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55 飛馬バトル
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「あ、はいはーい。どうぞー!」
「ただいま……」
いつもとちょっと様子が違う、と思ったのはこの日この時からだった。ノックの音がしたので返事をしたが、入ってきたときの足取りが重く見える。なんだか疲れているような。
「オルフェくん、なんか疲れてない? あ、ルートくんのご飯の支度ありがとう」
「んー。どういたしまして……」
「おっと。重いよー。疲れてるんならさっさと寝なきゃ。そっちの明かり消してちょうだい」
「んー」
僕を抱きしめてベタベタ甘えてくるのはいつものことではあるのだが、腕がいつもよりずっしり重い気がするし、吐く息が心なしかため息混じりである。
お友達と、なにか気が向かない話をしてきたのだろうか。前にもこういうことはあったから。そのときはアードルフとサシャさんに僕を養えるのか詰められた、なんて言っていた。
しかしオルフェくんはこのとき何も話さなかった。僕を引き寄せたと同時にすやすや眠ってしまったからだ。ちょっと身動きが取りづらかったが、枕元の明かりを消して僕も眠りについた。
オルフェくんから感じるのは疲れている重い気配と、マテウスさんが出先で貰ってきたという上品な石鹸の香りと、もう深くなっている寝息だけ。
明日聞いてみようかと思った。僕は僕で疲れている。僕のミスで落馬してしまったのだ、よく考えなくてもあれはとても危ない行為だった。心配をかけるだろうが、黙っているのもなんだか座りが悪い。正直に言って、叱られて、反省せねば。
しかしここからの数日間、オルフェくんとゆっくり話す時間はついぞ取れなかった。彼の朝はいつも早く、僕より先に起きて、お店の支度をするため階下へすぐに降りてゆく。
僕はそのあとに起きてルート号のお世話をし、支度を整え、オルフェくんに見送られながら出立する。彼がすぐに戻らねばならないのはわかっているので、立ち話に付き合わせるわけにはいかないのだ。
繁忙期だから仕方ない。最初はそう思っていた。しかし、だんだんと話したいことが増えてゆくのに、そのための時間が全然取れやしない。
オルフェくんの朝の様子はいつも一緒だ。軽くキスをして『気をつけてな。いってらっしゃい』と声をかけてくれ、ルート号にも『カイをよろしく頼む』と声をかけて送り出してくれる。
しかし僕が帰ってくるころになると、すでに外出していることが多い。していなくても出迎えのあとは部屋に籠もり、なにやら忙しそうにしているのだ。
僕が部屋を訪ねると、笑顔で出迎えてはくれる。でも開いていた本を閉じた気配があったり、さりげなく手元は隠されている。何回かそういうことがあったため、さすがに悪いと思って部屋に行くのはやめた。
「あらカイくん、日傘つけたのかい。可愛いねえ! ケーキの柄だ!」
「えへへ、ありがとうございます。他にもオシャレなのはあったんですけど、なんかルートくんに似合いそうだなーと思ったらどうしても気になっちゃって」
「この子は羽根の色が淡いからねえ。よく似合ってるよ。ねえ、カイくん最近出ずっぱりだけど、疲れはちゃんと取れてるかい? 休みを取らせてもらうのは難しいのかい?」
「あ、休みは取ろうと思えば取れますけど、今見てる子がちょっと難しめな子で。少しでも一人立ち出来るまでは見ておきたいなーと思って」
半分嘘だ。ブラッキーくんが気になるのは本当のことだが、帰ってもオルフェくんと話せないとわかった途端、気持ちが沈んでしまうから。わざと、という意図もある。
そんなことは知らないであろうマウラさんの、いつとも変わりのない笑顔が眩しい。毎日元気に働いている人だが、彼女はもう孫がいるようなお年なのだ。心に負担はかけたくない。
