ってて、今泣き止むから。
────────────────────
気になる飛馬本体価格は、数千万~一桁億円くらいだと考えております。プライベートジェットが60~80億円なんで食費がかかるとはいえ安い方…安いか? いやでも…うん。
こらこら庶民だろ目を覚ませ、とフルスイングビンタしてくださるお嬢さんはお気に入り登録お願いしまーす!
© 2023 清田いい鳥
「そうなんですね。でも古代魔力? というものはそれほど珍しいものなのでしょうか」
「古代魔力は魔道具に流しても、モノによって壊れたり発動しなかったりするからちょっと不便というくらいかな。それより魔獣と話せるって本当?」
「あ、そちらですか、はい。みんな元気に話しかけてきます」
これまでどのような魔獣とどんな話をしたのか、ベテルギウスの治療魔術師さんと同じことを聞かれたので同じように話した。一回話した内容なので自分でも話し方が洗練されてきたなと感じる。この話は僕の十八番になりそうだ。
「ふふ…っ! ウザイ…!!」
魔術師さんと同じところでツボに入った王子様は、しばらく顔を覆って笑いをかみ殺していた。横でオルフェくんも震えながら静かに笑っている。君は一度聞いたじゃないか。この固めのクッキーみたいなやつ、ピンクの粒々がシャリシャリして美味しいな。お茶とよく合う。
笑いすぎて最早泣いている王子様は、ハンカチを取り出し涙を拭きながら言った。
「ああ面白かった。うちの直営である魔獣調教の厩はね、数カ所ある。君はどこがいい?」
「ベテルギウスの厩がいいんですが、あの、調べたところによると…」
僕は数日前、図書館で調教師と厩の仕事について調べた。調教師は基本的に住み込みでの仕事になるのだ。人と魔獣のコミュニケーション代行、通訳の仕事をなんとなくで想定していた僕は、通えないのはちょっと、と迷いはじめてしまったのだ。
「いや、大丈夫。君は特別枠になる。全国の厩を回って、飛馬の相談役になること。人と魔獣の通訳の仕事だよ。ひと月、王都の厩で調教師の仕事を一通り覚えてもらい、仕事の足になる飛馬を選んで持って行ってもらおう。連絡専用の通信魔道具も支給するよ。どう?」
やはり面接のようだ。王子様が直々に労働条件なんかを提示してくるとは。…いや、多分、直々にお願いすることによって断られないようにしている気がする。あと好奇心。彼の紫色の瞳は、さっきからやけにキラキラとした輝きを増しているもんな。せっかく来たんだ。お受けしようかと思っていると、黙っていたオルフェくんが呟くように言葉を零した。
「え……? 飛馬を?」
「そうだよ。なかなかいい条件だろう?」
お馬さんが高価なのは僕でもわかる。でも王子様の言い方は、今度産まれる子猫ちゃん一匹どう? くらいの軽いものだったので、気がつかなかった。飛馬の本体価格。
「えっ!? 高あ!! い、い、頂けません!!」
「支給だよ支給。まあでも飛馬が懐いてここに帰りたがらなくなっちゃうかもしれないけどね。そしたらあげるからさ、試しにこの仕事やってみなよ。ねっ」
あげるからさ、じゃないよ王子様。国家予算を扱う側からしたら端金かもしれないけど。僕みたいな小市民は心臓が保たないよ。まだドキドキ鳴っている胸を押さえていると、王子様はトドメを刺すように労働条件を文章に起こした紙を出してきた。契約書である。
「基本給、依頼達成手当て、魔獣食事手当て、時間外対応手当て、別途厩舎補修費用は都度申請…」
「一度出張したら基本的に二日は休みになる。しかし急を要する事態も想定して、緊急招集があったときのために時間外手当てがつく。今まで通訳できる人なんていなかったから、本音を言うとこれは急遽作ったものなんだ。安すぎるかな? 正直に言ってもらって構わないよ」
「いえ…その……」
「僭越ながら、私の意見を申し上げても宜しいでしょうか」
──オルフェくんが口を挟んだ。そんな話し方できるんだ。ちょっとびっくり。
「勿論。どうぞ」
「労働契約は、彼が仕事を一通り学んでからでも良いでしょうか。どこまで通用するものなのか、本人もまだわからないことが多くあるそうなので。彼がベテルギウスに来たのも、そもそも数ヶ月前のことでして」
「…そうだね。そうしようか。カイくんはそれでいいかい?」
「あ、はい、そうします。そうさせてください」
「ではこれからうちの調教師と会ってもらおう。オルフェウスくん、せっかくウチに来たんだからカイくんとゆっくり滞在していきなよ」
「いえ、彼の仕事の邪魔になるといけないので…」
──僕はそのとき、酷く情けない顔をしていた自覚はある。しっかりある。置いていかないで、と思った記憶が確かにある。
「…すみません、しばらくお世話になります」
「そうしなよ。カイくんも心細いでしょう。帰らないとならないときは従者に伝えてね」
私は退出するから、しばらくゆっくりお茶を楽しんでね、と言って王子様は去って行った。つかの間の静寂である。手元には労働契約書。
「来て数ヶ月でいきなり高給職。やるじゃないか、カイ」
「…でも、通用するかはわからないよ。うわあ、どうしよう、不安しかない」
大丈夫、とオルフェくんは抱きしめてくれた。思いっきりしがみつく僕に、彼は笑いながら大丈夫だと何度も言ってくれた。もしダメでもうちがあるから、と。
挫けても、耐えきれなくなっても、帰る場所がある。帰って来いと言ってくれる人がいる。贅沢なことだ。その分、頑張らねば。故郷の実家と両親、動物たち。故郷になった錐鞘亭と、マウラさんたち。それを交互に思い出して、またメソメソしてしまった。
今きっと、オルフェくんの耳がピコピコ動いているだろう。ちょっと待ってて、今泣き止むから。
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気になる飛馬本体価格は、数千万~一桁億円くらいだと考えております。プライベートジェットが60~80億円なんで食費がかかるとはいえ安い方…安いか? いやでも…うん。
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