人に好かれない僕が獣人の国に転移したらおかしいくらいモテた話

清田いい鳥

文字の大きさ
64 / 68

64 嫉妬は確定事項

しおりを挟む
「僕も子育てしてたんだよ。その子はブラッキーくんっていうんだけど」

 クッションでさらにふかふかにしたソファーにもたれかかりながら、僕は思い出にするにはまだ早い話をした。

 人間育ちの飛馬ブラッキーくん。なんとなくで空を飛ぶことはできても、降りる方法がわからなかった。

 それをなんとかしようと無茶をして、上空から落ちかけた。そのとき救ってくれた命の恩人。彼はとても静かな人で、騒がしいところで声を聞き取るのは至難の技だった。

 しかし彼はそんな風でありながら、その調教施設での長だった。間近で暴れかける体躯の大きなあの魔獣を、『おしまい』のたった一言で黙らせられる。

 勝手に淋しさを募らせていた僕は、気を紛らわすためにあそこに通っていたようなものだ。彼に頼りすぎてしまったし、仲良くなりすぎてしまったと思う。

「一歩踏み出されかけたときに思った。オルフェくんの代わりは誰にもできないなって。あと、君が自分からよく関わってくれるからって、それに甘えてばっかりなのは違うと思った」
「……まあでも、無理はしなくていい。俺も無理は特にしていない。好きなときに好きなようにしてほしいとは思う。何も気を使うことなくいてほしいけど、油断はするなよ。この匂いは自在に操れないだろ」

「自分じゃわからないんだよね。あそこの飛馬たちにも散々くんくん嗅がれたよ。あっ、ブラッキーくんがさあ、他のお仕事があるからしばらくバイバイだよって言ったらすっごい慌ててさあ、カイとけっこんする! およめさんになって! なって! って言っててさあ、すっごく可愛──」
「だめだ」

 子供の言う事なのにさあ。そこは一緒に可愛いね、って言ってくれないか。ちょっと耳が伏せたのでつついたら『刺激しないでくれ』と、手を握られた。お茶が飲めないよ。

「いつか子供を育てるつもりなんでしょ。みんな一度は言うらしいよ、お父さんと結婚するー、お母さんと結婚するーって。オルフェくん、そのときは嫉妬し──」
「無理だ」

「もー。また即答してー」
「そうだ、子供と言えばだ。ラグーがどうせまた子供が産まれるだろうし、そのときは育ててくれって言ってた。いいか?」

「えっ!? そんな、もうそういう話してるの!? 気が早くない……??」

 なにが? という顔をしたオルフェくんはすぐにハッとなにかに気がついたような顔をして『そうだった、カイは人間の子だったな』と、当たり前のことを言い出した。僕に毛の生えた耳はないですよ。もう髪に隠れて見えませんが。

「獣人っていっても動物や魔獣とは違うから、必ずポンポン産まれるわけじゃない。でも当たるときはよく当たる。あそこはほとんど夫婦二人で家庭を回してるから、産まれすぎたら回らなくなる。そのために養子に出す。必ず誰かが貰うし、子供を通して家族が増えるだけって認識だ。人間はそのへん少し違うんだろ?」

 すごい、これぞ異世界である。道徳観念は大体一緒な気がしていたが、ごくたまにこういう違いが見つかるのだ。

 僕の故郷では養子は可哀想、バレたら厄介、なんて悪いことではなくむしろ良いことのはずなのに、暗い印象がやたらある。でもこちらは違う。それは男女の比率が偏っている、という情を排した理由もある程度は関わってくる。

「僕の故郷もさあ。ずっと昔はここの常識に近かったみたいだよ。まず大人から閨のお作法を教わって、それから子供ができることをしてよくなるんだ。発情期がないから清廉樹祭はないけど、その地域ごとの許可制になってるの。それで子供ができたらお祝いされて、お母さんになる人がお父さんを選ぶ。順序が逆になってるの」
「へえ、俺たちが学校や家で教わることを地域ごとに口伝でやってたわけか。もしかしたらここでも昔はそうだったかもな。学校がなかった頃なんかに」

「ねえ、避妊法も習うってほんと?」
「習うぞ。そりゃそうだ、稼げもしないうちから父親にはなれない」

 こうやって、僕のかつての常識とピントが合う瞬間もある。わかる、なんて思ってしまう。常識を叩き込まれた大人になったあとから触れる、別の国の常識。いちいちそれに驚いたり、妙だと感じたり。僕は思っていたより頭が固い方かもしれない。