まだそんなにトシじゃないよお、と笑われるだろうが、お孫さんの話や、時々遊びに来てくれるお孫さん本人と交流を楽しむマウラさんたちを見るたびに、僕の祖父のことが頭をよぎるのだ。
去年まではまっすぐだった背中が、次の年に会うと急に曲がっていることに気がついた。ほとんど寝転んでいる状態になるまでは、あっという間のことだった。
いつも何かしら作っていた畑は閉じて、知らない人のものになり。最後はホームに入り、それもあまり長くならなかったのは、良いことなのか悪いことなのか。
僕が故郷に戻れたとしても、もう本人に聞くことは絶対できない。祖父は骨だけ残してこの世を去った。お父さんに声がそっくりの、いつも落ち着いた佇まいの人だった。
『綺麗に生涯を閉じられた』と褒めてくれたのが誰だったのかは思い出せない。僕の親族の誰かなのか、お寺のお坊さんだったのか。
──────
「タピオさーん! なんかあそこで揉めてるっぽい。すんませんけど手伝ってもらえます?」
「うん。私は左に回る。君は右から」
「うわー! やばいやばい! 羽根が毟れちゃう! 喧嘩しないよ! こら!」
「……おしまい。帰るよ」
飛馬は基本的に、対魔獣戦の戦場にも連れて行けるような生き物だ。楽天的だが度胸がある。そして好戦的な側面もある。
ミュミュミュミュミュ!! というけたたましい鳴き声が聞こえたぞ、と思って見ると、二頭がすでに喧嘩していた。周りの飛馬はそれを止めるどころか集まり始めて見物し、やんややんやと盛り上がっている始末である。
男の子たちは『そこそこ! おもっきし蹴れよ!』『弱ぇーぞそんなんじゃ!』『砂で目潰ししろよ!』『おい、やられるぞ! さっさと立て!』と、野次を飛ばすのに忙しい。
女の子たちまで『キャー! 頑張ってー!』『もっと睨み効かせな!』『オメーはよー! それでもオスかコノヤロー!』と激を飛ばしている。うちのルートくんのほうが群を抜いておしとやかって一体どういうことなんだ。
突然治安の悪くなった馬場に駆けつけたタピオさんたちは、文字通りの野次馬たちの間をすり抜けて、素早く騒ぎの中心へ到達した。激しく動くせいでほどけてしまい、一緒になって暴れていた手綱を一発で捕らえ、中で一番騒いでいたそれぞれの飛馬が横方向へと揺らされた。
揺らす、といっても相手は魔獣。馬より一回りは大きく強い生き物である。ちょっと揺れたかな、くらいのものだったがそれで喧嘩はあっけなく止められた。
まだカポカポと蹄を鳴らして騒いでいた飛馬も静まり、いつも通りの穏やかな時が戻った。『もうおしまーい?』『ちぇー、つまんねー』という声が聞こえてきた気はしたが。
「びっくりしたでしょ。ごめんね、こいつ喧嘩っ早くてさあ。たまにこうなんの。危ないからそこ避けといてね!」
『聞いてくれよカイ。あいつさあ、オレがかけっこで勝ったのにさあ、鶏冠が出てたとかなんとか言ってぜってー負けを認めねーの。腹立つよなあ!』
「あー、そっか、そうだったんだね。それで怒ってたのか」
『おい!! 負けたのはおめーだろーが! グダグダ言ってんなよオスのくせしてよぉ!』
『はー!? おめーがズルしたんだろうがよ! 目ん玉突いてやろーかこのクソ野郎!!』
『あー!? やってみろや!! このヒヨコ野郎!!』
ヒヨコって悪口なんだ、と感心しながら同時に慌ててしまっていたが『なんだクラァ』『やんのかオラァ』と、またアウトレイジ化しかけている彼らをどうにか説得し、その場を収めようとはした。魔獣と話せる人間は唯一、僕だけなんだから。
しかし間近でキレる飛馬というのはあまり頻繁に見るものではなく、元々体高の高い飛馬がさらに自分を大きく見せるため、前脚を高く上げ羽根を広げるその姿はなんとも雄々しく勇ましく、本能的に怖い、と感じるものだった。
しかし、少し離れた位置で相手の飛馬の手綱を掴んでいたタピオさんは全く動じずに、短い一言をその場に落とした。他にやったことといえば、手綱を軽く何度か横に引く。たったそれだけ。
「……おしまい」
