人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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51 獣人地域の誕生日

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 夏は観光シーズン。波が低くなり、照りつける日差しで温まった砂浜と海で、みんなが薄着になって開放的になる季節。

 発情期を無事終えて冷静さを取り戻し、余った者同士や、すでに破局した者同士が海で楽しく遊びながら接近する。そんな第二の出会いの季節でもある。

 僕は相変わらずあっちへこっちへ飛んで行き、魔獣の通訳士として働いている。臨時の調教師として呼ばれることもある。オルフェくんは店が稼ぎ時のため忙しく、必ずついて来てくれるわけではない。

 寝床が広すぎるときなんかはやはり、寂しい気持ちにはなってしまう。疲れているのですぐ寝られるが。こういうときにスマホがあったら、おやすみくらいは言えるのに。

 上空はおひさまに近いだけあって飛ぶとその分、直射日光に晒される。最近の飛行は暑いというかもはや痛い。かなり体力も奪われてしまうため、ルート号の鞍に日傘をつけることにした。

 雇い主である王子様に仕える官吏の方に相談したら、すぐにカタログらしき冊子を送ってくださった。結構種類があったのでどれにしようかな、とオルフェくんと話していたときのこと。

「カイが誕生日に食べてたケーキってこういう感じか? 白くて、フレイラの実みたいなのが乗っててさ」
「そうだね。これ可愛いよね、さっきからちょっと気になってた。みたいっていうかそれだよね。フレイラシリーズ? だって。傘はその中のひとつなんだね」

「前の誕生日のときは一番それっぽかったフレイラの実が手に入らなくて悔しかったな。結局クラムの実でどうにかしたけど、似てるのは色だけだったもんな」
「ううん、あれすっごく美味しかった。もっと酸っぱいと思ってたら糖蜜に漬けてあってさ、その甘みで酸味が丁度良くなっててさ。初めてスウェート牛のクリームを食べたけど、あれとバッチリ合ってたよ! また食べたい!」

 伸びた横髪を後ろに結わえ、以前僕のために作ってくれたケーキのことを厳しく批評しているオルフェくんは春生まれ。他所のことは知らないが、獣人の地域でも誕生日はみんなでお祝いするのが定番らしい。

 子供のころなんかは寄合所に集まって、その月に誕生日を迎える子たちとゲストの子を集め、大人たちで食事を持ち寄りお祝いの定番曲を歌い、そのあとみんなでお菓子パーティーをするという。むしろ誕生月を理由にした単なるご飯とお菓子食べ放題の日なのだと彼は言っていた。

 大体ウケ狙いをする子が現れて、変な味のお菓子が中に混じっている。それをうっかり知らずに食べた子が『美味しいと思って食べちゃったー!』と騒いだり、『はいこれ絶対不味いやつー』とネタバレしたり、『は? オレはイケますが?』と大人ぶって我慢大会を始める子供がいるらしい。

 すごいなあ。なんだかんだでみんな集まって何かをするのが好きなのだ。あと何かと歌うのも好きだよな。みんな歌が上手いから。上手いと、いくら歌っても気持ちがいいし、一緒に歌う人もみんな上手いからハーモニーがピシッと決まる。場の空気が一体化する。歌う気持ちよさは倍増するというものだろう。

 僕の故郷でそんな催しがあったら。そしてたまたま、誕生月の子供が僕しかいなかったとしたら。

 ……き、気まずそう。なくて良かった。何も悪いことはしていないはずなのに公開処刑が始まってしまう。真ん中に立たされて、あんな子居たっけ、という視線に晒され、遠くを見続ける可哀想な僕の画が見てきたかのように想像できるぞ。

「ん? どうしたカイ、なんか面白いものでも見つけたか」
「ふふ、これがやっぱり一番可愛いなーと思って。いちごケーキみたい。僕が言ってたお誕生日ケーキっていうのは、どこでも売ってる定番品でもあるんだよ」

