人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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50 孤児院に行こう

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 ラグーさんのところに子供が産まれた。耳は白い毛の縁取りと、中が黒っぽい色だった。ちっちゃい三角耳が可愛いくて、声は抑えつつも叫ばずにはいられなかった。

 グレーのシマシマ模様の猫耳である奥様には似なかったようだ。『妻に似て欲しかったな。後から変わるかもしれないが』と、彼は笑顔で赤ちゃんを見つめていた。

 赤ちゃんが布でぐるぐる巻きになっていたので、これが普通なの? と聞くと『こうやると母親のお腹に入っていたときのように感じて安心するらしい』と教えてくれた。いつの間にかお父さんとしてしっかり知識をつけている。

 そういえばお腹が大きかったときの奥様が、『あの人心配性だから、そんなに要る? ってほど勉強してるわ。急に三歳、四歳に成長しても大丈夫ねー』とコロコロ笑って言っていた。なんて素晴らしい。愛はラグーさんを変えた。

「すっごくすっごく可愛いかったー。たまに三角のちっちゃいお耳がピクピクするんだよ。こうやって。手なんかこんなにちっちゃくて!」
「子供か。子供…………だめだ、カイが他の女とヤるなんて許せない。無理、辛い」

 なぜ僕に子供を拵えさせる想像をした。相手の女性の人権がないじゃないか。王族なら人権より何より血筋が大事だろうから、代理母のようなことはあり得るのかもしれないが。今の王家にはすでに実子の王子様が七人もいる。だからそういう話は噂話にすらならない。



「あんたら孤児院でも見に行ってみればいいじゃないか。今すぐじゃなくてもさあ、雰囲気だけでも確認してくるといいよお。ま、子供が誰もいない可能性もあるけどね!」

 ──誰もいない? 孤児院なのに??

「獣人の子供は人気だもん。お貴族様が持ってっちゃうせいでさあ、本来育て役になるあたしらの元へは中々来ないんだよねえ。施設入りする前の子を回してもらうために、裏で順番待ちするんだよお」

「そうそう、うちの息子んとこにもまだ回ってこないんだよ。ある程度大きくても別に構やしないって言ってはあるんだけどねえ」
「まあ大体みんなで育てちまうからね。万が一の場所だよ、あそこはさ」
「予算が余ってるってんで設備に金かけてるから、今入れば色々快適そうだよねぇ」

『肝心の子供が来ないんじゃねえー』とマウラさんとネズミのおばさんたちは声を合わせて言っていた。そうなんだ。いつも子供で溢れてて、人手が足りないイメージがあったけどな。違うならそれはそれで、子供のためにはいいんじゃないだろうか。

 可愛い赤ちゃんを抱っこしたい、なんて僕の欲だけで養子を貰うのはダメですよねと零したら、マウラさんが口を挟んだ。

「あら、あたしはもう一度赤ちゃん抱っこしたいと思ってオルフェを貰ってきたんだよお。早いうちに産んで余裕あったからさあ」
「あのちっちゃいのがあんな暴れ馬になるとはね! あっはっは!」
「ほんとにねぇ! まあそんだけ馬力はあるよね。仕事の早さはマテウスさんに負けてないよぉ」
「あたしの息子も養子だけどさ、上に実子もいるよぉ。似たような理由で貰ってきたね。だって可愛いじゃないか!」

 マウラさんたちは『ねー!』と頷き合っていた。そこのところはゴチャゴチャ考えないのがここの流儀なのか。それはそれでいいのかも。心配事の九割は当たらないと言うからな。考えるよりまず行動、か。



 ──────



「……すっごい、なんていうか、豪邸……?」
「初めて来たけど、豪邸だなこれは」

 僕が知っている一軒家というものが、八つは軽く入るサイズの敷地と建物だった。ワンブロック丸々はある。赤茶色の屋根に、白い壁。外に面した、天井が半円形にくり抜かれた奥に回廊がある。僕たちが豪邸のイメージを持ったのは、壁は新築のように塗りたてで綺麗だし、庭師さんを雇っているのか庭は整っているし、窓はピカピカだったからだ。まるで領主さんの邸のよう。

 本当にここかな、だれかのお屋敷だったりして、と話していると兎耳の男の子に声をかけられた。

「オルフェウスさんとカイさん? 初めまして、私コニーと申します。本日の案内役を務めさせていただきます」
「初めまして、ご丁寧にありがとうございます。僕がカイです。こちらがオルフェウスくん。あなたが院長さんですか?」

「いや? オレはここの孤児。院長は裏庭にいるよ。ていうかオレ一人しかいないから! ウケるっしょ」

 一瞬で畏まった話し方をやめ、日射しの中で眩しいほど白いノーカラーのシャツを着て笑っている兎耳の男の子は、ここ唯一の孤児さんご本人。全開の笑顔で出迎えてくれた。白いお耳の中がピンクで可愛い。

「き、君一人!? この広いお屋敷で!?」
「お屋敷って! まあそーだよー。院長と二人暮らし。人がいなさすぎて冬とか超寒いから、部屋限定して使ってるー。じゃあまず全然使ってない食堂から!」

