人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

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63 値段の言えない贈り物

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「まだ早いけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとう! わあ、箱から可愛い。これ見たことある! ティリーさんのお店の箱だ!」

 藍地の上に並ぶ銀の繊細な模様たち。猫の顔を判子にし、銀色のインクをつけて等間隔に押していったような可愛いデザインだ。店主さんも猫耳の人なので、モチーフとして猫を選んだらしい。

 本当はもっと綺麗に飾る予定だった、というオルフェくんの気遣いにお礼を言いながら、さっそく箱を開けてみた。……あっ!! 指輪……あれ!? 

「えっ、これっ、すっごい綺麗!! ねえ、ほんとに石はついてないんだよね!? なんだろうこの輝き……不思議だなあ……ちなみにだけど、いくらした?」
「………………」

 あっ。これは追求しても無駄なやつ。耳で答えを言っちゃってるようなもんだけど。でもな、もう作ってしまったものだから。オーダーメイドだ。これは有り難く頂戴しよう。

 正直に言うと、僕は一目見た瞬間からこの指輪を大いに気に入ってしまった。もう手放すつもりは毛頭ない。さっそく薬指にはめてみようとしたら、オルフェくんがつけてくれた。他に誰もいないのに、なんだか気恥ずかしさがこみ上げる。

 僕は一応男として産まれ、男として育ったからか、装飾品の類に興味を持ったことは特になかった。しかしここに来てからはあれをつけてみろ、これをつけてみろ、とあれこれ飾られているうちに、嫌でも良し悪しがわかるようになってきた。

 そして後に出会ったラグーさんの奥さま。しましまグレーの猫耳がとっても可愛いティリーさん。彫金師として宝飾店で働いているという彼女は、審美眼のある人だった。

 そのときの流行を押さえているときも、あえての古いものを身に着けているときも、彼女が手にするものは全て一番素敵なものばかりだった。センスが良い。彼女は既製品の中から一番良いものを選ぶことも、創ることもできる人なのだ。

「可愛いし、オシャレだなー。ケーキの端っこを輪っかにしたみたい。生クリームを絞った形!」
「よくわかったな。去年のカイの誕生日のとき、作ったケーキがすごいとか綺麗だとか言って喜んでくれてただろ。あれを思い出して作った」

「こんな細いものなのに細工が精巧ですごいなあ。クリームのミニチュアだ。素敵だねえ。でも何度もティリーさんにダメ出しされたんだっけ?」
「……最初は、カイは飛馬に乗ってるからそれをそのまんま絵に描いてみてたけど、布という布がひっかかるだろとか、ダサいとか、古臭いとか、絵が下手だとか散々言われた」

 だ、ダサい。表現が直すぎる。彼女はモノの良し悪しがひと一倍わかる人。真剣になればなるほどダメなものはダメだと言いたくなるのだろう。まるで先生というか親方だ。親方というのは古今東西、弟子に厳しくあたるものなのだ。

 白金で作られた筋がいくつもあるこの指輪。必然的に断面が増える形である。面のひとつひとつが光を吸い込むように集め、反射し、辺りをキラキラ照らしている。

 最初はてっきり石が並べられているのだと思った。これ絶対高いやつ、と触るのも怖いと躊躇したが、貴石の類ではなく鳳凰金と雪鷺せつろ銀の合金というものらしい。

 とにかく火を入れるほどに硬くなり、燦然と輝くようになるという。魔力伝導率が高く、魔道具や魔術師さんが使うアイテムによく使われているそうだ。

「これは細いけど一見、豪華な石つきに見えるだろ。ルート号と一緒にいることが前提になるが、そんな貴族が身につけるようなものを持った相手に、気軽に声をかけるような馬鹿はいない。……よほどの馬鹿ならあり得るか?」
「あはは、そもそもルートくんがいれば変な人は寄ってこないから。でもありがとう。あーでもな、来年のオルフェくんのお誕生日はどうしよう。基準が上がっちゃったなー」

 今年のオルフェくんの誕生日は、彼がよく着ていたシャツと同型のものにした。着心地が一番いいやつだから、という理由で着すぎてボロボロになり始めていたから。

 まだ着られる、なんて言うので同じものを僕がプレゼントにするから、といってやっと処分することに同意してもらった。元々が古着だったらしいし、繕うにしても限界があると思うから。

 しかしそこからが大変だった。探しても探しても、同じものが見つからなかった。適当なものでいいのにと言われてしまったが、確かに何度も着たくなるであろうあの柔らかな肌触りのシャツと同じものを彼に着てほしかったのだ。

 それでついにルートくんを連れて王都へ行った。丸一日かけたプレゼント捜索の旅である。この素材は何ですか、同じサイズで同じ素材のものはありますかと、店という店をはしごして、最終的に見つかったのはかなりお高い服飾店だった。