 でも、血がつながっていようがいまいが、みんなで育てるのは良いことだなと思っている。笑っても泣いてもうるさく可愛い子供たちには、みんなで関わるほうがいい。

「でもなー。僕の仕事って基本的には出張でしょ。休みはしっかりあるけどさ、夜にいないことなんか珍しくないよ」
「俺がいるだろ。母さんも父さんも、おばさんたちもいるし。それでも手が回らなければ近所の人に頼めばいい」

「うーん、やっぱり僕の感覚からすると申し訳ないし、僕のこと忘れちゃうんじゃないかなあ。たまに来るおじさんだと思われたらどうしよう」
「人間の子はそうなのか? そんなの聞いたこともない。必ず親が誰かは覚えるぞ。匂いでちゃんとわかるから」

「そっか! そ…………ねえ、オルフェくん、すっごい変なこと聞くようだけど、僕の匂いって、は、発情期の匂いに近いんだよね……? 子供は養子で血縁じゃないし、大きくなったら、その……」
「ああ、なにを心配してるかわかった。その匂いは魔力に関係してる可能性があるし、ずっと子供のころから触れたり嗅いだりしていれば親として認識する。番う相手としては見なくなる。そういうもんなんだ」

 オルフェくんは本当に変なことを聞くよな、と思っているのがよく伝わってくる顔をして、『俺が子供じゃなくてよかったよ』なんて言いながら僕をぐいっと膝の間に抱え寄せ、襟足の髪を掬い分け、首筋をペロペロと舐めはじめてしまった。

 うひぃ、僕それ、いまだに慣れないよ。何度されてもゾクゾクしてくるし、首が勝手に反ってきちゃうんだよ。あと、わりと最初っから変なところに手を回されて、刺激されて、そのあと徐々にそういうことになってたから、その、条件反射として……

「……オルフェくん、いたい」
「えっ、どこだ? すまん、この跡か? ヒリヒリする? 大丈夫か?」

「ち、ちがう……、ここが痛くなる……」
「……ああ。じゃあもう一回」

「できない!! もう今日は無理、なんにも出な、こら、ダメだって!! あ、やだっ、やっ、ダメダメダメー!!」

 しばらくほっといたら収まるから、と言ったのにしつこく股間を狙ってくるオルフェくんを叱り、マウラさんの元気な『ごはんだよー!!』に助けられ。大変な夜と長い会話を経て、いつもの日常に戻ってきた。

 お昼ご飯中に、ティリーさんにもお礼を言いに行きたいと言うと『じゃあ明日行くか』と、即決定した。霧鞘亭の繁忙期は過ぎて僕もしばらく休暇なので、出かける用事を済ませるなら今がチャンスなのだ。



 ──────



 結果から言うと、この訪問は面白いものになった。それに、たっちしているテディくんはとってもとっても可愛いかった。まだお話はできないが、カイですよーと自己紹介をすると『う?』というお返事らしき澄んだ柔らかな声を聞けた。それだけでもすごくキュンときてたまらなかった。

「ごめんねー、指を食べちゃうから常にベトベトでー」
「いいんですよ。あはは、ちっちゃい手が湿ってるー。ん? 抱っこ?」

「そうなるだろうと思った。いい匂いのおねえさんが来たと思ってテンション上がってるな」
「いいよー。おいでー。わあ、軽い! いつまでも抱っこできるー」

『帰るときが大変そうだな』という予告をしたオルフェくんはなんだかムスッとした顔だ。さてはテディくんへの嫉妬というより、散々お世話をしたのに自分の方に来てくれないことに不満を持っているんだな。

 目新しい人が気になるんだよ、と言おうとしたらラグーさんが『まあ元気出せよ』とオルフェくんに声をかけた。オルフェくんは『うるせえ』と反発していたが。

 すごい。人って変わるもんだなあ。前はこいつの顔など見たくないという雰囲気を隠そうともしない感じだったのに、二人ともここにいてさも当然、のような雰囲気に劇的変化を遂げている。

 僕の腕の中で指をしゃぶっている、小さい三角耳の子のおかげである。いずれ子供がたくさん産まれたら、この子の弟か妹がうちに来てくれるかもしれないのだ。そしたらみんなひとつなぎの家族になるわけだ。

 すごい世界だなあ、となんだか感動していたら『それじゃあお茶にしましょうねー』とティリーさんが中に案内してくれた。さあ、楽しいお茶会のはじまりはじまり。



しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...