 コニーくんは慣れた様子で内部の案内をしてくれた。どこもかしこも天井が高く、絵があまりないだけの美術館のように整っていて静謐だった。まさか掃除は二人でやってるのかと聞くと、時々人を雇って手入れをして維持に努めているらしい。

「獣人は可哀想、保護しなきゃって国の意向を利用してるとこはあるね。何回も戦って人間が勝ったわけだけど、獣人が弱体化して余裕ができて、負けた方の命がもったいないって気持ちが湧いたんだろーねー」

 僕は思わずオルフェくんの方を振り向いた。『知らなかった?』とか言ってるが、僕は初耳である。人間が憎かったりしないのだろうか。

「頑張って子供を増やせればいいが、減るスピードの方が早いからな。なるようになれ、優遇制度はどんどん利用して楽しようってのが大体の総意だな」
「だなー。観光地だから商売をどうするかの方が関心あるよな」

 思わぬところでここの歴史を知ってしまった。人口の減少にそんな背景があったとは。てっきり近代化とか、遺伝子の変異とか、そういうことだと思ってた。



 ──────



 裏庭に案内された。色とりどりのお花が沢山咲いている。大きな麦藁帽子を被ったあの人が院長さんだそうだ。こちらも『ようこそー!』と手袋を着けた手を振って気さくに挨拶してくれた。オルフェくんが院長さんのところへ歩いて行き、何かを話している。

「さて、どうだった? オレを貰ってくれる気になった?」
「えっ、君を? そうだなあ、うちは余裕があるけど、君はうちに来たいと思ってくれたの?」

「うそうそ、オレが出てっちゃったら院長ひとりになっちゃうから。外からも人は来るけど、夜はだーれも居ないから。オレはここでずっと働くつもり」
「そっか、君が居てくれれば院長さんも心強いね」

「ねえ、カイさんってオレより年下でしょ? 本当はお貴族様で、これは視察で、あの彼とは政略結婚だったりする?」

 もう定番化した質問に答えたら、彼は『嘘だー!! 絶対十三歳くらいだし女の子っしょ!? どうなってんの!?』と驚いていた。久しぶりに言われたな、十三歳。

「まじかー。カイさんが女の子だったらオレの子供産んで欲しかったー。ぶっちゃけ超タイプ。すっげーいい匂いするし。ねー、あの彼よりオレの方が若いよ? オレにしない?」
「悪いけど、もう結婚してるから。ごめんね」

 そのあとも『えー』とか、『下半身誤作動するわー』とか、大きな声であられもないことを言われたが、全てオルフェくんに聞こえているんじゃないだろうか。わざとか? 君はここに帰ればいいけど、僕が帰る家はオルフェくんと一緒なんだぞ。彼のモヤモヤを受け止めるのは僕なんだぞ。

「ごめんねー、ショック過ぎて言いたい放題しちゃって。でさ、実はオレぶっちゃけ────」



 ──────



「院長さんと何話してたの?」
「あー、子供の順番待ちはどのくらいなのかって。まあ大体このくらいだって書類をくれた」

「うーん、数字じゃわからないね。授かりものだし急に来たりするもんね」
「そうだな。…カイはあの兎にちょっかいかけられてただろ」

 ──なんだよ。好き勝手言われたのは僕のほうなのに。不満気な視線を寄越さないでよ。

「大丈夫だよ。それはない」
「なんでだよ、あいつは自分の方が若いってアピールしてただろ。俺はいつかあんたが若い男に取られるんじゃないかって──」

「あははは! なにそれー! そんなこと心配してたの! 年下なのに!」
「なんだよ、俺は真剣に」

「ないない。だってコニーくん、あそこから出ないって言ってたよ。院長さんとデキてるからって。もし子供が来たら二人で面倒見て見送るんだってさ」
「えっ」

 やっと静かになったオルフェくんは、『法的に大丈夫か…?』とかブツブツ言っていた。大丈夫だよ。図書館に行ったとき、ついでに調べておいたんだ。君がこんなちっちゃい子にっていちいち落ち込んでたから。そもそも僕は成人だ。何度も、僕は何を調べているんだと思いながら細かい文字を目で追ったよ。

 それにしても、僕を未成年だと疑ってた君も随分好き勝手していたじゃないか。自分は良くて人はダメ、はまかり通らないぞ。



────────────────────
さ、これでおしまいです。10万字書いてやんぞ、という目標は達成しました。偉いぞ私。偉いですよここまで読んでくれたお嬢さん方。さすがです。もしや女神様では?

次のやつはまた時間を置いて連投します。全15話くらいの中編です。え?その頃には忘れてるって?つれないなーお嬢さん、私はこんなに愛してるのにー。

仕方ねーな覚えててやんよと思ってくださるベテルギウスの海より心の広いお嬢さんは、お気に入りユーザ登録と、エールをお願いしまーす!またねー!

© 2023 清田いい鳥
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