「こっちでも定番だぞ、フレイラケーキは。中の生地もフレイラの実が練り混んであって、切っても綺麗な桃色なんだ。昔々、王宮での定番菓子だったそうだな」
「流行は有名人が作るものだもんね。きっといいなーって思った人が、真似して作って広めたんだろうね」

「カイも有名人の一人じゃないか。街中で車輪のついた飛馬のぬいぐるみを引っ張ってる子供をときどき見かけるが、あれはカイの真似をしてるらしいぞ」

 そうなのだ。先日海の方まで脚を、というか羽根を伸ばしてルート号と空中散歩をしていたところ、ふわふわお耳のラントくん一家にばったり出会った。休暇中に遠出をしていたらしい。

 ご両親に挨拶したあと、ラントくんが紐の端を持っていたので先を見てみると、羽根のついた馬のぬいぐるみの首につけた首輪らしきものにそれは繋がっており、そのぬいぐるみの顔は白い柵と柵のあいだにムギュッと挟まれていた。

 これ可愛いね、と言うとモジモジしながら『ルートごう』と答えてくれたのだ。そのあとすぐにお母さんの影にサッと隠れたラントくんを可愛いなあと思って見ていると、お母さんが『これはね、ルート号に海を見せてあげてるとこなの』と、口に手をかざしながらこっそり教えてくれた。胸が激しくキュンとした。

 そのあとしばらく経ってから、街中でラントくんの『ルートごう』に似たぬいぐるみを子供が引っ張っているのをよく見かけた。ハンカチを首に巻いてあったり、器用にも手作りらしき服を着せてあったり、それぞれ個性を出している。

 羽角が猫の耳になっているものもあったな。それは猫の獣人ちゃんがあるじのぬいぐるみだった。さらに胸がキュンとした。

「僕、こっちに来てほんとに良かった。みんな可愛いんだもん。眼福だよ。それにモテるのって案外悪くないもんだねえ。みんな話しかけてくれるしさあ」
「……また男に声をかけられちゃいないだろうな。ルート号は悪意がない人間には全然反応しないだろ。あいつ頭いいからな」

「ちょっと。今のは絶対、頭の良さを誉めているような口調じゃないでしょ。気が利かないなとか思ってるでしょ。違う?」
「………………違う」

 絶対嘘だ。いま耳が若干ふらっと動いたぞ。そんな正直発信機を持っている君は嘘がつけない。僕の前では特に。その辺はよーく知ってるんだぞ。

「いいか、そもそもすでに結婚済みで、人妻で、心も身体も俺のものだってことが見かけだけじゃわからない。特定の相手がいるらしきことだけは匂いでしっかりわかっても、公的な証明があることまでは全くわからないんだぞ。カイを初めて見る奴だってごまんといる。今の時期は特にそうだ。すぐに連れ去ろうとはせず、声をかけて徐々に近づこうと画策してる奴もいるかもしれない。いや絶対いる。だから──」
「もー、わかったよー。ていうか、よく知ってる人以外には誘われたって行かないよー。言ったでしょ、外ではルート号の視野から絶対外れないようにしてるしさ、宿を取るときも案内人さんと厩舎の人が揃って出迎えに来てくれてからにしてるんだよ」

「それ以外の不安もあるんだぞ。カイのことだから、うちの店まで荷物運びを手伝ってくれとか言われて快く引き受けて、それで道が狭いから飛馬はここに置いていってくれとか言われて、人気のない方ない方へ連れ出されて……やっぱ刃物のひとつでも持たせとくか……」
「持ってても僕じゃ扱えないよ。それに素人が使うとさ、逆に加減がわからなくて大変な事件になっちゃいそう」

「いいんだよ。怪我なんかいつか治るだろ。それよりカイに何かあったら──」
「もー。オルフェくんお父さんみた──」

「夫! 旦那! カイのつがい!!」
「わかったわかった。そうだねー、僕のかっこいい素敵な旦那様だよね。ねー?」

 言葉を遮ってまで訂正してきた彼は、耳を軽く後ろに伏せて不満を伝えてきたと思ったら、今度はくるっとこちらに向けて音を集めている。『かっこいい』『素敵』『旦那様』が効果的だったようだ。なんとも素直な耳である。