『…………はぁい』
『ふん…………』
一瞬にして場が凪いだ。さっきまでのは何だったんだと思うくらいに二頭とも大人しくなり、カポカポと蹄を鳴らして自分の馬房に帰ってゆく。
言葉が通じるわけではない。そういう芸当ができる人間は、僕の他にはいない。彼は背が高い方とはいえ、それだけが要因とはとても思えない。その仕事っぷりの秘密を聞いてみたい。一体どのようにして身につけたのか。
……多分これは、オルフェくんに構ってもらえない僕の現実逃避でもあったと思う。何か違うことに集中しないと、余計なことばかりを考えてしまうのだ。
誰にも相談できやしない。もしマウラさんやネズミのおばさんたちに話してしまえば、彼女らは必ずオルフェくんを責め立てるだろう。もし思い違いだったとしたらとんでもない冤罪だし、ただでさえ今は仕事が忙しい。疲れている彼に負担をかけるつもりはない。
犬耳のアードルフさんや三毛猫耳のサシャさん、猫のおねえさんたちにも絶対言えない。彼らはまだ僕がオルフェくんとお別れして、自分のところに嫁ぐことを諦めてくれていないから。
うんうんと話は聞いてくれるだろうが、結局は『じゃあうちにおいで』という勧誘話にすり替わってゆく。彼らは強引ではないし、悪意なんかも全くみられない。そんな彼らの心を弄ぶようなことはしたくないと思い、却って話しづらかった。
僕の話なんていい。今はタピオさんの話が聞きたい。しかし彼の声は突然大きくならないし、何度も聞き返すのは気が引けるので、そこは僕が工夫することにした。
屋根の下、音をなるべく反響させる壁が立っているところがいい。極力、室内であることが望ましい。日が落ちてくるころになると当直の人以外はみんな帰ってゆく。
よく話しかけてくれる彼らには悪いと思いはするのだが、その彼らがいなくなる時間がベストだろうと考えた。
霧鞘亭でのいつもの夕食の時間に間に合うギリギリまで居残って、静かになる時間に声をかけよう。そうやって彼に話を聞かせてもらうチャンスを狙って作っていた。
────────────────────
ちょっとお嬢さん、暗くなるころに二人きりですよ。やばくない?ねえねえ、やばくなーい??
チッ、いっちょ前に『引き』を作りやがって、と舌打ちされたお嬢さんはエールとお気に入り追加お願いしまーす!
「ただいま……」
いつもとちょっと様子が違う、と思ったのはこの日この時からだった。ノックの音がしたので返事をしたが、入ってきたときの足取りが重く見える。なんだか疲れているような。
「オルフェくん、なんか疲れてない? あ、ルートくんのご飯の支度ありがとう」
「んー。どういたしまして……」
「おっと。重いよー。疲れてるんならさっさと寝なきゃ。そっちの明かり消してちょうだい」
「んー」
僕を抱きしめてベタベタ甘えてくるのはいつものことではあるのだが、腕がいつもよりずっしり重い気がするし、吐く息が心なしかため息混じりである。
お友達と、なにか気が向かない話をしてきたのだろうか。前にもこういうことはあったから。そのときはアードルフとサシャさんに僕を養えるのか詰められた、なんて言っていた。
しかしオルフェくんはこのとき何も話さなかった。僕を引き寄せたと同時にすやすや眠ってしまったからだ。ちょっと身動きが取りづらかったが、枕元の明かりを消して僕も眠りについた。
オルフェくんから感じるのは疲れている重い気配と、マテウスさんが出先で貰ってきたという上品な石鹸の香りと、もう深くなっている寝息だけ。
明日聞いてみようかと思った。僕は僕で疲れている。僕のミスで落馬してしまったのだ、よく考えなくてもあれはとても危ない行為だった。心配をかけるだろうが、黙っているのもなんだか座りが悪い。正直に言って、叱られて、反省せねば。
しかしここからの数日間、オルフェくんとゆっくり話す時間はついぞ取れなかった。彼の朝はいつも早く、僕より先に起きて、お店の支度をするため階下へすぐに降りてゆく。