 白雲綿という、あの僕を拘束した曰く付きの素材だが、それにもランクというものが存在する。最高ランクの白雲綿。新品で店頭に吊るしてあったその服は、店員さんのセールストークも不要なほどのとろけるような肌触りだった。まるで赤ちゃんのほっぺたのような布肌で出来た。

 オルフェくんは無意識に選んでいるのかもしれないが、触覚のセンスはかなりいいな、なんてことを思いながらホクホクで帰宅したものだ。いざ手渡したとき、僕と同じようにこれは高かったんじゃないかと問われたが、僕も彼と同じように黙秘権を行使した。

「……本当に、なにもなくていいんだ。とにかく無事に帰ってきてくれればそれで」
「とかいって、すぐあれもこれも買おうとしちゃうでしょ。止めるのも大変なんだよ。来年からは平民らしく質素にしようか。いいものを一度贈り合ってるからね」

「ん? 贈り物をし始めたのはカイの誕生日からで、ケーキが食べたいって言うから俺が作って……次は俺の今年の誕生日で……あの服やっぱり高かったんじゃないか。さては、これと遜色ないくらいだな」
「さあねー。知りたかったらオルフェくんから値段を教えてよー」

「………………」

 結局教えてくれないんじゃーん、と顔を向けたら、間髪入れずにキスで口を塞がれた。君、こうしとけば面倒なことになってもどうにかなると思ってるとこあるでしょう。僕はとっくに気づいてるよ。バレバレだよ。

 しばらくごろごろしていたら、とろりと甘い眠気がやってきた。今日はこういう日にしよう。いろいろと頑張るのはまた明日から……



「なあ、カイ。昨日、他の人じゃ嫌だって言ってたよな。他、っていうのは具体的に誰のことを指してるんだ」

 ……相変わらず、こういうことへの嗅覚は抜群にいい人だよなあ。いや、聴覚か。彼は耳が良い。地獄耳とも言えるかも。

「五人いた」
「……五人?」

「僕にお誘いをかけてきた人。五人いた」
「五人!? ……誰だよそれは!」

「トースさんと、ポルトさんと、ラミーさんと、タピオさんと、ブラッキーくん」
「だから、誰なんだって! 俺より若い奴か!? 年上の落ち着いた男か!?」

 君はなぜ年齢をそんなに気にするのだ。僕がおかしいくらい若く見えるせいなのか。霧鞘亭にいるときはそれが当たり前なので、誰もなにも気にしたりしないのだが、外へ出たときに僕の夫です、と紹介すると大体みんなびっくりする。

 オルフェくんが犯罪者扱いされる前にと思って、僕のほうが年上です、と言うとさらに驚かれる。だから最近は紹介をする前に、住民証を取り出してから話すのだ。結局びっくりされることには変わりないが。主に僕の年齢のことで。

「多分、みんな僕と似たようなもんだよ。もちろん全員お断りした」
「……当たり前だろ! 油断も隙もない」

「隙はできてたかもなあ。ほら、ほっとかれて淋しかったからあ」
「…………すまん」

「いいんだよ。だって僕、淋しいよーって言わなかった。言わないのにああしてくれない、こうしてくれないって思うのはおかしいよ。動物も鳴き声で気持ちを表現するのにさ、たくさんの言葉を使える人間が、黙って相手に察しろなんて求めるのは妙な話だよ」
「でも…………俺は目的があると、結構突っ走ってしまうところがあって」

 まあ、それは確かにそうだよね。君はなにかやりたいことがあるときは一直線だ。ヤリたいときも同じである。こんな小さい子にどうしよう、なんて言いながら手は別の動きを見せていたもんなあ。

「それは長所にもなるからいいんだよ。オルフェウスという人の大事な特徴だから。もしそれがなかったら僕、さっさとここを出ちゃって、タ、他の男の人とかと──」
「そいつか。タピオとかいう。カイに匂いをつけた男だろ」

 いやもう、感心するしかないんだけど。なんで君はそういうことだけ的確に当ててくるんだよ。さっき一回言ったきりの名前を全員分覚えて、頭文字で検索したのか。なんて優秀な検索エンジン。感心を通り越して尊敬するよ。

 いい? 僕は君のものなんだからね、僕に触る権利は君しか持っていないわけ。僕にキスをするのも、いやらしいことをするために服を脱がせられるのも君だけなんだから。ちなみに僕も君だけを対象にしたその権利を所有してるからね、わかった? と言い聞かせてから話を続けた。

 彼は、うん、うん、と素直に僕の話を聞いてくれた。前置きがちょっと長すぎて喉が渇いたので、いったんお茶の支度をしてからだ。


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