 でもなあ。売約済みですよ、と一目でわかるものなどここにはない。故郷では左手の薬指に指輪をはめるのが印というか、約束の証とされていたが。

「こっちには結婚指輪なんてものはないもんなあ」
「結婚指輪? なんだそれ、魔道具の一種か」

「うーん、虫よけという意味だけなら、ある意味魔道具といえるかもしれない。ここに金色とか銀色の指輪を毎日つけて、誰が見ても既婚者ですよーってわかるようにするの」
「そんな風習があったのか。へえ……」

「そう……あっ、ちょっと待って。欲しいわけじゃないからね? 毎日水換えとか掃除とかをやってるんだから、指輪なんかつけてたら傷つかないか気になって仕事にならなくなっちゃうし。買ってもつけなかったら意味がないし。あと、気に入るかどうかもわからないのに買ってきちゃって、揉めることもあるんだから。わかった?」
「え──……、わかった」

 ──ヨシ。わかっていないであろうことがわかった。



 以前、ラグーさんが奥さまにプレゼントした大天使石という、美しいがその分恐ろしく高価な宝石を見た感想を伝えたところ、じゃあ俺もというテンションにさせてしまい、断るのに苦労したことを思い出す。

 その時も同じようなことを言ってなかなか議論が終わらなかったなあ。気持ちは嬉しいんだけど。それはお金で表さなくてもいいんだよ。

 いい? 好みは人それぞれなんだよ、びっくりさせようと思って買っちゃいけないものなの、わかった? とひたすらそう繰り返しておいた。

 最終的には目を逸らして『そうだなわかった』と適当な返事をし続けるオルフェくんの顔を、無理やりぐいっとこっちへ向かせて『はい』と言わせた。

 これはどうにも落ちつきがなかったり、興奮が止まらなくなったときにやるやつだ。……飛馬に。調教するときに。

 君は馬の獣人だが一応は、人間の部類だろう。ムスッとして耳を伏せるんじゃない。これだから最近の若者は。

「……あ、こら、チューじゃない。それじゃないよ。ほら、時計見て、時間……もう、今はお茶の時間でしょ? ちょっ……これから、ゆ、夕食の仕込みでしょ!? こらこら!」
「ちょっと、ちょっとだけだから。いい?」

「よくない! ちょっとで済んだことなんてないでしょ! 君けっこうしつこい方なんだから! しかも魔力流そうとしたでしょ! こんな真っ昼間から酔っちゃうでしょ!」
「は? しつこい? 誰と比較したんだよ。言ってみろよ、怒んないから」

「怒ってないけど笑ってんじゃん!! わかってるくせに、やっ、やだっ、ちょっ、ダメダメ!! 脱がさないでってー!!」



「こるあぁぁオルフェー!! いつまで上でサボッてんだい!! さっさと仕込みしなー!! オルフェー!!」
「チッ、うっせーなババア!! 今行くとこなんだって!!」

 大嘘をついたオルフェくんは盛大に被害者面をして、名残惜しそうに僕を抱きしめて一応謝ってくれたあと、悪態をつきながら階下へと降りていった。



 彼の名はオルフェウス。通称『暴れ馬』。腕っぷしも良いが蹴り技が十八番の彼は、料理上手な僕の旦那様。

 僕のことが好きでそうなるのはいい。僕も大好きだよ。でもちょっと……少しだけ元気すぎるかなあ。彼が落ち込んでいたときがもはや懐かしいと思うくらいである。

 子供が来れば育児でもっと消耗させられるかなあ、なんてことをそのときは苦笑いしながら考えていた。

 後日僕に舞い込んだ依頼の内容。毎度のことながら魔獣である飛馬のものだが、それは今までとは随分違っていた。消耗するのは彼じゃなく、一足先に僕の方であったのだ。







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やあ久しぶりだねお嬢さん!季節感がなくってすまないね!計18話の追加投入、絶対ついてきてくれよな!

それはもはや第二章じゃないの、と思われたお嬢さんはエールとお気に入り追加お願いしまーす!


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