僕はそのあとに起きてルート号のお世話をし、支度を整え、オルフェくんに見送られながら出立する。彼がすぐに戻らねばならないのはわかっているので、立ち話に付き合わせるわけにはいかないのだ。
繁忙期だから仕方ない。最初はそう思っていた。しかし、だんだんと話したいことが増えてゆくのに、そのための時間が全然取れやしない。
オルフェくんの朝の様子はいつも一緒だ。軽くキスをして『気をつけてな。いってらっしゃい』と声をかけてくれ、ルート号にも『カイをよろしく頼む』と声をかけて送り出してくれる。
しかし僕が帰ってくるころになると、すでに外出していることが多い。していなくても出迎えのあとは部屋に籠もり、なにやら忙しそうにしているのだ。
僕が部屋を訪ねると、笑顔で出迎えてはくれる。でも開いていた本を閉じた気配があったり、さりげなく手元は隠されている。何回かそういうことがあったため、さすがに悪いと思って部屋に行くのはやめた。
「あらカイくん、日傘つけたのかい。可愛いねえ! ケーキの柄だ!」
「えへへ、ありがとうございます。他にもオシャレなのはあったんですけど、なんかルートくんに似合いそうだなーと思ったらどうしても気になっちゃって」
「この子は羽根の色が淡いからねえ。よく似合ってるよ。ねえ、カイくん最近出ずっぱりだけど、疲れはちゃんと取れてるかい? 休みを取らせてもらうのは難しいのかい?」
「あ、休みは取ろうと思えば取れますけど、今見てる子がちょっと難しめな子で。少しでも一人立ち出来るまでは見ておきたいなーと思って」
半分嘘だ。ブラッキーくんが気になるのは本当のことだが、帰ってもオルフェくんと話せないとわかった途端、気持ちが沈んでしまうから。わざと、という意図もある。
そんなことは知らないであろうマウラさんの、いつとも変わりのない笑顔が眩しい。毎日元気に働いている人だが、彼女はもう孫がいるようなお年なのだ。心に負担はかけたくない。
まだそんなにトシじゃないよお、と笑われるだろうが、お孫さんの話や、時々遊びに来てくれるお孫さん本人と交流を楽しむマウラさんたちを見るたびに、僕の祖父のことが頭をよぎるのだ。
去年まではまっすぐだった背中が、次の年に会うと急に曲がっていることに気がついた。ほとんど寝転んでいる状態になるまでは、あっという間のことだった。
いつも何かしら作っていた畑は閉じて、知らない人のものになり。最後はホームに入り、それもあまり長くならなかったのは、良いことなのか悪いことなのか。
僕が故郷に戻れたとしても、もう本人に聞くことは絶対できない。祖父は骨だけ残してこの世を去った。お父さんに声がそっくりの、いつも落ち着いた佇まいの人だった。
『綺麗に生涯を閉じられた』と褒めてくれたのが誰だったのかは思い出せない。僕の親族の誰かなのか、お寺のお坊さんだったのか。
──────
「タピオさーん! なんかあそこで揉めてるっぽい。すんませんけど手伝ってもらえます?」
「うん。私は左に回る。君は右から」
「うわー! やばいやばい! 羽根が毟れちゃう! 喧嘩しないよ! こら!」
「……おしまい。帰るよ」
飛馬は基本的に、対魔獣戦の戦場にも連れて行けるような生き物だ。楽天的だが度胸がある。そして好戦的な側面もある。
ミュミュミュミュミュ!! というけたたましい鳴き声が聞こえたぞ、と思って見ると、二頭がすでに喧嘩していた。周りの飛馬はそれを止めるどころか集まり始めて見物し、やんややんやと盛り上がっている始末である。
男の子たちは『そこそこ! おもっきし蹴れよ!』『弱ぇーぞそんなんじゃ!』『砂で目潰ししろよ!』『おい、やられるぞ! さっさと立て!』と、野次を飛ばすのに忙しい。
女の子たちまで『キャー! 頑張ってー!』『もっと睨み効かせな!』『オメーはよー! それでもオスかコノヤロー!』と激を飛ばしている。うちのルートくんのほうが群を抜いておしとやかって一体どういうことなんだ。
突然治安の悪くなった馬場に駆けつけたタピオさんたちは、文字通りの野次馬たちの間をすり抜けて、素早く騒ぎの中心へ到達した。激しく動くせいでほどけてしまい、一緒になって暴れていた手綱を一発で捕らえ、中で一番騒いでいたそれぞれの飛馬が横方向へと揺らされた。
揺らす、といっても相手は魔獣。馬より一回りは大きく強い生き物である。ちょっと揺れたかな、くらいのものだったがそれで喧嘩はあっけなく止められた。
まだカポカポと蹄を鳴らして騒いでいた飛馬も静まり、いつも通りの穏やかな時が戻った。『もうおしまーい?』『ちぇー、つまんねー』という声が聞こえてきた気はしたが。
「びっくりしたでしょ。ごめんね、こいつ喧嘩っ早くてさあ。たまにこうなんの。危ないからそこ避けといてね!」
『聞いてくれよカイ。あいつさあ、オレがかけっこで勝ったのにさあ、鶏冠が出てたとかなんとか言ってぜってー負けを認めねーの。腹立つよなあ!』
「あー、そっか、そうだったんだね。それで怒ってたのか」
『おい!! 負けたのはおめーだろーが! グダグダ言ってんなよオスのくせしてよぉ!』
『はー!? おめーがズルしたんだろうがよ! 目ん玉突いてやろーかこのクソ野郎!!』
『あー!? やってみろや!! このヒヨコ野郎!!』
ヒヨコって悪口なんだ、と感心しながら同時に慌ててしまっていたが『なんだクラァ』『やんのかオラァ』と、またアウトレイジ化しかけている彼らをどうにか説得し、その場を収めようとはした。魔獣と話せる人間は唯一、僕だけなんだから。
しかし間近でキレる飛馬というのはあまり頻繁に見るものではなく、元々体高の高い飛馬がさらに自分を大きく見せるため、前脚を高く上げ羽根を広げるその姿はなんとも雄々しく勇ましく、本能的に怖い、と感じるものだった。
しかし、少し離れた位置で相手の飛馬の手綱を掴んでいたタピオさんは全く動じずに、短い一言をその場に落とした。他にやったことといえば、手綱を軽く何度か横に引く。たったそれだけ。
「……おしまい」
『…………はぁい』
『ふん…………』
一瞬にして場が凪いだ。さっきまでのは何だったんだと思うくらいに二頭とも大人しくなり、カポカポと蹄を鳴らして自分の馬房に帰ってゆく。
言葉が通じるわけではない。そういう芸当ができる人間は、僕の他にはいない。彼は背が高い方とはいえ、それだけが要因とはとても思えない。その仕事っぷりの秘密を聞いてみたい。一体どのようにして身につけたのか。
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犬耳のアードルフさんや三毛猫耳のサシャさん、猫のおねえさんたちにも絶対言えない。彼らはまだ僕がオルフェくんとお別れして、自分のところに嫁ぐことを諦めてくれていないから。
うんうんと話は聞いてくれるだろうが、結局は『じゃあうちにおいで』という勧誘話にすり替わってゆく。彼らは強引ではないし、悪意なんかも全くみられない。そんな彼らの心を弄ぶようなことはしたくないと思い、却って話しづらかった。
僕の話なんていい。今はタピオさんの話が聞きたい。しかし彼の声は突然大きくならないし、何度も聞き返すのは気が引けるので、そこは僕が工夫することにした。
屋根の下、音をなるべく反響させる壁が立っているところがいい。極力、室内であることが望ましい。日が落ちてくるころになると当直の人以外はみんな帰ってゆく。
よく話しかけてくれる彼らには悪いと思いはするのだが、その彼らがいなくなる時間がベストだろうと考えた。
霧鞘亭でのいつもの夕食の時間に間に合うギリギリまで居残って、静かになる時間に声をかけよう。そうやって彼に話を聞かせてもらうチャンスを狙って作っていた。
────────────────────
ちょっとお嬢さん、暗くなるころに二人きりですよ。やばくない?ねえねえ、やばくなーい??
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